(2)国民の情報活用能力の高低による不安感の分析 ●スキルや技術で対処可能な課題は情報活用能力を高めることで不安が低下  それでは、情報活用能力の違いは、情報通信利用への不安にどのような影響を与えるのだろうか。国民利用者について、10の分野の中で半数を大きく超える人が不安と回答した分野のうち、不安感が大きかった「情報セキュリティ」「プライバシー」「違法・有害コンテンツ」「ICT利用におけるマナーや社会秩序」「インターネット上の商取引」「サイバー社会に対応した制度・慣行」の6分野について、利用者の情報活用能力の高低別に不安感を比較した。  図表3-3-3-2は、「情報セキュリティ」「プライバシー」「違法・有害コンテンツ」「インターネット上の商取引」の4分野について、その結果を示したものである。いずれも情報活用能力が高まるにつれて不安と回答した人の割合が小さくなっており、情報活用能力の高いグループと低いグループの差は、「情報セキュリティ」で13.4ポイント、「プライバシー」で16.2ポイント、「違法・有害コンテンツ」で18.5ポイント、「インターネット上の商取引」で17.9ポイントとなっている。 図表3-3-3-2 情報活用能力別にみた「情報セキュリティ」等4分野に対する不安感 (出典)総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(平成21年)  また、具体的課題に対する不安感をみても(図表3-3-3-3)、全ての課題について、情報活用能力が高くなるほど不安が低下する傾向がみられた。特に、利用者の技術的な対処によって脅威をある程度防ぐことのできる課題である「コンピュータ・ウィルス、スパイウェア等への感染」や「迷惑メールや迷惑電話」は、情報活用能力の低いグループと高いグループの不安と回答した人の割合の差がそれぞれ17.4ポイント、16.9ポイントとなり、その傾向が顕著に現れている。 図表3-3-3-3 情報活用能力別にみた「情報セキュリティ」等4分野の具体的課題に対する不安感 (出典)総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(平成21年) ●マナーや制度への不安は、情報活用能力の高まりによる不安低下の効果がみられず  一方、「ICT利用におけるマナーや社会秩序」と「サイバー社会に対応した制度・慣行」の2分野について情報活用能力と不安の関係を分析したものが図表3-3-3-4である。その結果、情報活用能力が高くなっても不安感が低下せず、情報活用能力が高いグループの不安感が、中程度のグループよりやや大きくなっている。 図表3-3-3-4 情報活用能力別にみた「マナーや社会秩序」「制度・慣行」の2分野に対する不安感 (出典)総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(平成21年)  具体的課題でみると(図表3-3-3-5)、「ICT利用におけるマナーや社会秩序」における課題については、情報活用能力向上による不安感の低下がみられたが、その減少幅は小さく、「サイバー社会に対応した制度・慣行」における課題については、分野そのもので不安感をみたときと同様に、情報活用能力が高いグループの不安感が、中程度のグループより大きい。この両課題は、社会におけるルールや制度等、社会全体の在り方に起因する不安であり、利用者個人の対処によって不安感が直ちに解消されるものではないため、情報活用能力の向上が不安の減少に直接結びついていないものと考えられる。 図表3-3-3-5 情報活用能力別にみた「マナーや社会秩序」「制度・慣行」の2分野の具体的課題に対する不安感 (出典)総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(平成21年) ●情報活用能力の向上で対処すべき不安と規制等の介入を要する不安  以上の結果から、「情報セキュリティ」「プライバシー」「違法・有害コンテンツ」「インターネット上の商取引」といった利用者が個別に対処することで脅威を防ぐことのできるものが多い課題については、情報活用能力の向上が不安感の低下に効果を生むことが期待される。一方、「ICT利用におけるマナーや社会秩序」や「サイバー社会に対応した制度・慣行」といった、社会全体の在り方に対する不安は、利用者個人の対処では不安感をすぐに解消することができず、情報活用能力の向上のみでは解決につながらない。したがって、情報活用能力を高める政策に加え、必要に応じて、規制やルールの整備など他の政策的対応が求められるといえよう。