(2)企業のICT利用と業務・組織改革の効果に関する日米比較 ア ICTシステム導入及び業務・組織改革とそれによる効果  ICTシステム導入及び業務・組織改革の状況とそれによる効果について、日米で比較を行うため、日本と米国の同規模・同業種から同数の企業を抽出し、アンケート調査を行った。 (ア)ICTシステム導入  ICTシステム導入状況について比較すると、「取引先との受発注の電子化」や「グループウェア」については日本企業の導入割合が高くなっているが、その他のICTシステムについてはいずれも米国企業の導入割合が高くなっている。とりわけ米国の方が導入割合が高くなっているのは「顧客・市場のニーズ把握」や「コールセンターでの顧客対応」といったマーケティング・商品開発業務である。このことから、日本企業は業務の効率化に関する分野でのICTシステム導入が中心であり、米国企業に比べて、市場・顧客等との関係で付加価値を高める分野でのICTの利用が遅れていることが分かる(図表1-2-195)。 図表1-2-195 日米企業におけるICTシステムの導入状況 (イ)業務・組織改革  業務・組織改革の実施状況を比較すると、いずれの項目においても米国企業の実施割合が高くなっており、日本企業は、米国企業に比べ、業務・組織改革に積極的ではないことが分かる。また、「社内基幹業務を合理化した」や「基幹業務の進捗をリアルタイムで把握」といった組織構造の見直しを伴わない業務処理の改善に関する項目については日米であまり差はなく、他方、「決裁権限を現場近くにおろし、分権化した」、「シェアドサービスなど、管理業務の集約を行った」、「社内の情報伝達・周知プロセスの階層を減らした」といった項目については、日本と米国企業の実施割合の差は特に大きくなっており、日本企業は、組織構造の見直しを伴うような抜本的な業務・組織改革には特に消極的であることが分かる(図表1-2-196)。 図表1-2-196 日米企業における業務・組織改革の実施状況 (ウ)ICTシステム導入と業務・組織改革による効果  ICTシステム導入と業務・組織改革による効果について比較すると、いずれの項目においても、米国の方が変化があったと回答した企業の割合が高くなっている。日米の差の大きさに着目すると、マーケティング・新商品開発業務の「新商品の企画件数が増加した」、「新商品の企画から投入までの期間が短縮された」といった項目や、「社内の意思決定が速くなった」、「社員の本来業務にかけることのできる時間が増加した」といった社員における付加価値向上に関する項目において特に日米の差が大きく、一方、「間接部門の人件費が削減された」、「基幹業務の人件費が削減された」、「基幹業務のコスト(人件費以外)が削減された」といったコスト削減に関する項目は、比較的差が小さい。したがって、日本企業は、ICTシステム導入と業務・組織改革による効果としては、業務の効率化によるコスト削減中心であり、米国企業に比べて、付加価値向上に結びつくような効果は生まれていないと考えられる(図表1-2-197)。 図表1-2-197 日米企業におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施の効果 イ ICTシステムのマネジメント (ア)売上高に対するICT投資の比率  売上高に対するICT投資の比率を日本企業と米国企業で比較すると、日本企業は米国企業に比べて対売上高ICT投資比率が低い企業が多い傾向にあることが分かる(図表1-2-198)。 図表1-2-198 日米企業における対売上高ICT投資比率  業種横断的に対売上高ICT投資比率を見ると、日本ではICT投資が売上高の0.5%未満と回答した企業は約30%となっており、0.5%以上1.0%未満と回答した企業を合わせると、その割合は約50%となる。一方、米国では0.5%未満という回答は約20%、0.5%以上1.0%未満という回答を合わせても約35%にとどまっている。  業種別に見ると、日本では、金融業において対売上高ICT投資比率の高い企業の割合が製造業と流通業に比べて高く、製造業と流通業における対売上高ICT投資比率に関する企業割合の分布はほぼ同傾向となっているのに対し、米国では製造業、流通業、金融業の順に対売上高ICT投資比率の低い企業の割合が高くなっている。それぞれの業種ごとに日米で比較すると、金融業については、対売上高ICT投資比率が4.0%以上の企業の割合は日本の方が若干上回っているが、製造業と流通業ではいずれも日本の方が小さい。  このような日本企業と米国企業の対売上高ICT投資比率の違いは、先に見たICTシステム導入状況の違いとして表れているものと考えられる。 (イ)ICT投資ポートフォリオの構成  日本企業において規模別で見たICT投資ポートフォリオを、日米で比較すると、日本では、製造業、流通業、金融業のいずれの業種においても、米国に比べて「業務処理系」に区分されるICT投資の比率が高いのに対し、米国では「市場・顧客系」や「インフラ系」に区分されるICT投資の比率が高い傾向があることが分かる(図表1-2-199)。 図表1-2-199 日米企業におけるICT投資ポートフォリオ  前述のとおり、日本企業は、米国企業に比べて市場・顧客等との関係で付加価値を高める分野でのICT利用が遅れており、また、ICTシステム導入や業務・組織改革による効果としても、付加価値向上に結び付くような効果が低い傾向にある。このような日米の違いは、ICT投資ポートフォリオの面から見ると、日本企業が「業務処理系」を特に重視している点に起因するものと考えることができる。 (ウ)マネジメント体制とプロセス整備  日本企業と米国企業におけるICTシステムに関するマネジメント体制とプロセス整備の状況を見ると、ICTに関するマネジメント体制について、情報通信システム専門部署等の設置については日米でそれほど大きな違いは見られなかったが、CIOを設置していると回答した企業の割合は、日本よりも米国のほうが顕著に高く、この点では、ICT投資のマネジメント体制が日米で大きく異なっていることが分かる(図表1-2-200)。 図表1-2-200 日米企業におけるICTマネジメント体制  また、ICTに関するマネジメント・プロセスについては、日本企業は計画段階を重視しているのに対し、米国企業は評価段階を重視しているという違いがある。例えば、米国企業は事前評価プロセス、投資に関するマネジメントガイドライン、投資効果の評価を行うルール等に関してマネジメント・プロセスの整備が進んでいるのに対し、日本企業は、経営戦略・中期計画の充実、組織の役割分担の明確化等に関してマネジメント・プロセスの整備が進んでいる(図表1-2-201)。 図表1-2-201 日米企業におけるICTマネジメント・プロセスの整備状況