(2)ICT分野での転換現象とICTの最新トレンド -スマートICT- 「ムーアの法則」 6 が示すように、ICT分野は一貫して急速に技術革新が生じてきた。それに対応して、関連する製品・サービスや利用方法は一貫して目まぐるしい発展を遂げてきているが、その流れを大きく分類すると、@コンピュータが汎用機からパソコンへと変化した1980年代の「デジタル革命」の時代、Aインターネットの普及とともにネットワークのブロードバンド化、Windowsパソコンの普及、(音声中心の)携帯電話の普及が進んだ、1990年代中盤から2000年代中盤の「ネットワーク革命」の時代、Bインターネットの社会基盤化が進むと同時に、モバイルの高速化、クライアントサーバーシステムからクラウドサービスへの移行、ソーシャルネットワークの普及が進んだ2010年前後の「ユーザー革命の時代」に大別できるものと考えられる(図表1-1-1-6)。さらに、現在スマートフォンやタブレット端末の普及により、利用者はいつでも、どこでも、インターネットを通じて世界各地の様々な情報にアクセスすることができるようになるとともに、M2Mによりモノとモノ、人とモノも常時つながり、人手を介さずにデータが生成・流通・蓄積されることになった。このようなインターネット・モバイルの社会基盤化による情報流通・蓄積が、いわゆる「ビッグデータ」と呼ばれる現象を生み出し、プロセッサによる情報処理の高速化やストレージの大容量化、価格低下と相まって、ソーシャルネットワークにおけるコメント分析だけでなく、電力網、交通網、水道網など様々な社会インフラのリアルタイム管理や、自動車の自動運転など、様々な付加価値が「ビッグデータ」から創出しうる環境が整備されつつある。また、ユーザーからみればいつでもどこでもインターネットを通じたソーシャルなつながりが確保され、様々なICTサービスをスマートフォン等を通じて受けられる状況にあり、これは「ユーザー革命」とも呼びうる状況を生みつつある。その一方で、このような変化は、ICT産業やそれを取り巻く環境に大きなパラダイム転換を生じさせつつある。 図表1-1-1-6 ICT分野の発展段階(イメージ) (出典)ICTコトづくり検討会議・岩浪構成員提出資料より作成 ア 近年のICT分野での転換現象 近年のICTの最新トレンドに伴うパラダイム転換の結果として、ICT産業や関連製品・サービスに様々な転換現象を生じさせている。ここで、近年のICT分野の転換を象徴する事例を紹介する。 (ア)フィーチャーフォンからスマートフォンへ スマートフォンの急速な普及に伴い、携帯電話市場においては、国内市場、世界市場いずれにおいても、それまで主流であったフィーチャーフォン(従来型携帯電話)を出荷台数や保有率で追い抜くと予測されている 7 (図表1-1-1-7)。 図表1-1-1-7 国内外のハンドセット(フィーチャーフォン+スマートフォン)出荷台数実績・予測 【国内市場】 (出典)株式会社矢野経済研究所「国内スマートフォン・タブレットに関する調査結果2012」(2013年2月1日発表) ※メーカー出荷台数ベース、(予)は予測値(2012年12月現在) 【世界市場】 (出典)株式会社矢野経済研究所「世界のスマートフォン・タブレットに関する調査結果2012」(2012年12月10日発表) ※メーカー出荷台数ベース(予)は予測値(2012年11月現在) (イ)パソコンからタブレット端末へ パソコンからタブレット端末への移行も急速に進んでおり、米国の調査会社各社が発表したレポートでは、2013年〜2015年にはタブレット端末の出荷台数がパソコンの出荷台数を上回ると予測している。このように情報通信端末の主役が変わりつつあることが示されている 8 (図表1-1-1-8)。 図表1-1-1-8 ノートパソコンとタブレットの出荷台数比 (出典)NPD DisplaySearch (ウ)デジタル家電と白物家電の国内出荷額の逆転 スマートフォン、タブレット端末の普及により、パソコン、携帯電話、テレビが重要品目となっている国内のデジタル家電市場にも大きな構造変化が生じている。パソコンからタブレット端末への移行、スマートフォン普及による海外製品のシェア拡大により、2011年以降のテレビ販売不振とも相まって、国内のデジタル家電の出荷額は大きく落ち込んだ(図表1-1-1-9)。その結果、テレビ、パソコンなどデジタル家電と白物家電の国内出荷額は、2003年以降デジタル家電が白物家電を上回っていたが、2012年には白物家電がデジタル家電を上回った。 図表1-1-1-9 デジタル家電と白物家電の国内出荷額の推移 (出典)JEITA資料および経済産業省「生産動態統計」より作成 (エ)グローバルICT企業の勢力変化 情報通信端末市場においてスマートフォンやタブレットの勢いが、フィーチャーフォンやパソコンを凌駕するようになったことに伴い、これらの端末に関連する事業者の間でも勢力図の変化が生じている。国内の状況については後述することとし、ここではグローバルICT企業の転換現象について述べる。 コンピュータの基本ソフトであるOSにおいて、パソコン全盛期には圧倒的なシェアを誇っていたMicrosoftであったが、スマートフォンの隆盛に伴いスマートフォン向けOSで先行するAppleやGoogleが株式時価総額で上回っている(図表1-1-1-10)。Appleは2010年4月に、Googleは2012年10月に、それぞれMicrosoftを追い抜いている。 