(4)企業の生産性向上に向けた空間コード整備の必要性 ア 企業間取引における共通基盤システムの進展 (ア)企業活動のネットワーク空間での再現  企業の各種業務が情報通信ネットワークの機能を駆使することによって大幅に効率化、自動化され、企業の従業員は例外的な処理が必要となる高度な業務に特化することができれば、企業の生産性は格段に向上するものと考えられる。そのような環境を実現するためには、実社会で行われている企業活動がネットワーク空間で再現されることが必要である。そして、そのためには、コンピュータ等情報通信機器同士のコミュニケーションが標準化されていること、「このモノが何であるのか」、「この取引先はどこなのか」、「この場所はどこなのか」といった実社会の様々な事象がコンピュータやネットワーク上で処理が可能な形態を用いて表現されていること等が必要となる。  そうした観点から、今後は、企業間取引のためのEDI(Electronic Data Interchange)の標準化、モノ、空間等に付与されるコードの体系的な整備等を推進していくことが重要となる。そして、実社会とネットワーク空間を結び付けるこうした取組は、企業がグローバルネットワークを活用して様々な主体と多様な情報のやり取りを行いながら、積極的なグローバル展開を実施していく上でも極めて重要となる(図表1-2-212)。 図表1-2-212 ネットワーク空間で企業活動を行うためにコードが必要な場面 (イ)企業間取引における共通基盤システムの整備状況と課題  企業活動、特に企業間にまたがる取引活動の領域では、我が国においては、主に業界別に共通基盤システムの整備が進められてきた。  各業界における共通基盤システムに関するサービス提供状況を見ると、多くの業界において受発注機能等を提供するサービスの提供が行われており、利用状況を見ても、精密機器メーカーの多くが利用するTWX-21の利用社数が平成14年からの5年間で3倍近くに拡大するなど、利用は進展している。また、化学、自動車、運輸・物流業界では、グローバルレベルでのサービス提供も行われている(図表1-2-213)。 図表1-2-213 各業界における共通基盤システムの代表的サービス  しかしながら、現状では、システムの利用が大手企業とその一次仕入先企業との間の取引に限られている業界がほとんどであり、中小・零細企業が中心である二次以降の仕入先企業との間では利用が進んでいないとの指摘がある。各業界としての更なる生産性向上を図るためには、中小・零細企業も含めたシステム利用の促進が必要と考えられるが、そのためには、よりシステム導入コストを低下させられるような仕組みが必要と考えられる。  そのための有効な方策の一つが、オープンで総合的なコード体系の整備である。 イ 空間コード整備の必要性 (ア)各種コードの整備状況  企業活動、特に企業間にまたがる活動に関する代表的なコードとして、企業(取引先)コード、商品(資材)コード及び空間コードがあるが、それぞれの整備状況について整理すると図表1-2-214のようになる。 図表1-2-214 各種コードの整備状況と課題  企業、商品、空間のいずれのコードについても、実際にはすべての対象に割り当てられているわけではない。企業コードについては特定の業界等のみに割り当てられており、商品コードについては商材によっては標準化されたコードが割り当てられていないものがある。また、空間コードについては、現状では、緯度経度等を用いてあらゆる場所を表現することは可能であるものの、高さを的確に示すことが困難であるなど技術的課題があり、また、企業活動にとって「意味」のある場所・空間(例:部屋、倉庫の棚、売場)を示すコードとして秩序立てて整備されていない。なお、住所や郵便番号は「意味」のある場所・空間を示すコードといえるが、容量(けた数)に制約がある、建物内部の通路や倉庫の棚といった詳細な場所を示せないなどの限界がある。つまり、企業、商品、空間のいずれのコードについても、国際標準との整合性を確保しつつ、各業界、各企業等が共通に利用できるものとして整備されることが課題となっている。  現在、企業コードと商品コードについては、民間主導の国際標準化団体の下、我が国における推進団体が組織されているが、空間コードについては、企業活動上の「意味」を念頭においた検討を行うための体制は必ずしも十分整備されておらず、取組が遅れている。 (イ)空間コードの意義と現状の問題点  空間コードは、端的にいえば、郵便番号を更に詳細にしたようなものといえる。現在、郵便番号は一般に使われている範囲では町単位でしか識別できないが、例えば、ビルや商業施設の中の1フロアや1ブロックごと、工場や倉庫の1区画ごと等にコードが付されると、「倉庫のどの場所に何の在庫がどれくらいあるのか」、「この野菜はどこで作られて、どのような農薬が使われたのか」、「今どこにいて、目的地までどのように行くのが早いのか」等の情報をネットワーク上で管理・検索し、活用することができるようになる(図表1-2-215)。 図表1-2-215 空間コードの利用シーン例  ある特定の企業の業務、あるいは特定の用途のみで利用するならば、それに対応した独自のコード体系が整備されても問題ない。しかし、誰もがいつでもどこでもネットワークを通じてコードにアクセスできるように体系的に整備すれば、様々な企業、消費者等の間での取引の効率性、利便性が飛躍的に向上するとともに、メンテナンスに要するコストが全体として大幅に抑制される。そのため、空間コードは国際標準や既存のコード体系との整合性を確保しつつ、あらゆる主体にオープンな社会基盤として整備される必要がある。 ウ 空間コード整備に向けた取組  坂村健東京大学教授が提唱する「ユビキタスID技術」を空間コードに応用することを目指し、平成18年9月に「ユビキタス空間基盤協議会」が民間主導で設立された。ユビキタス空間基盤協議会は、ユビキタスネット社会の新しい社会基盤として空間コードの整備・普及を図ることを目的とする組織である。会長は坂村健教授で、学識経験者4人、一般企業及び地方公共団体18団体により構成され、オブザーバーとして総務省、農林水産省及び国土交通省が参加している。  同協議会では、uコードという我が国発の技術による国際デファクト標準を目指しつつ、空間コードの有望用途と考えられる物流・流通等の分野で先行的な事業化に着手するとともに、それを起点とした空間コードの早期の普及、社会的定着を図る観点から、様々な検討を行った。  また、同協議会で利用されるuコードは、コード自体に意味を持たない128ビットのデータ長であり、それを活用することにより、伝票に個人情報を載せることが不要となったり、不在時対応の指示ができるようになったりする(図表1-2-216)。 図表1-2-216 物流(配送)分野における空間コード活用の例