3 変化する消費行動 (1)ユビキタスネット社会における新たな消費行動  ユビキタスネットワークの進展による国民生活の変化の中で最も顕著なものの一つが、消費行動である。インターネットショッピングを利用すれば、家にいながらにして遠く離れた地域や海外の商品を購入できるし、インターネットオークションを利用すれば、自分が不要になったものを出品して他の消費者に売ることができる。価格比較サイトを利用すれば、自分の欲しい商品がどこの店舗で最も安く購入できるかが分かるし、口コミサイトをのぞけば、自分が気になっている商品の評判を知ることができる。ユビキタスネットワークの進展は、いつでも、どこでも、情報を瞬時にやり取りすることを可能とし、これまで遠い店舗に出かけたり、安い店舗や商品の詳細な情報を探すために要していた時間とコストを縮小し、取引成立の可能性を拡大させるという点において、人々の消費行動を大きく変えるものである。  ユビキタス化以前には、情報のやり取りには時間がかかり、やり取りされる情報の量も現在と比べると非常に少なく、消費者は、限られた時間や情報という制約の中で消費を行っていたと考えられる。そのような中で消費者が商品購入に至るまでの心理状態の変化を理論化したモデルに「AIDMA」理論というものがある3。AIDMA理論では、消費行動を、商品を「認知(Attention)」するプロセス、商品に「興味・関心(Interest)」を持つプロセス、商品に対する「欲求(Desire)」を感じるプロセス、商品に対する欲求を「記憶(Memory)」するプロセス、そして商品を「購入(Action)」するプロセスの5段階から構成されるものとしてとらえている。  ところが、時間や場所を問わず、大量の情報を瞬時にやり取りすることができるようになったことで、AIDMAに別のプロセスを加えた新たな消費行動プロセスが広がりを見せている。この新たな消費行動プロセスでは、商品を「認知」し、商品に「興味・関心」を持った後、その商品についてインターネットで「情報収集」し、複数の気になる商品について集めた情報に基づき比較、検討し、「選択肢評価」を行った上で購入する商品を決定し、その後実際に「購入」すると考えられる。さらに、商品を購入した消費者がインターネット上で自らの購入体験を他者に伝え、消費者間で情報を「共有」することで、その口コミ情報が、当該商品について他の消費者の「情報収集」の対象となる。このように、商品に興味・関心を持った後は、「情報」を軸とした新たな消費行動プロセスが展開していく。つまり、ある消費者が発信した情報が、他者の消費行動プロセスのサイクルの中に組み込まれていくことによって、消費者間で情報がネットワーク化され、そうしたネットワークが幾層にも重なり多層化していくものと考えられる。 3 AIDMA理論は米国のローランド・ホールによって提唱された