(2)情報通信資本の特性とユビキタス化の現状 ア 情報通信資本のネットワーク経済性  ICTは、時間や空間といった生産活動にとって制約となる課題の克服に寄与し、大量の情報を瞬時にやり取りすることによって、新たな生産活動の基盤としての役割を果たすようになってきている。これに伴い、生産要素である資本の中でも、情報通信資本の重要性は、飛躍的に高まりつつある。様々な課題を抱える地域が、今後、経済成長を達成するためには、ICTの利用を課題解決につなげると同時に、生産活動に変革をもたらす契機として情報通信資本を積極的に投入し、活用していくことが不可欠である。  とりわけ、コンピュータ等の情報通信資本は、「ネットワークの経済性」が働くという特性を持つ。ネットワークの経済性とは、例えば、ある企業が情報通信端末を導入しネットワークに接続することによって、既にネットワークに接続している他の企業も追加の投資をすることなく接続先が拡大するという利便性を享受でき、その情報通信端末を保有するあらゆる企業の利便性を高める効果があることを指す。さらに、ネットワークの経済性には、ネットワークに接続している企業同士が、ネットワーク上で協働して生産活動を行うことにより、新たな付加価値が生み出され、生産性が向上するという「連携の経済性」の効果も含まれる。  ユビキタスネットワークが進展すると、情報通信資本が相互にネットワーク化されることで情報や知識の交流が活発になり、新しいアイディアや創意工夫等を通じて様々なイノベーションが生み出されることが期待される。また、ICTが生活の隅々にまで深く浸透することにより、情報や知識を利用する主体のすそ野が広がるとともに、各主体が様々な形で連携し、協働しながらネットワーク上の情報や知識を利用して生産活動を行い、新たな付加価値を生み出すことが可能になると考えられる。つまり、情報通信資本の蓄積とそれによるユビキタス化は、ネットワークの経済性の効果によって経済全体の生産性を高めるとともに、新しい付加価値の源泉を提供することで我が国の経済成長に貢献すると考えることができる。 イ 都道府県別ユビキタス指数の作成  平成19年版情報通信白書においては、我が国全体のユビキタスネットワークの進展状況を表す指標として「ユビキタス指数」を作成し、ユビキタスネットワークの進展による日本全体の経済成長への影響について、マクロ生産関数モデルを用いて分析を行った。その結果、ユビキタスネットワークの進展が、我が国全体の経済成長に対してプラスに寄与することが確認された。  さらに、今後の日本の経済成長にとって、地域経済の発展が不可欠であることにかんがみると、ユビキタスネットワークの進展による地域経済成長への影響を把握することは、非常に重要であると考えられる。  そこで、平成20年版情報通信白書では、ユビキタスネットワークの進展による地域経済成長への影響を分析するに当たり、ユビキタスネットワークの進展状況を表す指標として、都道府県別の「ユビキタス指数」を作成した2。ユビキタスネットワークの進展には、利用主体のすそ野の広がりという「普及の拡大」の面と、利用機会の増大や利用形態の多様化という「利用の深化」の二つの側面があると考えることができる。そこで、ユビキタス指数の作成に当たっては、この二つの側面をユビキタスネットワークの進展状況を測る基準とし、これら二つの基準を表すデータのうち、過去にさかのぼり長期系列で利用可能なものの中から、「普及の拡大」については、「固定電話加入契約数」、「移動体通信加入契約数」、「パソコン世帯普及率」、「インターネット利用行動者率」及び「ブロードバンド契約数」の5系列、「利用の深化」については、「情報流通センサス選択可能情報量」、「企業におけるテレワーク実施率」及び「ソフトのマルチユースの割合」という3系列、合計8系列を選定し、それらを基に2000年時点の東京都の値を100として、1975年から2005年までの都道府県別のユビキタス指数を算出した(図表1-1-1-4)。 図表1-1-1-4 都道府県別ユビキタス指数の推移  ユビキタス指数の推移を見ると、指数の値は全体として大きくなってきており、2000年以降はその伸び率が急激に増加している。また、各都道府県のユビキタス指数を比較してみると、その大きさにも伸び率にもばらつきがあることが分かる。2000年から2005年の間に、東京都では、7.6倍の伸びを示しているのに対し、青森県では、4.7倍の伸びにとどまっており、都道府県間ごとにばらつきが見られる。 2 都道府県別ユビキタス指数の算出の詳細については、付注1を参照