(2)認知・情報収集・選択肢評価 ア 認知  消費行動プロセスの第一歩である「認知」段階について、商品を知り、興味を持つ契機になった情報源について対象商品別に見たものが図表1-3-3-1である。この回答結果によれば、「店頭」との回答が多かった商品は、パソコン・周辺機器、生活家電、衣類・アクセサリーであった。また、「テレビ」との回答が多かった商品は、音楽・映像、食品・飲料、自動車で、これらの商品については、テレビコマーシャルや、テレビの番組をきっかけとして認知されることが多いと考えられる。テレビは、音楽や映像と組み合わせて、一度に幅広い消費者にインパクトのある情報を伝達することによって、消費者が商品に対するイメージを形成したり、興味を喚起することができ、商品について知り、興味を持つ契機として重要な役割を果たしているということができる。インターネットについては、旅行・チケット、パソコン・周辺機器で「メーカーサイト/ショッピングサイト(以下「メーカーサイト」という。)」との回答が多くなっているものの、全体的には少ない割合にとどまっており、インターネットが商品を知り、興味を持つ契機になることは比較的少ないことが分かる。 図表1-3-3-1 商品を知り、興味を持つ契機になっている情報源(複数回答) イ 情報収集  ユビキタスネットワークの進展によって、人々はいつでも、どこでも、情報を入手することができるようになった。そして、企業のウェブサイトやショッピングサイト、口コミサイト等で流通する様々な情報を利用することによって、購入前に商品内容について、より簡単に、より多くの情報を獲得できるようになってきている。  消費行動の中で情報収集がどの程度定着してきているかという観点から、購入前に商品内容の詳細や評判について情報収集する頻度を尋ねたところ、「いつも情報収集する」との回答は、生活家電、旅行・チケット、パソコン・周辺機器、自動車の順に高く、それぞれ33.3%、32.6%、30.6%、28.4%であった(図表1-3-3-2)。これらの商品は、一般的に高額で購入頻度が少ないことから、消費者が購入に対してより慎重になる結果として情報収集が定着してきていると考えられる。一方、書籍・雑誌、衣類・アクセサリー、食品・飲料については、それぞれ15.3%、16.0%、18.2%と少なくなっており、購入機会が多く低額の商品については、いつも情報収集する消費者は比較的少ないことが分かる。 図表1-3-3-2 購入前に商品内容の詳細や評判をいつも情報収集する人の割合  さらに、購入前に商品の情報収集をすると回答した人に対して、収集した情報が購入決定に役に立っているかについて尋ねたところ、いずれの商品においても「役に立ち、購入の決め手になっている」との回答が最も多く、特に、パソコン・周辺機器、生活家電、旅行・チケットについては、それぞれ66.8%、65.4%、66.8%と6割を超える回答があった(図表1-3-3-3)。一方、衣類・アクセサリーや食品・飲料については、「役に立つが、購入の決め手にはなっていない」との回答も多く、それぞれ44.2%、42.2%の回答があった。これらの商品の購入を決定する際には、衣類・アクセサリーについては、サイズが自分に合うかどうか、また、食品・飲料については、実際に購入しようとする商品が新鮮かどうかといった、購入前には情報収集できない要因も重要となってくるためではないかと考えられる。 図表1-3-3-3 収集した情報の購入決定への役立ち度  また、過去1年以内に、購入前に商品内容の詳細や評判について情報収集した方法を尋ねたところ、「店頭」との回答が多かった商品は、パソコン・周辺機器、生活家電、衣類・アクセサリー、食品・飲料、自動車、「メーカーサイト」との回答が多かった商品は、音楽・映像、パソコン・周辺機器、旅行・チケットであった(図表1-3-3-4)。認知段階と比較すると、全体的には「店頭」に次いで、「メーカーサイト」の回答が多くなっており、インターネットを活用して情報収集する人の割合が高いことが分かる。これは、インターネットが、消費者が欲しいと思う情報を、その情報を欲しいと思っている消費者に的確に伝達できることから、情報収集に適したメディアであるためと考えることができる。一方、認知段階で重要な役割を果たしていた「テレビ」の回答は、一部の商品においては多かったものの全体的には少なく、情報を一方的に伝える特性を持つテレビは、消費者が情報を収集するには必ずしも適しておらず、認知段階と比較すると情報収集プロセスにおけるテレビの役割は比較的小さいと考えられる。 