(2)放送の高度化の推進  放送のデジタル化は、国民生活に密着した放送メディアについて、画質の高精細度化、音質の向上、多チャンネル化、通信ネットワークとの連動による双方向サービスの実現、ワンセグ放送や、データ放送等、放送の高機能化や視聴者利便の向上等をもたらし、デジタルテレビが家庭における新たなICT基盤の一つとなることが期待されるものであるとともに、電波の利用効率を飛躍的に高めるなどの効果を有するものである。  我が国においては、主な放送メディアである地上テレビジョン放送、衛星放送及びケーブルテレビのそれぞれについて、以下のとおり、デジタル化による高度化が推進されている(図表3-2-6)。 図表3-2-6 デジタル化スケジュール ア 地上デジタル放送の推進 (ア)地上デジタル放送の現状  地上デジタル放送は、平成15年12月に関東・中京・近畿の三大都市圏において放送が開始され、その後順次放送エリアが拡大され、平成18年12月には、全県庁所在地等で放送が開始されている。平成18年末現在、放送カバー率が95%を超えている都道府県は、14都府県となっている。  また、平成18年4月に、ワンセグが開始され、受信機能付の携帯電話やカーナビゲーション、モバイルパソコン等による視聴が可能となった。これにより、放送サービスについて、受信端末の多様化、視聴時間の変化、通勤時の視聴等利用シーンの多様化が進展することが期待されている。  現在の地上アナログテレビジョン放送については、平成23年7月24日までとされており、それまでにデジタル化を完了する必要があることから、以下のように、様々な取組が行われている。  なお、地上デジタル放送のカバーエリア拡大と薄型テレビ人気による買換え需要により、地上デジタル放送対応受信機の出荷台数は、2007年3月末時点で2,037万台と徐々に普及が進んでいる。 (イ)地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割の検討  幅広い分野における地上デジタル放送の今後の利活用の在り方や、平成23年までのデジタル放送への全面移行の確実な実現に向けた課題と解決方策について検討するため、総務省は、平成16年1月に「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」について情報通信審議会に諮問し、同審議会から、 [1] 中間答申(平成16年7月。重点的に推進すべき施策として、高度サービスの公共分野への導入に向けた先行的な実証や、円滑なデジタル化への移行の実現のため、投資促進に向けた環境整備、様々な伝送手段の実現可能性等を検証する実証実験の実施等について提言) [2] 第2次中間答申(平成17年7月。デジタル全面移行に向けた重点施策として、公共分野における利活用の推進や、「通信・放送の融合」の積極的活用等による円滑なデジタル全面移行の実現等について提言) を経て、平成18年8月に第3次中間答申が提出されている。  この第3次中間答申では、「中継局ロードマップの具体化と補完措置」として、放送事業者の自助努力では建設困難な中継局がある場合の対応や公的支援の在り方等について、また、受信機の普及と利便性向上、コンテンツの多様化について、提言が行われており、総務省としては、これに基づいて、必要な施策の一層の展開を図っていくこととしている。 第3次中間答申の内容 A 中継局ロードマップの具体化と補完措置  2011年のアナログ放送停波・デジタル放送への全面移行の確実な実現に向けて、すべての視聴者にデジタル放送を送り届ける環境を整備することが不可欠。国、放送事業者その他の関係者は、全ての地上放送の視聴者が、アナログ放送時に視聴していた放送を視聴することができるよう、それぞれの役割を果たしていくべきである。  放送事業者は、アナログ放送波受信世帯の100%がデジタル放送でもカバーされるよう、自助努力すべき。自助努力では建設困難な中継局がある場合、中継局に加え、ケーブルテレビ、IP、衛星等、補完手段の活用が不可欠。補完手段としての同時再送信8においては、放送事業者は、一定の条件を満たす電気通信役務利用放送事業者は再送信同意の対象とすることを、基本的な姿勢とすべきである。  国は、放送事業者の設備投資を加速・推進すべく、放送事業者に対し、政策金融や税制措置等一定の支援を検討すべきであり、放送事業者が補完手段を活用し得る環境整備を行うべきであると考える。  補完手段活用措置については、放送事業者に対し、[1]活用条件と当該条件適用手続きの策定・公表、及び[2]条件の内容・適用についての紛争処理プロセスの明確化の2点の実行と、再送信同意手続きへの着手を平成18年9月中に要請。