図表1-1-1-10 Apple、Google、Microsoftの株式時価総額の推移 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」 スマートフォンの普及は半導体市場にも大きな影響を及ぼしている。パソコン全盛期にMicrosoftと組んでいたIntelを、スマートフォン向け半導体で先行していたQualcommが2012年11月にはじめて追い抜いている(その後、Intelが追い抜いている)(図表1-1-1-11)。 図表1-1-1-11 Intel、Qualcommの株式時価総額の推移 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」 (オ)通信分野における転換〜音声伝送からデータ伝送へ、固定通信から移動通信へ〜 通信分野においても、音声からデータへ、固定から移動へという転換現象が完全に定着した感がある。「平成24年情報通信業基本調査」において、電気通信事業の売上高の内訳の推移を見たところ、音声通信とデータ通信の対比では、平成23年度にデータ伝送事業の売上が音声伝送事業の売上を上回る結果となった(図表1-1-1-12)。また、固定通信・移動通信の対比では、移動通信の売上高はかなり前に固定通信の売上高を抜いているが、平成23年度にはついに、移動通信の売上高が電気通信事業の全売上高の5割を超えたところである。 図表1-1-1-12 電気通信事業の売上高の内訳の推移 (出典)総務省・経済産業省「平成24年情報通信業基本調査」 イ ICT産業の成長による経済成長の牽引 〜上位レイヤーへのシフト〜 先に述べたように、近年通信レイヤー、上位レイヤーの成長ポテンシャルの増大が顕著であるが、ICT産業のうち、情報通信関連製造業、通信業、放送業、情報サービス業、インターネット附随サービス業について、実質国内生産額、実質GDPの経年変化(平成17年価額)を平成7年から平成23年についてみると図表1-1-1-13のとおりとなっている(インターネット附随サービス業は、当該部門が創設された平成17年以降の数値)。このように、時期によりブレはあるものの、通信業、情報サービス業がおおむね成長を牽引しており、近年ではインターネット附随サービス業の伸びが顕著であるなど、統計数値上もこの傾向が裏付けられる。 図表1-1-1-13 情報通信産業における実質国内生産額と実質GDPの変化(主要部門別) 9 (出典)総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成25年) 6 米インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーアが1965年に自らの論文上に示し、その後、半導体業界やコンピュータ産業界を中心に広まった、コンピュータ製造業における歴史的な長期傾向について論じた1つの指標で、集積回路上のトランジスタ数は「18か月ごとに倍になる」というものである。 7 矢野経済研究所の調査によると、2011年度の国内ハンドセット(フィーチャーフォン及びスマートフォンの合計)出荷台数は前年度比5.7%増の3,874万台で、内訳はフィーチャーフォンが同46.8%減の1,497万台、スマートフォンが同179.4%増の2,377万台だった。2010年度ではフィーチャーフォンが2,816万台、スマートフォンが851万台であったが、1年間で一気に逆転したことになる。今後は一層、スマートフォンの出荷比率が高まると予測している。 世界規模でスマートフォンの普及状況をると、2011年の世界のハンドセット(フィーチャーフォン及びスマートフォンの合計)出荷台数は15億1,780万台で、内訳はフィーチャーフォンが10億4,370万台、スマートフォンが4億7,409万台だった。2014年にはスマートフォンがフィーチャーフォンの出荷台数を逆転する見通しとなり、2015年にはハンドセットは20億台を超え、スマートフォンの比率は約6割を占めると予測する。 8 米国の調査会社NPD DisplaySearchは、今年1月に発表した四半期ごとの予測リポートで、2013年の予想出荷台数はタブレットが2億4000万台、ノートパソコンが2億700万台になるとしている。同社は以前、2016年にタブレットの出荷台数がノートパソコンを上回ると予測していたが、予測を3年前倒しする結果となった。なお、米国の調査会社IDCの予測では2013年中にタブレットの出荷台数はデスクトップパソコンを上回り、2014年にはノートパソコンを上回るとしている。また、同じく米国の調査会社ガートナーの予測では、2015年にタブレットの出荷台数はパソコン(デスクトップとノートの合計)を上回るとしている。いずれの予測でも、情報通信端末の主役が変わりつつあることを示している。 9 本表では、情報通信関連製造業の過去の実質GDPがマイナス値となっている。これは、情報通信関連製造業の価格低下が著しいためである。本表の実質GDPは、名目国内生産額に国内生産デフレーターを除して実質生産額を算出し、名目中間投入額に中間投入デフレーターを除して実質中間投入額を算出し、前者から後者を減じた数値であるが、情報通信関連製造業の価格低下が激しい一方、中間投入財についてはそれほどではないため、国内生産デフレーターが中間投入デフレーターを大きく上回る値をとる結果、実質GDPはマイナスの値をとることとなる。