コラム 輸出と輸入が同時に伸びる現象はなぜ起こるか  情報通信関連製造業では、中国を中心としたアジア諸国との輸出入が同時に急増していることを確認したが、本コラムでは、代表的なデジタル財を例にとり、より詳しく動向を分析してみよう。  図表1は、情報通信関連製造業に該当する財の別に、国内自給率の推移を示したものである。電子計算機本体(除パソコン)、ビデオ機器、電子計算機付属装置の自給率の低下が特に著しく、平成19年時点でそれぞれ、25.4%、28.7%、30.1%の国内自給率となっている。 図表1 情報通信関連製造業の主な産業の国内自給率推移 総務省「情報通信産業連関表」により作成 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03.html  国内自給率の低下が著しい財のうち、電子計算機付属装置とビデオ機器について、輸出入の推移を見たものが図表2である。ともに輸出額が輸入額を上回り、輸出入が同時に上昇する傾向がみられる。 図表2 電子計算機付属装置及びビデオ機器の輸出入の推移 財務省「貿易統計」により作成 http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm  ビデオ機器を例にとって、地域別の輸出入の推移を見たものが図表3である。輸出では対アジアが急増し、対北米、対西欧と同額程度になってきているが、輸入では対アジアだけが伸び続けている傾向にある。  なぜ同じ財なのに、輸出と輸入が同時に伸びる現象が起こるのであろうか。国際貿易論では、「産業内貿易」という考え方がある。産業内貿易とは、同一産業内に属する財が各国間で同時に輸出入される取引を指す。グローバル化が進展し国際分業が複雑化する中で、アジア地域内でこの産業内貿易が増加しつつある。  2006年版通商白書は、東アジア地域内における産業内貿易の動向を分析しているが、それによると、情報通信機器を含む電気機械では、中間財(部品)と消費財のいずれも産業内貿易が増加している。また、これらの産業内貿易は、日本と海外で生産工程を分割する垂直分業が中心であるものの、日本と海外で部品や完成品を相互に取引する水平分業も活発化しつつある。つまり、アジア地域では、[1]単純で労働集約的な部品を生産して輸出、[2]高度な部品を生産して輸出、[3]高度な部品を輸入し、パーツやロースペックの完成品を組立・加工して輸出、[4]ハイスペックな完成品を輸出、などといった産業内での水平・垂直分業が著しく深化し、技術力の進歩や賃金水準などに応じて国際的な分業構造が形成されていると推測される。日本の情報通信企業も、垂直展開と水平展開を組み合わせながら、グローバル戦略を進めているものと思われる。  図表3のビデオ機器は最終財であるため、日本からの輸出は主にハイスペック機器(DVD録画機やブルーレイ録画機等)で、日本への輸入は主にロースペック機器という構造と思われる。しかし、技術の世代交代や前述のコモディティ化が進んでいく中で、輸出入の中身も次第に変化していくこととなろう。 図表3 ビデオ機器の輸出入の推移 財務省「貿易統計」により作成 http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm