トピック　「アラブの春」とソーシャルメディア

　アラブの春（Arab Spring）とは、2010年（平成22年）から2011年（平成23年）にかけてアラブ世界において発生した民主化運動の総称であり、2010年（平成22年）12月のチュニジアでの「ジャスミン革命」から、アラブ世界に波及し、現在も続いている。アラブの春をめぐる主な事件を挙げると、以下のとおりである。

図表1　「アラブの春」を巡る主な事件
（出典）総務省「情報通信産業・サービスの動向・国際比較に関する調査研究」（平成24年）

　このようなアラブの春の動きに、ソーシャルメディアはどのような役割を果たしたのだろうか。ドバイの政府系シンクタンクであるドバイ政府校（Dubai School of Government）が、FacebookとTwitterの市民運動への影響について調査分析を行っており14、その内容を紹介しつつ、「アラブの春」へのソーシャルメディアの影響を概観する。
　チュニジアで発生した「ジャスミン革命」以降のデモ活動について、図表2に示すとおり、2月4日のシリアでの抗議活動を除き、ソーシャルメディアにおいて参加の呼びかけが行われている。アラブ地域での抗議の呼びかけの多くは、主としてFacebookによりなされており、同校では、「Facebookが、人々が抗議行動を組織した唯一の要因ではないが、それらの呼びかけの主たるプラットフォームとして、運動を動員した要因であることは否定できない。」とし、「Facebookの浸透度が低い国においても、活動の中核にいる人々が他のプラットフォームや伝統的な現実世界の強固なネットワークを通じてより広いネットワークを動員する有益なツールであった。」としている。また、その一方で、抗議活動自体が、アラブ世界におけるFacebook利用者の増加につながっているとみられるとしている（図表3）。

図表2　デモ活動に係るFacebookによる抗議の呼びかけ
（出典）Civil Movement： The Impact of Facebook and Twitter / Dubai School of Government

図表3　2011年（平成23年）におけるFacebook利用者の増加率（2010年（平成22年）同時期との比較）
（出典）Civil Movement： The Impact of Facebook and Twitter / Dubai School of Government

　同校がエジプト・チュニジア両国のFacebook利用者に対して行った市民運動期間中のFacebook利用調査によると、「アラブの春」の期間中にFacebookを使用した主な理由は「運動の背景に関する認知度を高めること」が両国で最も高く、運動や関連情報に関する情報発信や、運動に係る計画や活動家間の管理を含めると、8割を超える利用者が市民運動関係の情報行動をFacebookにおいて行っていたことになる（図表4）。また、「市民運動期間中に、どこから事件に関する情報を得ていたか。」との質問に対しては、ソーシャルメディアとの回答が両国とも最も高い（図表4）。

図表4　民主化運動期間中のソーシャルメディアの利用（エジプト・チュニジア）
（出典）Civil Movement： The Impact of Facebook and Twitter / Dubai School of Government

　なお、両国での調査では、政府機関によるインターネットの遮断の効果についても質問しているが、両国で半数以上が、より人々の活動を活発化させるなど社会運動側にとって肯定的影響があったと回答していることが興味深い（図表5）。このように、「アラブの春」の動きは、ソーシャルメディアと密接な関係にあり、ソーシャルメディア利用者は、表現の自由に対する価値観を強めているといえるだろう。

図表5　政府によるインターネット遮断の抗議活動への影響
（出典）Civil Movement： The Impact of Facebook and Twitter / Dubai School of Government


3　http://www.tgdaily.com/software-features/58426-arab-spring-really-was-social-media-revolution
http://www.onlinesocialmedia.net/20110118/tunisia-twitter-revolution-social-media-aspects/
4　http://gigaom.com/2011/01/14/was-what-happened-in-tunisia-a-twitter-revolution/
5　Project on Information Technology and Political Islam:（アメリカのワシントン大学のプロジェクトで、300万件のツイート、YouTubeに投稿された動画、ブログなどの分析を通して、ソーシャルメディアを介してチュニジアやエジプトの情報が世界中に広がっていた姿を数値的に分析）
6　http://www.nytimes.com/2011/01/26/world/middleeast/26egypt.html?_r=1&hp
http://www.thedailybeast.com/newsweek/2011/01/22/the-revolution-comes-to-egypt.html
7　http://www.csmonitor.com/Innovation/Horizons/2011/0202/Egypt-reopens-Internet-Facebook-access
8　http://www.huffingtonpost.com/2011/02/02/egypt-facebook-use-internet_n_817710.html9　http://dl.dropbox.com/u/12947477/publications/2011_Howard-Duffy-Freelon-Hussain-Mari-Mazaid_pITPI.pdf
10　http://www.dsg.ae/en/ASMR2/Images/report.pdf
11　http://bikyamasr.com/27802/supreme-military-council-promotes-itself-on-facebook/
12　http://www.huffingtonpost.com/2011/02/18/libya-internet-shut-down-_n_825473.html
13　http://english.al-akhbar.com/content/social-media-yemen-expecting-unexpected
14　“Civil Movements： The Impact of Facebook and Twitter” Dubai School of Government　2011年（平成23年）5月