(1)情報通信産業による地域振興 ア 「Ruby」による地域振興の取組(島根県松江市) ●世界的プログラミング言語「Ruby」によるまちおこしにICTが重要な役割  世界的に高い評価をうけている国産プログラミング言語「Ruby」をもちいて地域振興に取り組んでいるのが島根県松江市である(図表1-1-2-1)。同市においては、島根県、松江市、中国経済産業局の支援を得て、地元事業者の「Ruby」によるビジネス機会の創造のため、企業同士の交流の場(サロン)が設置されるだけでなく、島根県や松江市及び大学が自身の情報システムに「Ruby」を積極的に調達・導入している。また、人材育成策にも注力している点も特徴的で、地元企業への「Ruby」技術者教育や大学等教育機関の学生を対象とした「Ruby」教育に取り組んでおり、同地域内での人材の集積を目指している。 図表1-1-2-1 「Ruby」による地域振興の取組(島根県松江市) (出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)  情報発信活動にも積極的に取り組んでおり、松江市で2009年9月7日、8日の2日間に「Ruby」関連に携わる各団体が一同に介する国際会議(RubyWorld Conference)が開催され、期間中は国内外から延べ約1,100人の来場を記録した。会議開催にあわせて実行委員会のWebサイトで島根及び松江の観光情報や、島根のIT産業を紹介するなど、「Ruby」を通じて同市を訪問する人々への豊かな地域資源のPRも行われていた。  同市での取組についてみると、「Ruby」開発者のまつもとゆきひろ氏を中心に「Ruby」開発・普及のため、活動目的ごとに様々な主体が設置されており、活動推進に当たり、中心人物に全ての役割を集中させるのではなく、複数に役割を分散させて一人あたりの活動負荷を下げ、継続的に参加し続けられるような工夫をしている。これら活動の情報発信や関係者間での情報共有のために、Webサイト、SNS(「まつえSNS」)、メーリングリストなどのICTが利用されている。また、「Ruby」開発のためのコミュニティの活動は、メーリングリストを中心にネット上で行われており、この面でもICTが果たしている役割は大きい。 イ アニメ産業による地域振興の取組(東京都杉並区) ●全国屈指のアニメ制作スタジオの集積を活かし、「アニメのまち」として地域活性化  平成12年当時に日本のアニメスタジオ数は約300あったといわれており、東京都杉並区にはそのうち60のスタジオの集積があったという。住宅地で形成される杉並区では、煙、騒音、振動などが出ないような業種を「緑の産業」と位置づけ、そのような産業の誘致を目指す区の方針に区内のアニメ産業の集積はちょうど合致していたことから、平成12年12月に同区の産業振興部門内に「アニメ・新産業係」を設置し、産業振興策を展開してきた9。  これまでアニメ産業振興のため同区は「杉並アニメーションミュージアム」の設立、「アニメーションフェスティバルin すぎなみ」の開催、モニュメント像の設置、人材育成などの活動を行ってきたが、これらの活動において、同区は様々な関係者をつなぐコーディネータ役に徹し、専門家の積極的な参画を促すよう役割分担面での工夫を行ってきた(図表1-1-2-2)。またアニメ産業の振興と同時に、「アニメのまち」としての認知度向上にあわせて、アニメ産業を地域資源と捉え、区内への集客を促進し観光や商店街活性化などの地域全体の活性化策につなげる様々な取組を広げている10。 図表1-1-2-2 アニメ産業による地域振興の取組(東京都杉並区) (出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)  なお、アニメ制作業界は分業化しているのも特徴であり、例えば背景、人物描画が得意な会社とそれぞれ強みが異なるという。映像コンテンツの電子化が進みコンテンツのやり取りも回線経由で行われ、区内の企業ではアメリカの大手企業とのコンテンツのやり取りをネットワークで行うところもあり、大容量のデータのやりとりができる情報通信環境が役立っている。 9 中小企業基盤整備機構「コンテンツ産業の方向性に関する調査研究」(2007)によると、全国のアニメ制作会社は626社、東京都497社(79%)、杉並区75社(12%)となっている 10 これに伴い、同区の「アニメ・新産業係」の名称も、平成22年度から「地域産業観光係」へと変更された