(2)諸外国におけるサイバー空間への戦略的取組 ア 米国における取組  米国では、サイバー空間のセキュリティ確保に関連する組織として、国土安全保障省、国防総省・国家安全保障局がある。国土安全保障省では、国防関係を除く連邦政府ネットワークや民間重要インフラの保護を主に、関連省庁やFBI等と連携してサイバーセキュリティ全般を所管している。他方、国防総省・国家安全保障局では、国防、安全保障に関する分野を所管しており、2009年(平成21年)6月にはサイバー司令部を設立している。  米国での具体的な取組としては、2011年(平成23年)5月に上記2(3)に示した「米国サイバー空間の国際戦略」を発表したが、同月にホワイトハウスから、重要インフラのサイバーセキュリティ対策強化のための連邦省庁の権限の明確化等を含むサイバーセキュリティ立法提案を公表している。  本提案では、@アメリカ国民の防護(情報漏洩の検知、コンピュータ犯罪への罰則)、A連邦政府のコンピュータとネットワークの防護(管理、人事、侵入防止システム、データセンター)、B国家重要インフラの防護(産業界・州政府・地方政府への政府支援・任意の情報共有、重要インフラのサイバーセキュリティ計画)、C個人のプライバシーと自由を守るためのフレームワークの構築について、各機関の権限の明確化や各種規律の策定等が示されている。  また、同年7月には、国防総省より、「米国サイバー空間上の作戦のための国防総省戦略」が公表された。これは、2010年(平成22年)の「国家安全保障戦略」等を受けて、同省が初めてサイバー空間戦略を取りまとめたもので、当該戦略では、同省がサイバー空間で効果的に作戦展開し、国家利益を保護し、安全保障上の目標を達成するための指針として、@サイバー空間の作戦領域化、Aネットワーク・システムの防護、B米国政府機関や民間との連携強化、C同盟国や国際的パートナーとの堅牢な関係構築、D人材開発・技術革新への投資の5つの戦略的イニシアティブを提示している。 イ 欧州における取組  欧州連合では、欧州ネットワーク情報セキュリティ庁が、ネットワークセキュリティ及び情報セキュリティに関する予防・対応能力を強化することを任務として、分析のための情報収集等を行っているが、近年のサイバーセキュリティを巡る状況を踏まえ、2010年(平成22年)9月にEU諸機関及び加盟国等のサイバーセキュリティ能力向上支援など、同庁の役割強化が欧州委員会から提案されており、欧州議会及び加盟国政府により構成される理事会において審議中である。  また、安全保障分野では、2007年(平成19年)4月のエストニアへのサイバー攻撃事案を機に、2008年(平成20年)3月に、NATO加盟国のサイバー防衛能力向上のためのサイバー防衛センターが設立されている。同センターは、エストニア、ドイツ、イタリア、スペインなど7か国が中心に活動し、サイバー防衛能力向上に関する戦略・戦術の研究・訓練等を行っている。  個別国では、上記2(3) に示した2011年(平成23年)11月の英国政府による「英国サイバーセキュリティ戦略」の公表のほか、ドイツ連邦政府においても「ドイツのためのサイバーセキュリティ戦略」が2011年(平成23年)2月に閣議決定されている。同戦略では、安全なサイバー空間を確保し、ドイツの経済的・社会的繁栄を維持・促進することを目的として、@基幹的な情報インフラの保護、Aドイツ国内での安全なITシステム、B行政機関における情報セキュリティの強化、Cサイバー防御センターの設立、Dサイバーセキュリティ評議会の設立、Eサイバー空間における犯罪の抑制、Fサイバーセキュリティを強化するためのEU及び世界規模の効果的な連携、G信頼性の高い情報技術の活用、H連邦政府における人材開発、Iサイバー攻撃に対処するためのツールの10分野を戦略分野として設定している。