行政は、IPマルチキャストを用いた再送信の進捗と、[1]・[2]の運用状況を注視し、更に行政として講ずべき措置があるか否かを検討し、2007年(平成19年)中に結論を得るべきである。  受信環境の整備は視聴者の自助努力によることが原則であるが、辺地共聴施設にて視聴している住民の負担が放送エリア内の住民負担に比べて著しく過重である場合は何らかの措置が必要であること、及びデジタル放送への全面移行まであと5年という限られた時間であることにかんがみ、国、NHKその他の放送事業者は、それぞれの責任を果たしていくべきである。 B 受信機の普及と利便性向上  アナログ放送停波等に関する周知広報の在り方については、平成18年12月から全国で地上デジタル放送が開始されることを踏まえ、テレビ放送に対する関心やニーズも異なる、より幅広い国民視聴者層を想定し、年齢別、視聴環境別等、きめ細かな周知広報活動を展開する必要がある。そのため、情報伝達手段については、テレビによるスポット広告を中心に据え、情報提供の内容については、「2011年(平成22年)7月以降、アナログ受信機のみではテレビ放送が視聴できなくなる」ことをより前面に明確に訴求していくとともに、相談対応を組織化、効率化し、個々の視聴者に対するきめ細かい対応が可能となる体制を整備すべき。  デジタル受信機の多様化・低廉化に係る対応については、「アナログ放送終了告知シール」の貼付以降のデジタル受信機の普及動向、受信機の出荷比率の変化等を注視し、諸外国の動向も踏まえた上で、平成19年7月を目途に更に追加的な措置が必要かを検討する。また、デジタル受信機に係る商品企画の自由度を確保するため、国は自由度を阻害する事態について注視を怠らず必要に応じて所要の措置を検討すべき。  現在デジタル放送のすべての放送番組は「コピーワンジェネレーション」の取扱いとなっているが、これらを「EPN」の取扱いとしていく方向で検討し、平成18年12月までの可能な限り早期に検討状況を公表することとしている。  ※EPN(Encryption Plus Non-assertion)……コンテンツを出力/記録するときには暗号化を施して著作権は保護するが、コピーに関しては数や世代の制限等を設けないという考え方 C コンテンツの多様化  地上放送は我が国のコンテンツ制作の中核を担っており、コンテンツ産業に占める役割は極めて重要であることから、放送番組を外部から調達する場合に、調達を行う事業者が自主的にルールを策定し、公表することが望ましい。放送事業者は、平成18年12月を目途に放送番組を外部から調達する場合のルールを自ら策定し、公表すべきである。 (ウ)地上デジタル放送の円滑な普及促進のための取組 A 情報提供活動の推進  地上テレビ放送は、国民視聴者にとって最も身近なメディアであり、国民生活に密着したものであることから、そのデジタル化に当たっては、幅広い国民の理解を得ていく必要がある。このため、総務省では、視聴者にとっての具体的なメリットや地上テレビ放送のデジタル化の社会的意義等について、社団法人デジタル放送推進協会(平成19年3月以前は社団法人地上デジタル放送推進協会)、放送事業者及び地方公共団体と連携し、 [1] 新聞広告の掲載、テレビCMによる告知、周知用リーフレット、ポスター等の作成、頒布等 [2] 各種イベント等における情報提供等 等、様々な周知広報活動を行っている。  また、デジタル放送への全面移行を円滑に行うためには、アナログ放送終了までの間に、視聴者がデジタル受信機等を購入するなど受信環境を整備する必要があり、そのためには、視聴者に対し、「アナログ放送の終期」に関する周知を徹底する必要がある。このような観点から、2011年(平成23年)以降、アナログ受信機等のみではテレビが視聴できなくなる旨を告知するため、メーカー、販売店等の協力を得て、アナログ受信機等にシールをちょう付するなどの取組を平成17年度から行っている。  さらに、地上デジタル放送に関する認知度や普及の進ちょく状況を踏まえ、受信方法等に関するきめ細やかな情報提供活動を推進し、相談件数の増加及び相談内容の専門化等に対応した相談体制も充実させていくこととしている。 B 「地上デジタル推進全国会議」の開催による普及促進  平成15年5月に、地上デジタル放送の普及に関し、分野横断的かつ国民運動的に推進を図るための組織として、放送事業者・メーカー・販売店・消費者団体・地方公共団体・マスコミ・経済団体等幅広い分野のトップリーダー及び総務省等の関係省庁からなる「地上デジタル推進全国会議」が開催されており、官民一体となって普及を推進する体制が構築されている。  