4 情報化投資は戦略的に行うことが重要 ●日本では景気変動と情報化投資が連動  世界的な経済危機が深刻化する中で、世界の主要国は大胆な景気対策を打ち出し、情報化投資の重点化を政府主導で打ち出している。日本もこれに対抗すべく、「情報化」を加速するための政策を実現することが望まれる。  しかし、このような政策は、景気循環と逆向きの投資判断を要するため、戦略的な意思決定を必要とする。図表3-1-4-1は、景気循環と実質情報化投資の関係を示すものだが、米国では2000年のITバブル期を除き、景気減速下でも情報化投資が安定的に伸びているのに対し、日本では情報化投資の水準は景気循環に連動して上下する傾向がある。 図表3-1-4-1 日米における景気変動と実質情報化投資 総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成21年)により作成 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03.html ●継続的かつ戦略的な情報化投資が必要  この関係を、日米欧諸国を対象に比較してみよう。図表3-1-4-2は、1988〜2004年の期間において名目情報化投資(OECDの定義による名目ICT投資額)が対前年比マイナスになった回数と実質成長率との関係を示したものである。日本は、名目情報化投資が対前年比マイナスになった回数が9回と最も多く、成長率も先進国で最低水準となっている。日本のように、景気が下ぶれするとすぐに情報化投資を削減するという投資行動は、先進国ではむしろ少数派である。情報化投資は将来の成長に向けた投資と認識し、継続的かつ戦略的に加速させていくことが必要である。 図表3-1-4-2 名目情報化投資が対前年比マイナスになった回数と実質成長率との関係 OECD 2009 "General Statistics Country Statistical Profiles 2009"により作成 ●積極的な投資姿勢に転じ、次代の成長へ向けた挑戦を  設備投資全般をみても、日本企業は2002年頃からの景気回復後も慎重な投資姿勢に終始し、図表3-1-4-3が示すように、キャッシュフローの範囲でしか設備投資を行ってこなかった傾向にある。平成14年2月から平成19年10月の69カ月にわたった景気拡大は、いざなぎ景気を超え、戦後最長に及んだが、これまでの景気拡大期の中でも民間設備投資による寄与が最少であった13。慎重な投資行動は短期的には収益構造の改善に結びつくが、中長期的にみると欧米勢が金融危機に苦しんでいる間に生産性や競争力を向上させるチャンスを逃しているともいえる。 図表3-1-4-3 キャッシュフローと設備投資の推移 (出典)総務省「情報化投資及びICT関連資本の蓄積が日本経済に与える影響に関する調査」(平成21年)  日本復活に向けた挑戦としては、このような姿勢の転換を企業に促すよう、大きく舵を切る政策が必要となるだろう。特に、情報化投資の伸びが鈍いサービス業等を中心とした情報通信の利用産業を照準として、「情報化」を旗印に掲げた情報通信システム・サービスへの投資や、イノベーション誘発のための研究開発投資、情報化の成果を社会で活用するための広い意味でのインフラ整備(情報教育や職業訓練なども含む)を後押しすることが必要となる。過去最大の事業費で57兆円、財政出動で15兆円となる「経済危機対策」も発動され、投資マインドも上向きつつある環境において、日本企業が、危機をチャンスへと変えるべく、果敢に挑戦する姿勢が求められている。 13 詳細は付注11を参照