1 震災時の被災地域における業務継続の状況  本項では、被災地におけるインタビュー調査に基づき、震災時の被災地域における業務継続の状況についてみていく。まず、被災地域におけるICT環境にかかる被害の実態と業務への支障についてみると、データが損失したという被害があった企業や自治体は、全体の33.1%であった。組織別にみると、自治体30.0%、企業25.8%、その他40.0%となっている(図表3-2-1-1)。また業務システムの被害については全体で36.8%であった。一方、データ損失や業務システムの被害に比べ、ネットワークに被害があったという回答は高く、全体の71.4%となっている。ICT環境にかかるバックアップ対策の取組実態をみると、業務システムについてバックアップ対策を行っている企業や自治体は、全体の62.8%に達した。一方、ネットワークに関するバックアップ対策については、対策を行っている自治体は50.0%、企業は20.0%にとどまり、全体でも26.6%と業務システムの対策状況と比較し対応していないケースが多かった。 図表3-2-1-1 ICT環境に係る被害の実態 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  これらのICT環境にかかる被害によりそれぞれの業務への影響の有無についてみると、影響があったとする回答が、全体では50.9%と半数以上となっている。組織別にみると、自治体では影響ありが55.6%、企業では66.1%となり、自治体と比べ、企業のほうが業務への影響が大きかったことがわかる。インタビューコメントをみると、「通信環境が5月まで戻らなかった。」「回線が切れたため、必要な情報をサーバから取得できなかった。」など、ネットワークに関するバックアップ対策が進んでいなかったことを指摘するコメントも多くみられた。  被災地域における今後のICT環境に関するニーズ(図表3-2-1-2)をみると、自治体においてバックアップの必要性を指摘する比率が92.3%、ASP・クラウドの必要性が80.0%、ネットワーク冗長化の必要性が66.7%とそれぞれ高い比率となっている。企業においては、バックアップの必要性について80.0%、ASP・クラウドの必要性が53.2%、ネットワーク冗長化の必要性が45.5%に達している。しかしながら、ASP・クラウドについては具体的検討に至る比率は全体の21.3%にとどまっていることがわかる。クラウド利用の利点と課題についてインタビューコメントをみると、「セキュリティの面からクラウドについては不安の方が大きい。」「クラウドを使うときの課題として、個人情報がある。そのままでは入れられないと思っている。」など、主にセキュリティ面について懸念するコメントがみられた。 図表3-2-1-2 事業継続におけるICT環境に関するニーズ (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  病院及び学校での震災によるデータ損失等の状況をみると、データ損失に至った比率が病院で27.3%、学校で40.0%に達している(図表3-2-1-3)。病院についてインタビューコメントをみると、「レセプトコンピュータや電子カルテにしていたもので、バックアップをしていなかったものは回収できなかった。」「USBは落ちてしまってデータは駄目になってしまった。」など、相当程度消失したとの回答が複数あった。一方、「カルテ(紙)もレセプトデータも全て消失。ただしレセプトデータは中央に送ったデータと照合して一部回復した。」のように、バックアップ対策により損失を最小限にとどめたケースもみられた。学校に関しては、校務システムを導入している学校において「全てのデータが水没により失われた。」というコメントもみられた。 図表3-2-1-3 病院及び学校での震災によるデータ損失及び利用できなかった業務システム (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  震災時に利用できなかった業務システムの有無についてみると、病院では60.0%、学校では33.3%が利用できなかったシステムがあると回答している。インタビューコメントから利用できなかったシステムの詳細についてみると、病院や学校において、システムが水没等により利用できなくなったケースに加え、病院では、「衛星電話があったが、使い方がわからなかった。」「発災後、病院屋上に避難した後に衛星携帯電話を何回かトライしたが繋がらなかった。」など、緊急時のシステムが整備されていながら、実際には利用出来なかったケースがみられ、事前準備の必要性が指摘されている。