みんなでつくる情報通信白書コンテスト 一般の部 優秀賞受賞コラム ICT家族 執筆 井上 剛さん(会社員・東京都文京区) コメント 実体験をもとに書きました。  「答えは、2番やな」  テレビの画面を横目で見ながら、私が宣言する。  「オッケー」  高校生の娘が答え、リモコンをテレビのほうへ向けてボタンを入力する。ほどなく結果が表示される。  「やったー。正解。ポイントいただき」  ゴールデンタイムのクイズ番組。デジタル放送ならではの双方向性を活かした、視聴者参加コンテンツだ。正解ポイントが貯まれば、プレゼント抽選に応募できる。娘のささやかな楽しみでもある−もっともまだ当選したことはないのだけれど。  自分で言うのも何だが、私はいささかクイズが得意なので、持てる知識を総動員して娘の楽しみに貢献しているわけである。  とまぁ、こう書くと一見ごく普通の家族団らんの光景のようだが、ここには実はちょっとしたからくりがある。  娘がいるのは京都の自宅の居間。同じ時刻、単身赴任のサラリーマンである私は、東京の単身寮の自室にいる。娘が観ているのは、去年奮発して購入した地デジ対応の大画面液晶テレビだ。同じ番組を、私はワンセグ放送対応携帯電話の3.1インチディスプレイで視聴している。そして、視聴者参加クイズの解答とその結果報告は、電子メールでやり取りしているのである。  どんな難問にもズバズバと正解を書き送ってくる私に対し、娘はひとかたならぬ尊敬を抱いてくれているらしいのだが、クイズマニアの私にだって苦手な分野やわからない問題はいくらでもある。そういう時には、インターネットに繋いだノートパソコンで手早く調べ物をして正解を探し出しているのだが、これは娘には内緒だ。  地デジ、ワンセグ、メール、ネット検索。これらのツールは500キロの距離を隔てて、私と娘が今までと変わらぬ親子であり続けることを可能にしてくれる。いや、もしかしたら、娘に知られないようにネット検索を活用することで、間近にいる時よりも強い尊敬の念を勝ち得ているかもしれない(笑)。  デジタルだ、ユビキタスだと世の中ではかまびすしい。それらが社会において新たなものを生み出していく原動力であることは確かだろう。けれど、私にとってそれらはむしろ、私たちが家族であり続けるための手段として、何よりも身近なものだ。そして、実はそれこそが、ICTの真価なのかもしれない。  人が人として、家族が家族として、充実した毎日を過ごせるように支えてくれる技術。そんなふうにICTがますます発展していってくれれば嬉しいな、と思う。