(1)ビッグデータとは何か  ビッグデータとは何か。これについては、ビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」とし、ビッグデータビジネスについて、「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と目的的に定義している例16がある。ビッグデータは、どの程度のデータ規模かという量的側面だけでなく、どのようなデータから構成されるか、あるいはそのデータがどのように利用されるかという質的側面において、従来のシステムとは違いがあると考えられる。  まず、その量的側面については(何を「ビッグ」とするか)、「ビッグデータは、典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータを指す。この定義は、意図的に主観的な定義であり、ビッグデータとされるためにどの程度大きいデータベースである必要があるかについて流動的な定義に立脚している。…中略…ビッグデータは、多くの部門において、数十テラバイトから数ペタバイト(a few dozen terabytes to multiple petabytes)の範囲に及ぶだろう。」との見方17がある。ただし、ビッグデータについては、後に述べるように、目的面から量的側面を考えるべき点について、留意する必要がある。  次に、その質的側面についてみると、第一に、ビッグデータを構成するデータの出所が多様である点を特徴として挙げることができる。現在既に活用が進んでいるウェブサービス分野では、オンラインショッピングサイトやブログサイトにおいて蓄積される購入履歴やエントリー履歴、ウェブ上の配信サイトで提供される音楽や動画等のマルチメディアデータ、ソーシャルメディアにおいて参加者が書き込むプロフィールやコメント等のソーシャルメディアデータがあるが、今後活用が期待される分野の例では、GPS、ICカードやRFIDにおいて検知される、位置、乗車履歴、温度等のセンサーデータ、CRM(Customer Relationship Management)システムにおいて管理されるダイレクトメールのデータや会員カードデータ等カスタマーデータといった様々な分野のデータが想定されており、さらに個々のデータのみならず、各データを連携させることでさらなる付加価値の創出も期待されるところである。 図表2-1-4-1 ビッグデータを構成する各種データ(例) (出典)情報通信審議会ICT基本戦略ボード「ビッグデータの活用に関するアドホックグループ」資料  質的側面の2点目としては、ビッグデータは、その利用目的からその対象が画定できるものであり、その意味では、冒頭に掲げた定義例が有用である。ただし、その利用目的から特徴に着目する場合においても、データの利用者(ユーザー企業等)とそれを支援する者(ベンダー等)両者の観点からは異なっている。  データを利用する者の観点からビッグデータを捉える場合には、「事業に役立つ有用な知見」とは、「個別に、即時に、多面的な検討を踏まえた付加価値提供を行いたいというユーザー企業等のニーズを満たす知見」ということができ、それを導出する観点から求められる特徴としては、「高解像(事象を構成する個々の要素に分解し、把握・対応することを可能とするデータ)」、「高頻度(リアルタイムデータ等、取得・生成頻度の時間的な解像度が高いデータ)」、「多様性(各種センサーからのデータ等、非構造なものも含む多種多様なデータ)」の3点を挙げることができる。これらの特徴を満たすために、結果的に「多量」のデータが必要となる。  他方、このようなデータ利用者を支援するサービスの提供者の観点からは、以上の「多量性」に加えて、同サービスが対応可能なデータの特徴として、「多源性(複数のデータソースにも対応可能)」、「高速度(ストリーミング処理が低いレイテンシーで対応可能)」、「多種別(構造化データに加え、非構造化データにも対応可能)」が求められることとなる。  このように、ビッグデータの特徴としては、データの利用者やそれを支援する者それぞれにおける観点から異なっているが、共通する特徴としては、多量性、多種性、リアルタイム性等が挙げられる。ICTの進展により、このような特徴を伴った形でデータが生成・収集・蓄積等されることが可能・容易になってきており、異変の察知や近未来の予測等を通じ、利用者個々のニーズに即したサービスの提供、業務運営の効率化や新産業の創出等が可能となる点に、ビッグデータの活用の意義があるものと考えられる。 16 鈴木良介著「ビッグデータビジネスの時代」(平成23年11月)p.14参照。 17 McKinsey Global Institute “Big data: The next frontier for innovation, competition, and productivity”(平成23年5月)p.1参照。