(3)企業のICT利用による生産性向上  ここでは、我が国の企業におけるICTの利用が、生産性の向上に貢献しているかについて分析する。以下では、企業のICTの利用状況を、ICT化の進展、ICT利用環境の整備及びICTに関する組織的取組の3つの点からとらえ、それぞれの状況と生産性63との関係を見る。 ア ICT化の進展と生産性  企業のインターネット利用について見ると、平成18年末時点においてインターネットを利用していない企業は約1%に過ぎず、ほとんどの企業において利用されている(図表1-2-202)。また、企業内又は企業間の通信網の構築状況を見ると、いずれも構築している企業の割合は既に約6割にまで達している一方、いずれも構築していない企業の割合は10%に満たない(図表1-2-203)。さらに、ネットワークカメラやセンサー、非接触型ICカード、位置情報機能、電子タグといったユビキタス関連ツールについても、多くの企業で導入が進んでおり、いずれかのユビキタス関連ツールを導入している企業の割合は約30%となっている(図表1-2-204)。 図表1-2-202 インターネットの利用状況 図表1-2-203 企業通信網の構築状況 図表1-2-204 ユビキタス関連ツールの導入状況  上記のICT化の進展状況と生産性の関係を見ると、企業のICT化は生産性向上にとって重要な要素となっていることがわかる。まず、企業内又は企業間の通信網の構築状況について見ると、いずれも構築している企業、いずれかを構築している企業、いずれも構築していない企業の生産性は、全体を100とするとそれぞれ112.0、93.1、58.6と、構築が進展しているほど生産性が高い(図表1-2-205)。また、ユビキタス関連ツールの導入状況について見ると、いずれかのツールを導入している企業の方が生産性は高い。企業通信網の構築とユビキタス関連ツールの導入は企業の生産性向上に有効であることがうかがえる(図表1-2-205)。 図表1-2-205 ICT化の進展状況と生産性との関係 イ ICT利用環境の整備と生産性  多くの企業でICTの導入が進んだ現状においては、次の段階として、企業の従業員がどのような環境でICTを利用しているかが重要となると考えられる。そこでまず、ICT利用環境の進展状況について、通信網又はインターネットへの接続端末の配備状況を見ると、約40%の企業で1人に1台の配備であるのに対し、5人以上で1台の配備又は配備していないとしている企業も約20%ある(図表1-2-206)。一方、パソコン又は携帯端末による社外から企業通信網への接続可否の状況について見ると、現在接続が可能な企業の割合は50%を超えているが、現在接続不可能で今後接続する予定のない企業の割合も36.2%と、4割近くを占めている(図表1-2-207)。 図表1-2-206 企業通信網又はインターネット端末一台当たりの利用人数 図表1-2-207 パソコン又は携帯電話・携帯情報端末(PDA)による社外から企業通信網への接続の可否  上記のICT利用環境の整備状況と生産性の関係を見ると、利用環境の整備が進展している方が生産性は高い。社外から企業通信網に接続できる企業と接続できない企業の生産性は、全体を100とするとそれぞれ112.2、87.2となっており、3割近い差となっている(図表1-2-208)。また、企業通信網又はインターネットへの接続端末の台数の違いで見ると、1人に1台以上の配備、2〜4人に1台の配備、5人以上に1台の配備の企業において、全体を100とした場合の生産性はそれぞれ125.8、87.5、72.0となっている(図表1-2-208)。 図表1-2-208 ICT利用環境の整備状況と生産性との関係 ウ ICTに関する組織的取組と生産性  企業においてICT化やその利用環境の整備を進めることは重要であるが、同時にそれらによる効果を有効に引き出すために、組織としてどのように取り組んでいくかも重要であると考えられる。そこで、まず、従業員のICT関連教育の実施状況を見ると、何らかのICT関連教育を実施している企業は約40%、ICT関連の教育を実施していない企業は約60%であり、実施していない企業が過半を占める(図表1-2-209)。また、CIOの設置状況について見ると、現在CIOを設置していない企業は約76%と、CIOを設置していない企業がほとんどであり、設置している企業についても、専任のCIO又は業務の大半をICT関連に費やしているCIOを設置している企業は全体の5%未満と、ほとんどが兼任のCIOとなっている(図表1-2-210)。 図表1-2-209 従業員のICT教育のために行っていること(複数回答) 図表1-2-210 CIOの設置状況  ICT関連の組織的取組については上記のような状況であるが、これらの取組状況と生産性の関係についても、取組が進展しているほど生産性が高くなっている。このうちCIOの設置については、CIOを設置していない企業の生産性が最も低く、また、CIOを設置している企業においても、専任のCIO又は業務の大半をICT関連に費やしているCIOの場合と兼任のCIOの場合を比べると、生産性に約5割の違いが出ている(図表1-2-211)。 図表1-2-211 ICT関連の組織的取組状況と生産性の関係 63 本項では、生産性を「(人件費総額+営業利益額)/従業員数」と定義した