15 宇宙通信の高度化 −宇宙と地上のネットワークが調和したIT社会の形成に向けて (1)高度情報通信ネットワーク社会の形成に向けた宇宙通信の在り方  宇宙通信は、広域性、同報性、耐災害性など多くの特長を有しており、これまで通信、放送、測位等の分野において幅広く利用され、国民生活の向上に貢献してきている。総務省では、今後急速に整備・高度化される情報通信インフラの中で宇宙通信が果たすべき役割を明確化するとともに、今後必要とされる宇宙通信を実現するための技術的課題や研究開発体制を検討するため、平成13年5月から「高度情報通信ネットワーク社会の形成に向けた宇宙通信の在り方に関する研究会」を開催し、14年2月には報告書がまとめられたところである。  報告書においては、高度情報通信ネットワーク社会形成に向けて、超高速インターネット衛星、準天頂衛星システム及びその他の基盤技術に係る衛星開発プロジェクトを推進すべき旨が提言されている。また、超高速インターネット衛星の実用化により、大容量コンテンツの超高速マルチキャスト配信、国際広帯域インターネット網の柔軟な整備等が、準天頂衛星システムの実用化により、面積カバー率100%の移動通信サービス、高精度測位サービス等がそれぞれ期待されるとしている。さらに、これらの衛星開発プロジェクトを円滑に推進するため、高度IT利用推進のための国際共同実験の推進、新たな研究開発手法の確立、地球局コストの低廉化に向けた標準化活動、ITUにおける周波数・軌道の確保に向けた活動等も併せて実施することが必要である旨も提言されている。 (2)超高速インターネット衛星の研究開発  総務省では、文部科学省と連携し、広域性、同報性、耐災害性等といった衛星の特長を積極的に活用した地上のインターネット網と相互補完する超高速衛星通信技術の確立、アジア・太平洋地域諸国との国際共同実験の実施等を目的として超高速インターネット衛星(WINDS:Wideband Inter Networking testand Demonstration Satellite)の研究開発を推進している。衛星打上げは平成17年を想定している(図表1))。  平成13年3月に決定された「e-Japan重点計画」においても、「無線による広範囲の超高速アクセスを可能とする技術を実用化する。無線超高速の固定用国際ネットワークを構築するため、2005年までに超高速インターネット衛星を打ち上げて実証実験を行い、2010年を目途に実用化する。」と記載されている。これを踏まえ、独立行政法人通信総合研究所においては、平成14年度も13年度に引き続いて、衛星搭載ルータの開発、衛星を利用したインターネットに最適な伝送方式の研究開発、地上系ネットワークとの相互補完に必要なシステム技術の研究開発等を実施する。また、研究開発成果の早期展開を図るため、事業者・メーカー等とともに、超高速衛星インターネットの実現に向けた最適な通信プロトコルの標準化を目指した検討作業を進めている。 (3)移動体衛星通信技術の総合的な研究開発  総務省では、静止衛星や周回衛星等を用いた移動体衛星通信技術の研究開発を総合的に推進している。静止衛星については、移動体に対する高速データ通信サービス、コンパクトディスク並みの高品質音声放送等を実現するため、技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)の研究開発を文部科学省と連携して推進している。ETS-VIIIは、13m級大型展開アンテナ、高出力中継器、フェーズドアレイ給電部、衛星搭載交換機、高精度時刻基準装置などを搭載し、H-IIAロケットにより平成16年度に打上げの予定である(図表2))。  また、周回衛星については、世界中のどこでも、携帯端末による動画像等の通信を可能とするため、通信・放送機構の直轄研究として川崎次世代LEOリサーチセンターを開設して、グローバルマルチメディア移動体衛星通信技術の研究開発を行っている。現在、光衛星間通信技術、アンテナ技術等の要素技術の研究開発、各種機器の試作試験を実施している。  さらに、静止軌道が近年ひっ迫してきていることから、新たな軌道を開拓するとともに、高仰角・高品質な移動体衛星通信等の実現を目的として、平成11年度から準天頂衛星通信システム(8の字衛星)の研究開発を、独立行政法人通信総合研究所において推進している。現在、静止衛星との周波数共用技術、衛星アンテナ技術、測位応用を目指した正確な軌道位置計測技術の研究開発を実施している(図表3))。 図表1) 超高速インターネット衛星通信システム概念図 図表2) ETS-VIIIを利用した実証実験のイメージ 図表3) 準天頂衛星通信システム(8の字衛星)のイメージ