(3)購買プロセスの変化 ●「AISCEAS」といわれるような購買プロセスが一般化  ロングテール現象4と呼ばれるように、インターネットショッピングの拡大により多様で小規模な商品需要に対応して幅広い商品が扱われるようになっている中、インターネットでどのように商品を購入しているのだろうか。  例えば、夏に新しい服を買う時を考えてみよう。クールビズ対策が重要だと感じていたところ、テレビの情報番組で紹介していたブランドAのシャツに注意を向ける(Attention)。そして、そのシャツが「何となく涼しそうだ」と、興味・関心を抱き(Interest)、実際にブランドAのシャツの情報収集、つまり、検索(Search)を行う。ここまでの行動によって、具体的な評価を伴い、ブランドAのシャツに対して興味・関心を抱くことになるが、即座に購入するわけではなかった。そこで、他ブランドのシャツとの製品比較(Comparison)や、アウトレットショップなど別店舗との価格比較をし、店員から購入者の評判などを聞き、意思決定の補強・裏付けとする検討(Examination)も行った上で、購入の意思決定を行い、行動(Action)に移る。その後、会社の同僚にこの商品のことを話し、共有(Share)をする。  これらの一連の流れは、AISCEAS5という購買プロセスといわれている(図表1-3-3-8)。この購買プロセスはインターネットの普及により生まれたものとされているが、具体的な購買プロセスをみてくると、インターネットに限らずに起きていたこととも考えられる。では、インターネットの普及により、これらの購買プロセスはどのように変化をしたのだろうか。 図表1-3-3-8 インターネットショッピングにおける購買プロセスの変化 (出典)総務省「ICTインフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査」(平成23年) ●インターネットによって、各購買プロセスが容易になった  メールもホームページもなかった頃を想定すると、製品の詳細情報を収集するためには、実際に店頭に赴き、製品の実物を確認したり、店員の説明を聞いたり、カタログを見たり、といった方法があったが、どれも手間と時間がかかる方法であった。製品間・店舗間の比較では、自分の足を使って複数の店舗を回ることで比較が可能であるが、手間や時間がかかるのに加えて、比較可能な範囲(製品の種類、店舗の場所等)も限定的であった。現在、インターネットショッピングにおいては、価格比較サイトが頻繁に使われるようになっている(図表1-3-3-9及び図表1-3-3-10)。他者の口コミや感想の参照では、学校や職場での友人・知人といった地縁・血縁の範囲での意見、マスメディアで紹介された範囲での意見を聞くことはできても、意見の数や内容は限定的であり、自身が欲しい情報、自身と同じ場面での意見を得ることは難しかったと言える。同様に、自分が口コミや感想を発信する場合においても、インターネットが登場する以前は、発信の場や発信の影響は限定的であった。 図表1-3-3-9 インターネットショッピングの利用実態(購入スタイル) (出典)総務省「ICTインフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査」(平成23年) (経済産業省「平成22年度電子商取引に関する市場調査」により作成) 図表1-3-3-10 価格比較サイト「価格.com」におけるページビューの推移 (出典)総務省「ICTインフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査」(平成23年) ((株)カカクコム決算説明資料より)  このように、インターネットの登場によって、それぞれの購買プロセスは影響を受けているが、その中でも、「検索(Search)」、「比較・検討(Comparison/Examination)」、「共有(Share)」に関しては、従来よりも手間と時間を軽減するだけではなく、従来は成し得なかった経験を提供しているという点で、インターネットがもたらした変化は大きいと考えられる。 4 ロングテール現象:ロングテールと呼ばれる需要の小さい商品群であっても、ネットワークを活用して需要を束ねることで、一定の売上規模に達することが可能であり、多様で小規模な需要であっても、魅力ある市場として成立するという現象 5 AISCEAS:購買プロセスや購買心理を表す理論の一つとして、アンヴィコミュニケーションズが提唱したもの。購買プロセスには、他に代表的なものとして、E・K・ストロング(米国)が提唱したAIDA、サミュエル・ローランド・ホール(米国)が提唱したAIDMA、電通が提唱したAISASなどがある