図表1-3-3-4 過去1年以内に購入前に商品内容の詳細や評判を情報収集した方法(複数回答) ウ 選択肢評価  購入する商品を決定する際、消費者は、収集した情報を基に複数の商品を比較、検討し、購入したい商品を少数に絞り込んだ上で、その選択肢の中から最も評価の高い商品を購入する。さらに、複数の選択肢を評価する際には、様々な評価軸を設定し、それらの評価軸上で各商品がどこに位置付けられるかという点を基に判断を行う。  そこでまず、事前に複数の商品の機能や販売店を比較するかを対象商品別に尋ねたところ、「いつも比較している」との回答が最も多かったものは生活家電で45.9%、以下、パソコン・周辺機器、自動車の順で、それぞれ36.3%、32.1%であった(図表1-3-3-5)。比較においても、情報収集と同様に、購入頻度が少なく高額の商品について「いつも比較している」との回答が多い傾向があった。一方、回答が少なかったものは、書籍・雑誌の7.6%、音楽・映像の13.1%であった。 図表1-3-3-5 事前に複数の商品の機能や販売店をいつも比較する人の割合  さらに、それぞれの商品について事前に比較すると回答した人に対して、比較した情報が購入決定に役に立っているかを尋ねたところ、「購入の決め手になっている」との回答が多かったものは、生活家電で73.6%、パソコン・周辺機器で69.9%、旅行・チケットで64.1%と、これらの商品の傾向は情報収集で見たのとほぼ同じであった(図表1-3-3-6)。 図表1-3-3-6 比較した情報の購入決定への役立ち度  また、事前に複数の商品の機能や販売店を評価する際の方法について尋ねた結果をまとめたものが、図表1-3-3-7である。これを見ると、8種類の対象商品は、評価する際に利用される方法によって大きく2通りの商品群に分けることができる。「メーカーサイト」との回答が比較的多い音楽・映像、パソコン・周辺機器、旅行・チケットと、「店頭」との回答が比較的多い書籍・雑誌、生活家電、衣類・アクセサリー、食品・飲料、自動車である。 図表1-3-3-7 過去1年以内に事前に複数の商品の機能や販売店を評価した方法(複数回答)  「メーカーサイト」で評価するとの回答が多かった前者の商品群については、購入を決定する際に商品を評価する軸の中心は、価格や機能といった点であると考えられる。また、音楽の購入に当たっては、購入する前にウェブサイト上で試聴できることが多い。このような商品を購入しようと決めるに当たっては、商品を評価する判断材料はインターネットを通じて集めることができるため、情報を収集しさえすれば、その場で意思決定を行うことができる。つまり、わざわざ店頭に出向いて改めて商品評価をする必要性が小さく、情報収集から購入決定までのプロセスが非常に短いと考えられる。  一方、「店頭」で評価するとの回答が多かった後者の商品群については、購入を決定する際、価格や機能といった軸に加えて、商品の見た目やデザイン、内容、品質、サイズ等、インターネットでは集められない判断材料によっても商品の評価を行うと考えられる。したがって、このような商品を購入しようと決めるに当たっては、店頭に出向き、これらの評価軸上でその商品がどのあたりに位置付けられるかも考慮した上で、購入を決定すると考えられる。つまり、商品の選択肢評価に当たっては、その商品の特性や、消費者の評価軸の設定によって、インターネット利用に親和性が高いものと、そうでないものとがあることが分かる。しかしながら、例えば、今後、より多くの書籍でウェブサイト上での「試し読み」ができるようになるなど、インターネットを通じてより多くの情報が提供されるようになれば、選択肢評価におけるインターネット利用が更に広がる可能性も十分あると考えられる。 エ 認知から選択肢評価のプロセスにおけるメディアの特性  以上の結果を基に、消費行動におけるメディアの特性をまとめたものが図表1-3-3-8である。マスメディアであるテレビや新聞については、一度に幅広い消費者に情報を伝達することが可能であり、書籍・雑誌については、ターゲットを絞った上で詳細な情報を伝達することが可能である。これに対して、ウェブサイトはインターネットユーザーが欲しい情報を自ら引き出す能動的なメディアであり、多くの詳細な情報の伝達が可能であるほか、双方向の情報のやり取りが可能なメディアである。したがって、テレビや新聞等のマスメディアは認知拡大に適している一方、ウェブサイトは理解促進に有効なメディアであると考えることができる。 