(4)情報化投資を加速しICT利活用を促進する場合のシミュレーション ●マクロの付加価値成長率に対する情報通信資本の寄与は、我が国は米国、英国の半分  先述(2)で検証したように、1995年以降、直近のデータで把握される2005年までの我が国の情報通信資本の成長が、米国、英国をはじめとする9か国と比べて著しく低く、10年間でみると、我が国の情報通信資本の成長は、米国・英国と比べて半分ほどであった。このことを反映して、マクロの付加価値成長率に対する情報通信資本の寄与も、我が国は米国、英国の半分に満たない(図表3-1-3-10)。また、ICT教育等の実施は、労働生産性にプラスの効果をもたらすことが本節3(3)により実証されたが、各産業におけるICT教育の実施状況は低調である。 図表3-1-3-10 付加価値成長の要因分解(10か国)(1995〜2005年) (出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年) (EU KLEMSデータベース(Release 2008, Additional files)により作成) ●情報化投資加速・ICT利活用促進により、2020年に実質成長率で約0.8%の上乗せの可能性  そこで、[1]1995年から2005年における各要素の成長率を、2020年までの10年間に適用するベースラインシナリオと、[2]情報化投資を倍増させるとともにICT教育等の推進によりICT利活用を促進するシナリオ(ベースラインシナリオにおける情報通信資本投入の成長率を2倍にし、ICT教育等により労働の質の向上を促進するシナリオ)を想定して、成長会計分析21の枠組みに基づいて2020年までの10年間のシミュレーションを行った22。シミュレーションに当たっては、EU KLEMSのデータベースにより情報通信資本の成長が総要素生産性の成長を介して産業の成長に寄与する可能性を定量的に推定した結果と、総務省「通信利用動向調査」のデータによりICTの利活用の促進が労働生産性に与える効果について推定した結果を用いている23。  このシミュレーションの結果を示したのが図表3-1-3-11である。これによると、2020年における産業別実質付加価値合計(実質国内総生産)の年率換算した成長率では、ベースラインシナリオは約1.7%、情報化投資加速・ICT利活用促進シナリオは約2.5%である。加速・促進シナリオをベースラインシナリオと対比させると、加速・促進シナリオでは成長率では約0.8%の上乗せ効果が見込まれ、情報化投資の加速とICT利活用の促進が各産業の成長を押し上げることがわかる。このことは、今後少子化を背景に生産年齢人口の減少が見込まれる我が国において、情報化投資およびICT利活用の促進が有用な経済成長戦略になりうることを示している24。 図表3-1-3-11 情報化投資加速・ICT利活用促進による産業別経済成長シミュレーション(実質GDP成長率・年率換算) (出典)総務省「産業の成長における情報通信資本の寄与に関する国際比較分析に関する調査」(平成22年) 21 経済モデルでは一般に、付加価値や総産出として測られた産出量は、生産のために利用される各要素、すなわち生産要素の投入量および総要素生産性の増減に応じて変化すると想定される。こうした各生産要素の投入量と産出量との間の数量的な対応関係は、生産関数と呼ばれる。成長会計分析は、生産関数を基にして、ある一定期間における産出量の成長率を各生産要素の投入量および総要素生産性の成長による寄与に分解するものである 22 同じ枠組みを用いてシミュレーションを行った先行研究には、2002〜2012年の日本マクロの経済成長率予測を行ったJorgenson and Motohashi (2004) がある。Jorgenson and Motohashi (2004) では、労働投入、資本投入、総要素生産性の各要素による経済成長率への寄与に関して、複数の将来シナリオが想定されている。そして、それぞれのシナリオで各要素寄与が合計されることによって、各シナリオにおける経済成長率が予測され、比較されている。本シミュレーションは、こうしたJorgenson and Motohashi (2004) のシミュレーション方法を適宜参照する。ただし、Jorgenson and Motohashi (2004) は日本マクロを対象としているのに対して、本シミュレーションは産業別を対象としており、各産業の付加価値を集計して日本マクロの付加価値にしている点に違いがある 23 推定結果の詳細については付注9を参照 24 情報通信資本を含めた我が国のマクロ生産関数を推定した結果に基づき、日本経済の成長力について考察した篠崎(2007)は、「情報資本の深化が米国並みに進展すれば、人口減少要因を織り込んでも、日本経済の成長力が2%台半ば以上に加速する余地がある」と述べている