(4)サイバー空間の在り方に関する国際的な議論の状況  2011年(平成23年)はインターネットに関わる様々な国際会合が開催され、サイバー空間の国際ルールの在り方に関する議論が活発に行われた。  同年5月にドーヴィル(フランス)で行われたG8ドーヴィル・サミットでは、3つの優先課題の一つとしてインターネットが取り上げられた。首脳宣言においてインターネットがグローバル経済成長の牽引力であることが確認されるとともに、@クラウドコンピューティング等の新たなサービスによるイノベーション・成長機会の認識、A知的財産侵害への対応、個人情報保護、セキュリティ等における国際協力の推進、B児童のための安全なインターネット利用環境整備等について盛り込まれ、採択された。  また、同年11月にロンドン(英国)で開催されたロンドン国際サイバー会議においては、サイバー空間の経済的・社会的便益、サイバーセキュリティの確保、サイバー空間における国際安全保障等が議題となった。特にサイバー空間の@経済成長・発展、A社会的便益、Bサイバー犯罪、C安心・安全なアクセス、D国際安全保障について分科会が設けられ議論が行われた。  同会議の議長声明においては、@世界規模での自由な情報流通、思想・表現の自由を推進・保護し、投資を促進するとともに、国境を越えたサービスの発展を支える政策が求められる旨が確認されたこと、A人権保障を阻害しない範囲でのサイバーセキュリティの確保、言語・文化・思想の多様性の尊重、プライバシー・個人データの保護、デジタル・ディバイドの解消等についての必要性が確認されたこと、などの内容が盛り込まれた。  また、このフォローアップとして、2012年(平成24年)10月にハンガリーでブダペスト国際サイバー会議が開催される予定である。  このほかにも、2011年(平成23年)には、6月にパリ(フランス)で開催されたOECDインターネット経済に関するハイレベル会合や同年10月にパリで開催されたNew World2.0(インターネット大臣級セミナー)、同年11月にアヴィニヨン(フランス)で開催されたアヴィニヨン文化サミット2011(G8文化大臣会合)、12月にハーグ(オランダ)で開催されたフリーダムオンライン閣僚級会合等において、インターネットやサイバー空間の在り方に関する議論が行われた。これらのうち、ハーグで開催されたフリーダムオンライン閣僚級会合においては、インターネット上の表現の自由の保護を目的として形成された有志による共同宣言(Joint Action)が発表された。また、12月のOECD理事会においては、前述のOECDハイレベル会合で策定されたインターネット政策立案のための原則が勧告化された。  国連総会第一委員会(国際安全保障・軍縮担当)は、2010年(平成22年)12月、「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」に関する政府専門家グループを設置して国家のICT利用に関する規範について2012年(平成24年)から2013年(平成25年)にかけて議論することを決定した。これを受け、2011年(平成23年)9月、ロシア・中国・ウズベキスタン・タジキスタンの4か国が、国連総会に「情報セキュリティのための国際行動規範(案)」の共同提案を行った。この行動規範(code of conduct)案においては、@テロリズム、分離主義、過激主義を扇動する情報や、他国の政治、経済、社会的安定性や精神的・文化的環境を弱体化させる情報を阻止するために協力すること、A他国の政治経済社会の安全保障に脅威を与えるためにそのリソース、重要インフラ、中核技術やその他の優位性を使用することを防ぐため、ICT製品やICTサービスの安全を確保するよう努力すること、B情報スペースにおける権利及び自由については、関連する国内法令に従うという前提で十分に尊重すること、といった事項が盛り込まれており、情報セキュリティの確保に関し、各国の主権の尊重を強調する内容となっている。  国連総会第二委員会(経済・金融担当)においては、委員会はもとよりその委託を受けた経済社会理事会下部の科学技術委員会においても、世界情報社会サミット(WSIS)のフォローアップの一環としてインターネットガバナンスの在り方に関する議論が行われている(第5章第7節参照)。  また、ITU憲章や条約を補完する業務規則であり、国際電気通信業務の提供、料金決済等について取り決めている国際電気通信規則(ITR)が、2012年(平成24年)12月にドバイ(アラブ首長国連邦)にて開催される世界国際電気通信会議(WCIT-12)において、1988年(昭和63年)に制定されてから初めて見直されることとなっている。インターネットに関連する新たな課題を盛り込むかどうかが焦点のひとつであり、2011年(平成23年)9月には、中国が、「国が通信セキュリティ確保の責任を負い、権利を有する」との趣旨の条文案を提案した。これに対し、我が国からは、「国が電気通信事業者に対してセキュリティ確保措置を奨励する」旨の対案を提案し、2012年(平成24年)3月のアジア地域内の調整では、我が国の対案が多数の支持を集めた。なお、同年4月にはロシアが、「国による加入者の特定、主権・国家安全保障等の侵害を目的とする国際通信サービスの利用制限、競合するインターネット資源管理メカニズムの構築」といった趣旨の条文案を提案しており、今後ITU会合において調整が図られることとなる。