(4)地域間の資本の配分による経済全体への影響  (3)エで行った実質県内総生産成長率の将来予測から、予測期間中、情報通信資本の蓄積とユビキタス化の進展は、すべての都道府県の経済成長に対してプラスに寄与し、2011年には、その寄与度は2001年から2005年の寄与度よりも高まるという推計結果が得られた。つまり、(3)エで前提とした条件の下では、情報通信資本の蓄積とユビキタス化が順調に進むことにより、2011年には経済成長が更に押し上げられる効果がある可能性があることが示された。  この結果から、更に情報通信資本とユビキタス化の寄与を高める方策を講ずれば、経済全体の成長を一層高めることが可能になると考えられる。  そこで、情報通信資本とユビキタス化の寄与を高める方策の一つとして、ユビキタス化の基礎となる情報通信資本の蓄積を進めることを考える。以下では、それによってユビキタス化の進展を促し、経済成長が促進されるというシナリオを想定し、このシナリオに沿って経済成長のシミュレーションを行う。  情報通信資本の蓄積についての想定は、(3)エで行った将来予測で用いた2008年から2011年までの情報通信資本のその年の増加分に加えて、毎年その年の蓄積量の1%分が更に増加することを想定し、この1%の増加分の配分方法の違いによって、経済全体の成長に与える影響の大きさを分析する(図表1-1-1-8)。 図表1-1-1-8 シミュレーションで想定する情報通信資本の蓄積 ア 一人当たり実質県内総生産に着目したシミュレーション (ア)シミュレーションケース  2005年の一人当たり実質県内総生産を都道府県ごとに比較したものが図表1-1-1-9である。この図表から分かるとおり、2005年の一人当たり実質県内総生産が最も大きいのは東京都で約774万円/人、最も小さいのは沖縄県で約280万円/人であり、両者の間には約2.8倍の開きがある。所得格差を縮小させるという観点からは、一人当たり実質県内総生産が下位の都道府県に情報通信資本を重点的に蓄積し、これらの都道府県における経済成長を促進する方策が考えられる。しかしながら、経済全体の実質GDP6は、一人当たり実質県内総生産上位の都道府県に情報通信資本を重点的に蓄積する場合や、各都道府県の情報通信資本を満遍なく増加させる場合の方が大きくなるという可能性もある。また、このような配分方法の違い自体、大きな意味を持たないということもありうる。 図表1-1-1-9 2005年の一人当たり実質県内総生産  そこで、ここでは、2005年の一人当たり実質県内総生産の大きさに着目して、情報通信資本の増加分の配分について以下の5パターンを考え、配分方法の違いによって、日本全体の実質GDPに与える影響の大きさの違いについて分析する。 [1]一人当たり実質県内総生産上位10都道府県に配分する場合 [2]一人当たり実質県内総生産上位20都道府県に配分する場合 [3]47都道府県に均等に配分する場合 [4]一人当たり実質県内総生産下位20都道府県に配分する場合 [5]一人当たり実質県内総生産下位10都道府県に配分する場合 (イ)シミュレーション結果  五つのシミュレーションケースでそれぞれ情報通信資本を増加させた場合に、(3)エで行った実質県内総生産成長率の将来予測から導き出された2011年の日本全体の実質GDPの値と比較して、日本全体の実質GDPの値がどの程度増加するかをまとめたものが図表1-1-1-10である。 図表1-1-1-10 2011年の日本全体の実質GDP予測値からの増加分(一人当たり実質県内総生産に着目したシミュレーション結果)  この結果を見ると、2011年の日本全体の実質GDPの増加分は、一人当たり実質県内総生産上位10都道府県に情報通信資本の増加分を配分した場合が最も大きく、次いで47都道府県に配分した場合が大きくなるとの結果が得られた。実質GDPの増加分が最も小さくなるのは、一人当たり実質県内総生産下位10都道府県に配分した場合で、最も大きくなった一人当たり実質県内総生産上位10都道府県に配分した場合との実質GDPの増加分の差は約3,000億円であった。 イ 情報通信資本装備率に着目したシミュレーション (ア)シミュレーションケース  アで行ったシミュレーションでは、一人当たり実質県内総生産という生産活動の結果(アウトプット)に着目したが、次に、生産要素(インプット)に着目したシミュレーションを行う。ここでは、生産要素として情報通信資本に着目するが、配分方法を設定するに当たっては、情報通信資本装備率(就業者一人当たり情報通信資本ストック)を取り上げる。一定量の情報通信資本を追加的に増加させる場合、就業者一人当たりの情報通信資本ストックが小さい場合に情報通信資本を追加的に増加させたほうが、限界的な効果は大きいと考えられる。しかしながら、単に情報通信資本ストックの大小に着目した配分方法では、この効果が考慮されない。