(3)「強み」を活かすための先進事例  日本の「強み」の例として携帯電話とソーシャルメディアの活用が挙げられたが、先進サービスである「交通・物流」「電子商取引」で、これらの「強み」を深化させるような利用方法にはどのようなものがあるだろうか。具体的な事例を2つ見てみよう。 ア 「交通・物流」における携帯電話の高度利用 ●ユーザーと連携して、携帯電話を活用した精度の高い渋滞回避情報を提供  携帯電話は、単に電話や電子メールの利用にとどまらず、インターネット利用はもちろん、音楽や動画の視聴、カメラ撮影、モバイルショッピング、電子マネー、電子乗車券、電子鍵など、多様なサービス利用が可能となっており、携帯電話のプラットフォームに多くの事業者が相乗りすることでワンストップ的なサービスを実現し、利用者にとって魅力的なパーソナル端末となっている。最近では、携帯電話サービスの飛躍的発展の方向性として、ライフログと呼ばれる利用者の行動履歴データの活用12に注目が集まっており、位置情報や決済履歴等の情報を活用したサービスの開発が進められている。  そこで、「交通・物流」における携帯電話の位置情報の活用事例を紹介しよう。図表3-2-4-7は、「(株)ユビークリンク」が提供するUTIS(ユビークリンク交通情報システム)の概要である。提携するタクシーの走行車両に取り付けたセンサーと携帯ナビサイト「全力案内!」利用者の位置データで交通情報を生成し、携帯電話を通じて利用者に精度の高い渋滞回避経路を誘導する世界初の商用サービスが実用化されている。渋滞の軽減による交通や物流の効率性向上、渋滞を契機とした交通事故の回避、渋滞に伴う環境悪化の改善、都市計画の効率化等への寄与が期待されている13。 図表3-2-4-7 UTIS(ユビークリンク交通情報システム)の概要 (出典)「u-Japanベストプラクティス2009」優秀事例紹介 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ict/u-japan/090601.html イ 「電子商取引」におけるソーシャルメディアの高度利用 ●消費者と連携して苦情を収集し、企業へ提供することで商品の改善に活用  前述のとおり、近年のソーシャルメディアの伸びは著しく、口コミ情報を活用した利用者発信型サービスを提供する企業の中には、不況の中でも過去最高益を記録する企業が存在する。口コミ情報の「電子商取引」への利用には、例えば消費者による価格や品質等の参照情報を比較するサイトや、ブログを通じた商品情報の発信等が挙げられるが、口コミ情報サイトを通じて消費者と直接やり取りしながら商品開発を行う事例もよく知られている。  そこで、「電子商取引」に関連して、口コミ情報の商品開発への活用事例を紹介しよう。図表3-2-4-8は、福井商工会議所が運営している「苦情・クレーム博覧会」のホームページである。「苦情・クレーム博覧会」では、これまで企業ごとに集めていた消費者からの苦情やクレーム情報を、一元的にインターネット上で効率的に収集し、苦情やクレームを投稿した人にはポイントを付与する等のインセンティブ面でも工夫を行うことで、大規模なマーケティングが困難な地場産業における中小企業が、互いに連携しあって新商品開発等に結びつける役割を果たしている。 図表3-2-4-8 「苦情・クレーム博覧会」のホームページ 「苦情・クレーム博覧会」のホームページを引用 http://www.kujou906.com/index.asp  「苦情・クレーム博覧会」では、寄せられた苦情を地域の企業に閲覧させ、その声が商品開発に役立つと判断した場合に100円の報酬を応募者に支払う仕組みとなっている。消費者にとっては、苦情が言いっぱなしに終わるのではなく新商品開発に活かされるという期待に加え、報酬を手にすることが可能である。一方、中小企業にとっても、広域に及ぶ一般消費者からの苦情・クレームを容易に把握することが可能であり、インセンティブを伴うことで今後の商品開発に有効な声が集まることが期待できる。  これまでに寄せられた苦情は4万件を超える。登録会員数は約3万人に上り、苦情をヒントに開発された商品は約50点に上っているという。 12 インターネットの世界では、利用者のウェブアクセスやメールの履歴、決済情報等がライフログとして収集されており、個々の利用者に応じた最適な広告や情報を届けるダイレクト・マーケティングやレコメンデーションに活用されている 13 「u-Japanベストプラクティス2009」優秀事例(u-Japan大賞 環境部門賞)