同会議において、平成18年12月、地上デジタル放送用受信機の普及目標や各関係者の取り組むべき具体的事項等をとりまとめた「デジタル放送推進のための行動計画(第7次)」が策定され、放送事業者、国その他の関係者によるなお一層の努力が求められていることから、以下の3点を柱として、同計画に定められた各々の役割の下、同会議構成員が全力で取り組んでいくこととされている。 [1] 送信環境の整備  地上デジタルテレビ放送の伝送路は、今後とも地上波中継局による伝送が原則であるが、従来からの共聴施設やケーブルテレビに加え、IP、衛星等補完的伝送路の活用等、伝送路に関する視聴者の選択肢に関し、可能な限り多様化を図りつつ、アナログテレビ放送終了の前に十分な時間的余裕を持って、すべての視聴者にデジタルテレビ放送を送り届けるインフラ整備を完了させることが必要である。 [2] 受信環境の整備  受信機器の機能や価格に関する視聴者のニーズは多様であり、地上デジタルテレビ放送の視聴者側の受信環境整備を推進するためには、そうした多様なニーズに応えた受信機器の発売と周知広報その他の対応が不可欠である。 [3] 視聴者・国民の理解の醸成  これまでの「知っている段階」から「理解し、支持する」段階に移行するとともに、国民の具体的な行動を促すための施策が必要である。 (エ)地上デジタル放送施設の整備促進等 A アナログ周波数変更対策の着実な実施  地上デジタル放送用の周波数を確保するためには、一部の地域において既存のアナログ放送の周波数を変更する必要がある。送信側については平成14年8月から、受信側(個別世帯等)については平成15年2月からそれぞれ実施されてきたところ、チャンネル変更を伴う対策は平成19年3月をもって653地域約471万世帯の対策を終了し、計画に沿って順調に対策が進んだところである。 B 地上デジタル放送施設の整備に対する支援措置  地上デジタル放送のための施設整備を促進するため、「高度テレビジョン放送施設整備促進臨時措置法」(平成11年法律第63号)が制定され、同法に基づき総務大臣から実施計画の認定を受けた放送事業者(平成18年末までに127社認定)に対し、税制及び金融上の支援措置が講じられている。  また、地域の振興に資する地上デジタル放送用番組の制作を進めるため、総務大臣の認定を受けた一定の放送番組制作事業者に対しても、税制及び金融上の支援措置が講じられている。 図表3-2-7 支援措置の主な内容 C 地上デジタル放送の中継局の技術基準の整備  平成19年度以降、全国において中継局の整備が本格化することから、その迅速な整備に資するため、総務省では、平成18年9月に「放送システムに関する技術的条件」について情報通信審議会に諮問し、平成19年1月に一部答申として「地上デジタル放送の中継局に関する技術的条件」について答申を受けた。  また、平成19年2月には、この答申を踏まえ、無線設備規則の一部を改正する省令案について電波監理審議会に諮問し、平成19年4月に適当である旨の答申を受けた。  総務省では、この答申を踏まえ、地上デジタル放送の中継局の技術基準に関し、平成19年5月に関係規定の整備を行った。 イ 衛星放送政策の展開 (ア)衛星放送のデジタル化の現状  CSデジタル放送については、平成8年6月に、東経124度と東経128度の衛星2基によるデジタル放送が開始されている。平成14年3月には、東経110度の衛星からのCSデジタル放送が開始されており、同じ東経110度にはBSデジタル放送の衛星も打ち上げられていることから、BSとCSの共用受信機(チューナー)により両方のデジタル放送を受信できることとなった。  BSデジタル放送については、平成12年12月に開始され、平成19年3月現在、NHK及び民間放送事業者7社がテレビジョン放送を、民間放送事業者1社がラジオ放送を、民間放送事業者4社がデータ放送を、それぞれ行っている。  また、平成16年10月には、移動体向けの2.6GHz帯衛星デジタル音声放送が開始されている。 (イ)BSアナログハイビジョン放送の終了に向けた取組  平成16年4月の放送普及基本計画及び放送用周波数使用計画の変更並びに平成18年3月の放送用周波数使用計画の変更により、BS放送の第9チャンネルで行われているアナログハイビジョン放送は平成19年11月30日で終了することとされており、翌12月1日から、委託放送業務の認定(平成17年12月)を受けた民間放送事業者3社がこの周波数帯を使用してデジタルハイビジョン放送を開始する予定となっている。  このデジタル放送への移行及び視聴者への周知活動を円滑に進めるために、総務省では、平成17年9月から「BSアナログ・ハイビジョン放送の終了及び新たなデジタル放送の開始に係る連絡会」を開催し、円滑な移行に向けた準備作業等を行っているところである。 (ウ)CSデジタル放送の高度化のための技術的基準の整備  CSデジタル放送は、平成8年に国内初のデジタル放送サービスとして開始されて以来、標準画質による多チャンネルサービス等が視聴者に受け入れられ、着実に加入者数を伸ばしている。一方、BS放送、地上デジタル放送の高精細度テレビジョン(HDTV)化、高解像度・大画面の薄型テレビの急速な普及を受け、CSデジタル放送のうち27MHz帯域幅を使用するもの(狭帯域CSデジタル放送)においてHDTV放送による多チャンネルサービスへのニーズが高まっているとともに、より一層のCSデジタル放送の発展を促すため、最新のデジタル放送技術の導入が望まれていた。  このような状況を踏まえ、総務省では、平成17年10月に、「CSデジタル放送方式(広帯域伝送方式を除く)の高度化に関する技術的条件」について情報通信審議会に諮問し、平成18年7月に同審議会から答申を受けた後、電波監理審議会での審議を経て、平成19年3月に高度狭帯域伝送方式に関する技術基準の整備を行ったところである。 図表3-2-8 CSデジタル放送の高度化のイメージ (エ)衛星放送の将来像に関する検討  総務省では、平成17年10月から平成18年10月まで「衛星放送の将来像に関する研究会」を開催し、衛星放送を取り巻く環境の変化を踏まえ、衛星放送の健全な発達に必要な中長期的課題について検討を行った。  同研究会において示された提言を受けて、総務省は以下のような検討・取組等を進めている。 [1] 新たなBS放送用周波数の利用に関する検討  平成18年10月から同年12月まで、BSデジタル放送用周波数の利用システムについての提案募集を行った。今後は、提案内容を踏まえ、新たなBS放送用周波数の利用に係る所要の検討及び制度整備等を実施する予定である。 [2] CSデジタル放送のハイビジョン化の推進  CSデジタル放送のハイビジョン化を促進するため、標準画質からハイビジョン画質への移行手続が簡易なものとなるよう、放送法施行規則の一部を改正するなど、所要の制度整備を実施した(平成19年3月28日施行)。 [3] 衛星放送におけるプラットフォームの在り方に関する検討  プラットフォームについては、平成18年11月に社団法人衛星放送協会に設置された「プラットフォームの在り方に関する協議会」において、プラットフォーム事業の公正性、中立性、透明性等の確保に向けて、プラットフォーム事業者の自主ガイドラインである「衛星放送に関するプラットフォーム業務に係るガイドライン」の見直しに係る議論・検討が行われた。同協議会からの勧告を踏まえ、平成19年3月には、プラットフォーム事業者が自社のガイドラインを改訂し、公表している。 ウ ケーブルテレビの高度化 (ア)ケーブルテレビのデジタル化の現状  我が国のケーブルテレビは、発足から50年が経過し、最近では多チャンネル放送、地域に密着したコミュニティチャンネルに加え、インターネットサービス、IP電話等をはじめとした新しいサービスを提供する事業者も現れている。加入世帯数は約2,050万世帯、全国世帯の約40.1%(平成18年12月末)に上っており、ケーブルテレビは地域に密着した重要な情報通信基盤の一つとして、順調な発展を遂げてきているところである。  ケーブルテレビのデジタル化も、地上デジタル放送の放送区域の拡大に伴って進展してきており、ケーブルテレビによる地上デジタル放送視聴可能世帯数(平成18年12月末)は、約1,860万世帯となっている。 (イ)2010年代のケーブルテレビの在り方に関する検討  ケーブルテレビを取り巻く環境は、地上放送・衛星放送のデジタル化、通信事業者のブロードバンド化の進展等、昨今著しく変化しており、対応すべき課題が顕在化しつつある。そのため、総務省では、平成18年2月から、「2010年代のケーブルテレビの在り方に関する研究会」を開催し、同研究会は、平成22年以降を見据えたケーブルテレビの在り方、今後の課題の整理及びケーブルテレビの発展に向けた総合的方策の議論を行っており、平成19年6月を目途に取りまとめが行われる予定である。 図表3-2-9 2010年代のケーブルテレビの在り方に関する研究会について (ウ)ケーブルテレビの高度化のための支援措置  地上デジタル放送への対応等のためケーブルテレビのデジタル化、広帯域化等の高度化を進める必要があることから、このような事業者の取組を支援するため、条件不利地域における財政措置(地域情報通信基盤整備推進交付金)のほか、総務大臣から「電気通信基盤充実臨時措置法」(平成3年法律第27号)による「高度有線テレビジョン放送施設整備事業」の実施計画の認定を受けたケーブルテレビ事業者等に対して、金融、税制上の支援策が講じられている。 図表3-2-10 ケーブルテレビに対する主な支援措置 8 複数のチャンネルや放送方式で、同内容の放送を同時に放送すること。サイマル放送