3 知的財産権の保護と利用者の意識 −複製が容易なデジタルコンテンツにより複雑化する著作権問題 (1)デジタルコンテンツの複製問題  デジタルコンテンツは容易に複製が可能であり、しかも複製による劣化がほとんどないことから、コピープロテクト等の問題は今までもたびたび議論の対象となってきた。現在では、PtoP(Peer to Peer)によるファイル交換システムや音楽CDの違法コピー等、インターネットの普及やパソコンの高性能化等により顕在化した著作権等の侵害が問題となってきている。 1)ファイル交換システム  PtoPとは、クライアント・サーバー型のシステムのように一つのサーバーに集められたデータを複数の端末から引き出すのではなく、パソコン等の端末間で直接データ交換を行うシステムを指す。このPtoPを実現するソフトウェアとしてはファイル交換システムが代表的であり、このソフトウェアを用いると、インターネット上の多数の端末間で、サーバーの負荷を気にすることなく簡便に電子ファイルを交換することが可能となるなど、利便性の向上が図られる。ところが、ファイル交換システムを利用することにより、インターネット利用者がインターネット上の多数の人々から無料で電子ファイルを入手することが可能となるため、このようなサービスの提供が著作権者等の権利の侵害につながっているのではないかという議論がなされている。  特に裁判で争われたものとして有名なのは、音楽ファイル交換システムとして極めて多くの利用者を集めた「Napster」社に対して、2000年7月米国連邦地裁が同社のサービス停止の仮処分命令を下した判決である。同社は連邦控裁に控訴したが、2001年2月、連邦控裁もこのサービスが著作権侵害に当たると認定し、同年3月には連邦地裁が同社に対し、レコード会社等の原告側が著作権侵害の被害を明示した曲についてサービス停止を命じる仮処分を決定し、原告・被告双方ともこれを受け入れた。同様のPtoPソフトによるサービスは我が国においても提供されていたが、平成14年1月、日本音楽著作権協会(JASRAC)と大手レコード会社19社は、ファイル交換サービスの提供者に対し、市販の音楽CDから作成したMP3形式の音楽ファイルの提供差し止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申請、同地裁は平成14年4月これらを禁じる仮処分命令を下している(注)。  「ITと国民生活に関する調査分析」によると、このようなPtoPソフトの存在を知っている人は66.0%となっており、さらに、これらを実際に利用したことがある人も11.6%と1割を超えている(図表1))。また、PtoPソフトによる音楽ファイル交換を行いたいと回答した人は39.5%と4割近くに上り、「著作権者の同意が得られている場合のみ利用したい」の29.7%を上回っている(図表2))。 2)パソコンによる音楽CDの複製  また、CDを自分で作成することのできるCD-Rの普及により、パソコンを利用して音楽CDを複製することも容易になっており、平成14年3月、日本において初めてパソコンによる複製が極めて困難なコピーコントロールCDが発売された。このCDでは、Midbar Tech社(イスラエル)が開発したCactus Data Shieldという方式を用いており、通常のCDプレーヤでの再生やカセットテープ等のアナログ機器への録音などは可能だが、パソコンのハードディスクへの保存やCD-Rへの記録、MP3のエンコーディングが不可能となっている。欧米ではこうしたコピーコントロールCDは既に発売されており、日本においても、音楽業界などによる複製に対する自衛策として、今後このような動きが加速するものとみられる。 (2)著作権に対するインターネット利用者の意識  著作権は、著作者の利益を保護し、他のものによる著作物の複製等を制限する権利である。他方、著作権法は、著作物の公正で円滑な利用を促し、文化発展への寄与を目的として、一定の範囲内での権利の制限も規定している。すなわち、著作者の権利を保護することで著作者の創作意欲を維持することと、他のものによる著作物の利用の自由を保持し、コンテンツ等の円滑な流通を促すことの双方を、バランスよく保つことで文化の発展等を促すことが可能となる。  しかしながら、現在ではインターネットの普及等により、複製が容易なデジタルデータが広範に流通しているため、問題が生じてきていることは上述のとおりである。「ITと国民生活に関する調査分析」によれば、インターネット利用者に対して著作権に対する意識としては、40.3%の人が「著作権者の権利保護を優先すべき」と回答しており、最も多い回答となっているものの、「利用者の便益を優先すべき」と回答した人が27.5%となっている(図表3))。今後、著作権者の権利の保護と利用者の利便性を両立し、利用者の著作権に対する認識を深めるとともに、コンテンツの流通を促進させるルール作りが重要となってきているといえる。 図表1) PtoPソフトウェアの認知状況と利用経験 図表2) PtoPソフトウェアによる音楽ファイル交換の利用意向 図表3) 著作権に関する考え (注)オランダでは、2002年3月、交換システムを提供している企業側に、その技術の利用方法の責任は問えないとの司法判断がなされている