(3)電波利用環境の整備 ア 電波の人体・医療機器に与える影響に関する取組  携帯電話をはじめとする電波利用の急速な普及・高度化に伴い、無線設備から発射される電波が人体に好ましくない影響を及ぼすのではないかという懸念や、植込み型心臓ペースメーカー等の医療機器に誤動作を引き起こす可能性が提起されている。  総務省では、こうした懸念を解消し、安心して安全に電波を利用できる環境を整備・確保するため、適切な基準の策定、継続的な研究等を実施しているところである。また、韓国、EU、米国等の生体電磁環境に関する専門家・行政官が集まり、各国の施策や研究活動等の情報交換・意見交換を行う生体電磁環境ワークショップを開催するなど、各国間の電波防護に関する取組の調和も推進している。 (ア)電波の人体に対する影響に関する基準の策定及び研究の推進  総務省(旧郵政省を含む)では、電波の人体に対する影響に関し、以下に示す旧電気通信技術審議会や情報通信審議会からの、電波が人体に好ましくない影響を及ぼさない安全な状況であるか否かを判断するためのガイドライン(電波防護指針)及び測定方法等の答申を踏まえた電波防護規制を導入し、安心して安全に電波を利用できる環境の整備に努めている。 [1] 「電波防護指針 電波利用における人体の防護指針」(平成2年6月答申。電波が人体に悪影響を及ぼさない範囲を策定) [2] 「電波防護指針 電波利用における人体防護の在り方」(平成9年4月答申。平成2年答申の指針値の妥当性を確認するとともに、携帯電話端末等身体の近くで使用する機器に対する指針(局所吸収指針)を策定) [3] 「電波防護指針への適合を確認するための電波の強度の測定方法及び算出方法」(平成10年11月答申) [4] 「人体側頭部の側で使用する携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法」(平成12年11月一部答申。比吸収率(SAR)は、生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量) [5] 「人体側頭部の側で使用する携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法」(平成18年1月。比吸収率(SAR)の測定方法が平成17年2月に国際電気標準会議(IEC)において標準化されたことに伴い、国際的な整合性を確保するため測定方法を見直し)  また、総務省は、電波の人体への影響を科学的に解明するため、平成9年度から平成18年度までの10年間にわたり、医学・工学の研究者等により構成される「生体電磁環境研究推進委員会」を開催し、疫学調査、細胞内の遺伝子への影響調査等の研究に取り組んできた。  これまでの研究成果は以下のとおりである。 [1] 携帯電話の短期ばく露では脳(血液−脳関門)に障害を与えないこと(平成10年9月) [2] 熱作用を及ぼさない電波の強さでは脳(血液−脳関門)に障害を与えないこと(平成11年9月) [3] 現時点では電波防護指針値を超えない強さの電波により、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないこと等(平成13年1月。同委員会中間報告) [4] 携帯電話の電波による課題学習能力への影響は生じないこと(平成14年11月) [5] 長期にわたる携帯電話の使用が脳腫瘍の発生に及ぼす影響は認められないこと(平成15年10月) [6] 携帯電話の電波が脳微小循環動態に及ぼす影響は認められないこと(平成15年12月) [7] 携帯電話の電波による脳内のメラトニン(睡眠を促すホルモン)の合成への影響は認められないこと(平成17年12月) [8] 携帯電話の使用と聴神経鞘種(聴神経の腫瘍の一種)との間に有意な疾患リスクの上昇は認められないこと(平成19年2月)  なお、同委員会では、平成19年3月に、総務省に対して委員会報告要旨を提出し、同年4月に当該報告要旨を踏まえ、最終報告書を取りまとめた。  総務省では、今後も電波の人体安全性に関する研究等を継続し、我が国の電波防護のための基準の根拠となる科学的データの信頼性向上を図るとともに、その成果を公表することにより、安心して安全に電波を利用できる環境を整備・確保していくこととしている。 (イ)電波の医療機器等に与える影響の防止  平成9年3月、学識経験者、関係省庁・業界団体・メーカー等から構成される「電波環境協議会」(昭和62年9月設立。平成14年5月に「不要電波問題対策協議会」から改称)において、「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」が策定された。これを受けて、総務省(旧郵政省)は同指針の内容を厚生労働省(旧厚生省)及び国土交通省(旧運輸省)へ通知するとともに、その効果的な活用について要請している。  その後、第3世代携帯電話等の新しい方式の携帯電話サービスの開始をはじめとする電波利用の拡大、植込み型心臓ペースメーカー等の医療機器等の妨害電波排除能力の向上など、電波利用をめぐる状況が変化していることから、総務省では、「電波の医療機器等への影響に関する調査」を継続して行い、電波を発射する側と医療機器等の影響を受ける側が安心して共存できる環境の確保を図ってきている。  これまでの調査結果は以下のとおりである。 [1] 携帯電話端末と心臓ペースメーカーの関係に関する現行指針の妥当性を確認(平成12年度) [2] 新たな植込み型心臓ペースメーカー等についても22センチの現行指針の妥当性を確認(平成13年度) [3] ワイヤレスカードシステム等が植込み型医療用機器へ与える影響について確認(平成14年度) [4] 電子商品監視機器、無線LAN機器等が植込み型医療機器へ与える影響について確認(平成15年度) [5] 新たな方式の携帯電話端末及びRFID機器が植込み型医療機器へ与える影響について確認(平成16年度) [6] 800MHz帯W−CDMA方式の携帯電話端末の電波が植込み型医療機器へ与える影響について確認(平成17年度)  総務省では、これらの結果を受けて、平成17年8月に「各種電波利用機器の電波が植込み型医療用機器へ及ぼす影響を防止するための指針」(平成18年5月現行化)を取りまとめており、今後も、電波の医療機器等に与える影響について調査を継続していくこととしている。 