よって、ここで配分方法を設定するに当たっては、情報通信資本そのものではなく、情報通信資本装備率に着目することとした。  図表1-1-1-11は、2005年の情報通信資本装備率を都道府県ごとに比較したものである。以下では、情報通信資本装備率の低い都道府県に情報通信資本を重点的に蓄積する場合、その逆の場合、各都道府県で情報通信資本を満遍なく増加させる場合とで、経済全体の実質GDPに与える影響の大きさの差異を分析するとともに、この結果の違いを、前述の一人当たり実質県内総生産に着目した場合のシミュレーション結果と比較することで、生産活動のアウトプットに着目して情報通信資本の配分を考える場合と、生産活動のインプットに着目して情報通信資本の配分を考える場合とで、日本全体の実質GDPに与える影響の大きさの違いを見ることとする。 図表1-1-1-11 2005年の情報通信資本装備率  そこで、2005年の情報通信資本装備率に着目して、情報通信資本の増加分の配分について以下の5パターンを考え、配分方法の違いによって、経済全体の実質GDPに与える影響の大きさの違いについて分析する。 [1]情報通信資本装備率上位10都道府県に配分する場合 [2]情報通信資本装備率上位20都道府県に配分する場合 [3]47都道府県に均等に配分する場合 [4]情報通信資本装備率下位20都道府県に配分する場合 [5]情報通信資本装備率下位10都道府県に配分する場合 (イ)シミュレーション結果  五つのシミュレーションケースでそれぞれ情報通信資本を増加させた場合に、(3)エで行った実質県内総生産成長率の将来予測から導き出された2011年の日本全体の実質GDPの値と比較して、日本全体の実質GDPの値がどの程度増加するかをまとめたものが図表1-1-1-12である。 図表1-1-1-12 2011年の日本全体の実質GDP予測値からの増加分(情報通信資本装備率に着目したシミュレーション結果)  この結果を見ると、2011年の日本全体の実質GDPの増加分は、一人当たり実質県内総生産に着目して配分した場合と異なり、情報通信資本装備率下位10都道府県に配分した場合が最も大きく、次いで情報通信資本装備率下位20都道府県に配分した場合が大きくなるとの結果が得られた。逆に実質GDPの増加分が最も小さくなる場合は、情報通信資本装備率上位10都道府県に配分したときで、最も大きくなる情報通信資本装備率下位10都道府県に配分した場合との実質GDPの増加分の差は約1兆円に上ると推計された。  ここでは、五つのシミュレーションの結果の比較から、情報通信資本装備率の低い都道府県への情報通信資本の集中的な配分が、実質県内総生産の増加に及ぼす効果が強いという結果が得られた。  情報通信資本装備率の低い都道府県は、情報通信資本ストックが小さいか、又は就業者数が多い。情報通信資本の配分量が一定であれば、情報通信資本ストックが小さい都道府県の方が、情報通信資本の伸び率が大きくなる。また、就業者数の多い都道府県は、実質県内総生産も大きい傾向がある。このため、前者であれば、情報通信資本ストックが小さいことの影響、後者であれば、実質県内総生産が大きいことの影響により、集中的な配分の効果が強くなるということが考えられる。 ウ 情報通信資本の蓄積の進展による経済成長  情報通信資本だけを更に追加的に増加させた場合、日本全体の実質GDP増加という観点から見ると、アのシミュレーションでは、一人当たり実質県内総生産上位10都道府県への情報通信資本の配分が、また、イのシミュレーションでは、情報通信資本装備率下位10都道府県への情報通信資本の配分が、それぞれ最も大きな効果が得られるとの結果が得られた。  さらに、ア及びイのシミュレーションを比較して考えると、情報通信資本装備率下位10都道府県において集中的に資本深化(資本装備率の上昇)を進める方が、一人当たり実質県内総生産上位10都道府県において集中的に資本深化を進めるよりも、日本全体の実質GDPの増加分が大きくなることが示された。  この結果は、情報格差の是正という観点から考えるとより示唆に富むものであるといえる。というのは、情報通信資本装備率の低い都道府県における資本深化を集中的に進めることは、地域間の情報格差を縮小させることにほかならないからである。つまり、このシミュレーション結果は、情報通信資本装備率が低い都道府県における資本深化を通じて地域の情報格差の是正を図ることが、同時に経済全体の実質GDPを効率的に押し上げることにもつながることを示唆している。 6 ここでは、経済全体の実質GDPを実質県内総生産の合計として算出している。ただし、実質県内総生産は連鎖方式で算出されたデータを用いており、連鎖方式では加法整合性が成立しないため、厳密には各都道府県の積み上げは経済全体の実質GDPとはならない点には留意が必要である