1 ITがマクロ経済に与える影響 1995年〜99年の実質経済成長におけるIT資本の寄与率は100%超  我が国におけるIT資本ストックの蓄積は、1980年代における汎用コンピュータ、EDI・POS等の業務システム導入にともない着実に進展した。1990年代前半にはバブル崩壊による企業の投資抑制の影響を受け一度は伸び悩んだが、1990年代後半に入り再度その伸びは拡大に転じている(図表1))。米国では商務省が公表している「Digital Economy 2000」等において、1990年代における景気拡大にITが大きく貢献していたとの指摘がなされているが、我が国においても、ITが企業の生産性向上等を通じ、経済新生の牽引役となることが期待されている。  そこで、IT資本、一般資本(ITを除く資本)、労働を生産要素とする生産関数(注1)を用いて、1985年以降に各生産要素がどの程度経済成長を押し上げているか(寄与度(注2))を推計したところ、結果は図表2)のとおりとなった。まず、我が国全体の実質経済成長率をみると、1985年〜90年における我が国経済はバブル期にあり4.91%と高い伸びを示している一方、1990年代の成長率は1%台前半にとどまっている。次に経済成長を生産要素ごとに要因分解し、IT資本の寄与度をみたところ、1985年〜90年にかけては2.24%実質経済成長率を押し上げており、以降1990年〜95年に0.64%と一旦落ち込んだものの、1995年〜99年には1.23%と実質経済成長率の引き上げ幅が大きくなっていることが分かる(図表2))。また、我が国全体の実質経済成長率におけるIT資本の効果が占める割合(寄与率)をみると、1985年〜95年にかけておおむね45%と安定していたのに対し、1995年〜99年におけるIT資本の寄与率は100.8%と2倍以上にまで急速に高まっており、IT資本が同期間における経済成長の牽引役となっていることが分かる(図表3))。 図表1) IT資本ストックの推移 図表2) 我が国における経済成長の要因分解 図表3) 経済成長に対する寄与率   (注1)生産関数の推計について IT資本、一般資本(ITを除く資本)、労働を生産要素とした一次同次のコブ・ダグラス型生産関数を仮定する。 ここで、α+β+γ=1として、両辺について対数をとると下式を得る。 上記式について系列相関を補正した最尤法等によりパラメータを特定した。結果は以下のとおり。 推計期間:1978年〜1999年、( )内はt値 なお、使用統計は Y: 実質GDP 「国民経済計算年報」(経済企画庁(現内閣府)) K1:一般資本(ITを除く資本) 「民間企業資本ストック」(経済企画庁(現内閣府))及び「製造設備稼働率指数」(通商産業省(現経済産業省))から別途推計 K2:IT資本 別途推計(推計方法は第2章第1節6参照) L: 労働投入量(人・時間) 「労働力基本調査」(労働省(現厚生労働省)) を用いた。 (注2)ITの経済成長に対する寄与度  パソコン等のIT関連機器やソフトウェアの普及が企業の生産効率改善を促した結果として、経済成長がどの程度押し上げられているのかを計量したもの。具体的には、企業内LANの導入にともない社内の情報共有化が進むことで、既存の生産設備や人員でより多くの生産を実現し、企業における付加価値の総和であるGDPの拡大に貢献することなどが例として考えられる。