図表1-3-3-8 消費行動プロセスにおけるメディア特性  広告媒体という観点からメディアを見ると、平成19年の日本の総広告費7兆191億円(対前年比1.1%のうち、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの四媒体の広告費はすべて前年から減少している一方、インターネット広告費4は6,003億円と対前年比24.4%の増加となっており、インターネットは、雑誌を上回り、テレビ、新聞に次ぐ広告メディアとなった(図表1-3-3-9)。 図表1-3-3-9 日本の広告費の推移  インターネット広告の拡大の背景には、まず、インターネットが社会生活や企業活動の基本的なインフラとして定着しつつあり、より多くの人が利用するメディアとなってきたことに伴い、広告媒体としての価値が飛躍的に高まってきたことがある。  インターネットが他のメディアにはない様々な特長を有していることも、インターネット広告の拡大を後押ししているといえる。  第一に、インターネットは、対象とする消費者に対して、他のメディアよりも効果的に広告を届けることができる。というのも、インターネットは能動的なメディアであり、かつ双方向性も有している。したがって、ユーザーがどのような事柄に興味や関心を持っているかを、ユーザーが起こす行動から得られる情報(例えば、検索するキーワード)で把握し、それらに関連した商品の広告を見せる、という非常に精度の高い広告提示が可能である。  第二に、インターネットでは、ユーザーが自社のサイトにアクセスした記録や、自社のウェブサイトで商品を購入した記録等がデータとして記録されるため、このようなデータを分析すれば、自社のウェブサイトで「いつ」、「誰が」、「何を」見たかといった、インターネット広告の効果を測定する上で有用なデータを取得することができ、広告の費用対効果の測定が可能となる。  第三に、「クロスメディア」と呼ばれる広告手法の広がりが挙げられる。これは、テレビ広告の最後にキーワードを提示し、「続きはウェブで」等と告知することによって、テレビ広告で商品のイメージを形成しつつ、提示したキーワードを手掛かりにインターネットに誘導し、詳細な情報についてはインターネットで伝える手法である。実際、テレビ、新聞、雑誌・書籍及びラジオで得た情報について詳しく知るためにパソコンや携帯電話のウェブサイトを利用する人に対し、どのような方法で情報を検索するかを尋ねたところ、「提示された検索キーワードで検索する」と回答した人が71.9%に上っている(図表1-3-3-10)。この結果からも、テレビや新聞で情報を得た後、それを詳しく知るために検索キーワードを手がかりにインターネットで情報を入手するという流れが消費者の間に広がりつつあることが分かる。 図表1-3-3-10 テレビ、新聞、雑誌・書籍及びラジオで得た情報について詳しく知るためにパソコンや携帯電話のウェブサイトを利用する人の情報の検索方法  また、従業員100人以上の企業におけるインターネット広告の実施状況を見ても、全体で27.6%と1/4以上の企業がインターネット広告を実施している(図表1-3-3-11)。特に1,000人以上の企業では約4割の企業がインターネット広告を実施しており、従業員規模が大きいほど実施割合が高い傾向がある。 図表1-3-3-11 インターネット広告の実施率(従業員規模別)  また、実施したインターネット広告の種類については、「バナー広告」が52.7%と最も多く、次いで「メールマガジン」が37.5%であった(図表1-3-3-12)。バナー広告は、ウェブサイト上で、画像や写真等で表現された広告で、掲載されている広告から広告主のウェブサイトにリンクが張られているため、広告をクリックすると広告主サイトが開き、そこからより詳しい情報を得ることができる仕組みになっている。バナー広告はウェブサイトの上部等、比較的目立つ場所に掲載されることが多く、たとえ広告がクリックされなくても商品等の認知度の向上やブランドイメージの形成等の効果が期待できる。また、2番目に多かったメールマガジンは、自ら会員登録をしたユーザーを対象に配信されるものであるためメールが開封される可能性が高いこと、また、メールマガジンの読者は特定のテーマに関心のあるユーザーであり、どのメールマガジンに広告を載せるかによって、比較的高い確率で広告主のウェブサイトに誘導することができること等の特長がある。 図表1-3-3-12 実施したインターネット広告の種類 4 インターネット広告費は、インターネットサイト上の広告掲載費(モバイル広告を含む)及び広告制作費(バナー広告等の制作費及び企業ホームページのうち、商品、サービス、キャンペーン関連の制作費)の合計