(3)ユビキタスネットワークの進展と地域経済成長  以下では、各都道府県の経済成長に対する情報通信資本とユビキタスネットワークの進展の影響について、マクロ生産関数モデルを用いて分析を行う。ここでは、作成したユビキタス指数を用いて、ユビキタスネットワークの進展に伴う「普及の拡大」と「利用の深化」の効果を考慮したモデルを考え、経済成長に対するユビキタス化の効果を検証してみる。 ア 推定モデル  ここで用いた生産関数モデルは、次のとおりである3。なお、モデルには、各都道府県別の違いをとらえるために、都道府県別係数ダミー変数を導入した。  Y:産出、Kall:総資本、Ki:情報通信資本、L:労働投入、U:ユビキタス指数、dpp:都道府県別ダミー変数 イ 経済成長に対するユビキタス化の効果  推定を行った結果をまとめたものが、図表1-1-1-5である。推定結果を見ると、すべての都道府県において、情報通信資本にユビキタス指数を乗じた変数は有意にプラスになっており、情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果が労働生産性の向上にプラスの貢献をしていることが確認された4。 図表1-1-1-5 都道府県パネルデータを用いたモデルの推定結果  このことは、ユビキタスネットワークが進展し、企業や産業分野のみならず、個人や世帯等を含むあらゆる領域で情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果が働き、新たなイノベーションや付加価値の創出が行われるとすれば、現在は低成長にとどまっている地域の経済が大きく成長する可能性があることを示すものである。 ウ 実質県内総生産成長に対するユビキタス化の寄与  イで分析した推定結果を基に、情報通信資本のユビキタス化による経済成長への貢献を都道府県別に見たものが、図表1-1-1-6である。これを見ると、2001年から2005年の各都道府県の実質県内総生産成長率平均値に対し、情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果の寄与度は0.53%から1.71%とすべての都道府県でプラスになっており、寄与率が5割を超える都道府県は35に上っている。この結果から、都道府県間にばらつきはあるものの、情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果が経済成長を下支えする効果は大きいといえる。 図表1-1-1-6 都道府県別実質県内総生産成長率平均値(2001年から2005年)の要因分解 エ 地域経済成長の将来見通し  イ及びウの推定結果を基に、今後、情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果がどの程度経済成長に寄与するかについて、2011年の実質県内総生産成長率の将来予測を行った5(図表1-1-1-7)。 図表1-1-1-7 都道府県別実質県内総生産成長率(2011年)の要因分解  この結果を見ると、2011年の各都道府県の実質県内総生産成長率に対する情報通信資本によるネットワーク経済性及び利用面の効果の寄与度は0.90%から2.53%であり、ウで見た2001年から2005年の実質県内総生産成長率平均値に対する寄与度よりも更に大きな値となる。つまり、情報通信資本の蓄積が順調に進むとともに、ユビキタスネットワークが進展すれば、すべての都道府県において更なる経済成長を達成できる可能性があることが示された。 3 情報通信資本の経済成長に与える効果は、ユビキタス化の進展度により異なることから、ここでは、ユビキタス化の進展状況を示すユビキタス指数を乗じた情報通信資本ストックの寄与度を推計している。使用データの詳細については、付注2を参照のこと。なお、推定方法については、不均一分散と系列相関の問題に対処するため、今回は実行可能一般化最小二乗法を用いた 4 平成19年版情報通信白書では、企業等の生産活動は規模に関して収穫一定としつつ、情報通信資本についてはネットワーク経済性が働き、それに起因して、経済全体として収穫逓増が生じていること及び企業等の生産活動は規模に関して収穫一定としつつ、情報通信資本のネットワーク経済性に加え、「普及の拡大」や「利用の深化」といったユビキタスネットワークの利用面の効果に起因して、経済全体として収穫逓増が生じていることを確認した 5 将来予測の前提として、労働時間及び就業者数については、2000年から2006年までの平均成長率で延長、民間総資本ストック、一般資本ストック、情報通信資本ストック及び設備稼働率については、2002年から2005年までの平均成長率で延長して各データの予測値を算出した。また、ユビキタス指数については、各データの普及曲線を推定し延長して算出した。なお、将来予測の算出方法の詳細については付注3を参照