イ 不要電波対策 (ア)無線妨害波に関する規格の策定  電波利用の拡大、各種電気・電子機器等の普及に伴い、無線利用が各種機器・設備が発する不要電波による電磁的な妨害を受けることが大きな問題となっている。  不要電波対策については、様々な機器・設備から発生する無線妨害波に関する許容値と測定法について検討し、国際規格を策定することを目的に、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)に、CISPR(Comite International Special des Perturbations Radioelectriques:国際無線障害特別委員会)が設置されている。  総務省では、情報通信審議会の中にCISPR委員会を設置し、CISPRにおける国際規格策定に寄与しているほか、CISPR国際規格との整合性を図りながら国内規格を策定している。平成18年度は、CISPR13「音声及びテレビジョン放送受信機並びに関連機器の無線妨害波測定の許容値及び測定法」、CISPR16「無線妨害波及びイミュニティ測定装置と測定法の仕様」、CISPR22「情報技術装置の妨害測定の許容値と測定法」について、検討を行ったほか、次に述べる「高速電力線搬送通信設備に係る許容値及び測定法」について策定したところであり、今後も引き続き、不要電波対策を推進していくこととしている。 (イ)高速電力線搬送通信に関する規格の策定  電力線搬送通信(PLC:Power Line Communications)は、既存の電力線を通信線として利用することにより、容易にネットワークを構築することができるものである。通信に際し電力線から漏えいする電磁波が無線利用に与える影響を考慮して、これまでは10〜450kHzの周波数の使用が可能とされていたが、近年、伝送可能な情報量を増大させるため、使用可能な周波数を拡大(2〜30MHzを追加)することが要望されるようになった。  そのため総務省では、平成17年1月から「高速電力線搬送通信に関する研究会」を開催し、漏えい電波低減技術の開発状況等を踏まえて、高速電力線搬送通信と無線利用との共存可能性・共存条件等について検討を行い、同研究会は、平成17年12月に報告書を取りまとめた。この報告書を受けて、総務省は、平成18年1月に情報通信審議会に対して「高速電力線搬送通信設備に係る許容値及び測定法」を諮問し、平成18年6月に、同審議会から、2MHz〜30MHzの周波数を屋内のみで使用する高速の電力線搬送通信設備について一部答申を受けた。これを受けて総務省は、電波監理審議会へ同年7月に諮問し、同年9月に答申を得て、同年10月に関係省令等を改正した。これにより、PLCモデムのプラグをコンセントに差しこむだけで、ホームネットワークの構築が可能となった。 ウ 適切な電波の監視・監理及び正しい無線局運用の徹底 (ア)重要無線通信妨害への対応  電波利用の拡大とともに、電波の不適正な利用も増大し、電波利用に与える障害が多発している。重要無線通信と位置付けられている電気通信事業用、放送業務用、人命・財産の保護用、治安維持用、気象業務用、電気事業用及び鉄道事業用の無線通信に対して、不法無線局等による電波障害が発生した場合には、これを排除するため直ちに不法無線局の探査等を行っている。  また、不法無線局の探査等を効果的に行うため、平成5年度から電波監視システム(DEURAS:Detect Unlicensed Radio Stations)の整備を進め、平成18年度末において、遠隔方位測定設備センサー約340局、短波帯電波監視施設センサー5局及び宇宙電波監視施設1局を整備し、電波監視活動を強化するとともに、捜査機関との不法無線局の共同取締りを実施している。  平成18年度の電波障害に対する混信・妨害申告の総件数は3,028件であり、このうち重要無線通信に対するものは684件となっている。  なお、コードレス電話から遭難周波数が誤発射されたことが判明した際や情報収集衛星の打ち上げ期間中等においては、重要無線通信の妨害に備えて、電波監視体制の強化を行っている。 (イ)不法・違法無線局への対応  電波利用環境の維持に向けて、免許が必要な無線局でありながら免許を取得しないで開設、運用している不法無線局に対しては、これを探査し、告発するなど必要な措置を講じている。平成18年度の措置総数は4,281件であり、このうち告発は663件、行政指導は3,618件となっている。  また、合法な無線局に対しては、発射する電波の質や無線局の運用が電波法令に適合しているか否かを監査し、違反があった無線局に対しては是正措置等を講じている。平成18年度の監査総局数は169,555局であり、このうち違反局数は15,202局となっている。 (ウ)電波利用環境保護のための周知・啓発活動  総務省は、不法無線局開設などの電波利用のルールに違反する行為の未然防止を図るため、毎年6月1日から10日までの間を「電波利用保護旬間」と位置付け、電波利用環境保護のための周知・啓発活動を強化しており、平成18年度においては日刊紙・専門業界紙・テレビ・ラジオ等の各種メディアを活用するとともに、関係機関等と連携して一般国民に対する電波利用ルールの周知・啓発を行った。  また、不法無線局に使用されるおそれのある無線機が、一般国民にとって身近な販売店、インターネットオークション等において流通・販売され、無線通信に妨害を与えるケースが増加していることから、平成18年度から無線利用機器を販売していると考えられるホームセンター・ディスカウントショップ、カー用品店等の販売店1,346店舗や全国販売店の本社・輸入販売会社・販売業者団体17社・団体に対して技術基準に適合した無線機器を取り扱うよう周知・啓発するとともに、インターネットバナー広告等を活用し、「無線機の購入には「技適マーク」9をチェック!」などの周知広告を実施している。さらに、違法な無線機器の流通を未然防止するため、無線機器の登録証明機関・製造関係業者等15社・団体に「技適マーク」の認知度を向上する取組への協力を要請した。 9 電波法令等に定める技術基準適合証明等を受けた無線利用機器に表示されるマークを「技適マーク」と呼称