(4)G空間×ICTの利活用により目指すべき社会の姿 我が国が抱える課題を解決し、将来あるべき社会を実現するためには、具体的なG空間社会の将来像やその鍵となる「G空間×ICT」の利活用イメージを可視化、共有化することが重要である。 将来のG空間社会においては、これまで散在的・単発的であったヒト、モノ、情報等が、G空間情報とICTの徹底的利用によって、相互に「つながり」、「つながる」ことによって、これまで見えなかったヒト、モノ、情報等の可視化、共有化が進み、ヒト、モノ、情報等の共創、共助、共生等が推進される。これにより、これまで不可能又は実現困難であったことが実現する。 将来の利活用イメージとして、共創型元気経済社会、共助型安心安全社会及び共生型地域活力社会の3つに分類した上で、関連する事例について紹介する。 ア 共創型元気経済社会(G空間×ICTで「元気な経済や便利な暮らし」を実現する) 企業、自治体や市民などが、G空間とICTを活用することにより、新たな革新的かつ共創型のサービスを開発・提供し、元気な経済や便利な暮らしが実現するような社会を実現するものである(図表1-1-2-10)。 図表1-1-2-10 共創型元気経済社会における利活用イメージ (出典)総務省「G空間×ICT推進会議報告書」 例えば、小売・流通分野では、顧客の位置・行動情報を共有することにより、店舗情報の随時提供、デジタルクーポンの発行、チェックインポイントの付与、顧客情報を活用したプロモーションといったCRM(Customer Relationship Management)の高度化やGISから得られたデータを商圏・市場分析の可視化や、売上予測、販売促進支援、店舗配置計画、広告計画といったマーケティングに活用することが考えられる。 物流業や運輸業では、荷物位置や車両位置情報の共有により、荷物の入出荷状況に応じた在庫位置の最適化や在庫管理・分析といった自動倉庫ソリューションやプローブ情報の活用による配送経路の最適化、無人走行の実用化といった輸送の効率化、輸送状況の監視といった活用が考えられる。 また、次世代ITSでは、車や人などの位置情報を共有することにより、危険検知や自動制御、プローブ情報の活用による危険地点情報や渋滞情報の提供、EV充電ステーションの検索といった活用が考えられる。 さらに、機械警備や産業ロボット等のM2M通信の普及により、不審者や建機等の位置情報を共有することでエリア監視や無人機器による自動施工といった活用方法も考えられる。 このような取組の萌芽事例を挙げる。 まず、動産担保融資の取組が挙げられる(図表1-1-2-11)。金融機関が企業向け融資を行う場合、担保や保証による債権の保全が重要視されている。その手法として、不動産担保を取得することや、企業経営者等の個人保証を求めることが一般的である。しかしながら、中小企業においては担保に十分な不動産を有していなかったり、個人保証が負担になったりし、必要な額の融資を得られない場合もある。そこで、企業活動そのものを債権保全の手段とする「動産(流動資産)担保融資」が注目され、平成17年以降、制度が拡充、整備されてきたところである。2012年2月における貸出残高は約4,338億円と3年前に比べると、倍増している。 図表1-1-2-11 流通在庫を担保にした動産担保融資の仕組 (出典)総務省「我が国のG空間関連産業に係る調査研究」(平成25年) 担保となる動産としては、売掛金、機械器具類の他、店頭並びに流通在庫が対象になることが多い。これらは、不動産と異なり移動が可能なため、どこにどのような価値で存在しているかを常に把握しておくことが求められる。機械器具、在庫については、存在場所を確認するために位置情報が欠かせない。総務省の平成21年ユビキタス特区事業でも、動産担保融資に必要なG空間情報等に関する実証事業が実施されている。 次に、屋内測位技術と屋外での衛星測位を組み合わせ、屋内においてもシームレスで正確な位置情報サービスを提供することにより、ショッピングセンター内における店舗案内等の情報提供に応用した例がある(図表1-1-2-12)。独立行政法人宇宙航空研究開発機構等では、屋内において測位衛星と同等の信号を発信し、屋内での正確な測位を行うシステム(IMES:Indoor Messaging System)を開発し、東京郊外のショッピングセンターに設置した。同ショッピングセンターの8フロアに約130個の送信機を取り付け、消費者の居場所に応じた店舗の情報や広告などを提供している。例えば、貸し出した受信機を持った消費者が案内板の前に立つと、受信機はその場所を認識したことをスマートフォン等の携帯電話に転送し、携帯電話に店舗の割引クーポンや、IMESを利用した様々なアプリがダウンロードされるといったサービスが試行されている。 図表1-1-2-12 IMES発信器を内蔵した情報案内板の例 (出典)総務省「我が国のG空間関連産業に係る調査研究」(平成25年) イ 共助型安心安全社会(G空間×ICTで「安心安全な社会」を実現する) 行政、企業、住民が社会インフラ管理や防災にG空間情報を利活用することにより、フル・レジリエントな(回復力のある)安心安全な社会を実現するものである。また、行政と住民がG空間情報を介してつながることで、その時、その場所に応じた行政サービスの提供を実現するものである(図表1-1-2-13)。 図表1-1-2-13 共助型安心安全社会における利活用イメージ (出典)総務省「G空間×ICT推進会議報告書」 例えば、防災分野では、市民・施設等の位置及び被害情報を共有することで、3D地図と様々なG空間情報を活用した津波のシミュレーションを行ったり、被害状況や要援護者をリアルタイムで把握することにより、生命の確実な保護や迅速な復旧・復興につなげるといった活用が考えられる。 社会インフラ整備の観点では、社会インフラの位置・状況情報を共有することで、M2Mソリューションやビッグデータとの連携を通じたインフラ管理といった活用方法が考えられる。 また、行政サービスでは、市民や資産(個人、公共)の位置情報を共有することにより、行政情報の電子化や相互連携、オープンデータ時代において住民がそれぞれの状況、場所に応じたサービスの提供を受けられるといった活用が考えられる。 このような取組の萌芽事例として、「にいがたGIS協議会」の取組が挙げられる(図表1-1-2-14)。同協議会では、GISの官民における普及を目指しているが、その活動の一つとして災害対応がある。平成19年の新潟県中越沖地震の際には、GISを駆使して行政の意思決定に必要な情報を迅速に生成、提供した。 図表1-1-2-14 にいがたGIS協議会の概要 (出典)総務省「G空間×ICT推進会議 第2回防災・地域活性化アドホックグループ」資料 また、三重県ではGISを活用して災害復旧に関わる業務を大きく効率化させた(図表1-1-2-15)。平成23年の台風第12号は紀伊半島に洪水、土石流、山体崩壊等の大規模な災害をもたらした。被災地域を所管する三重県熊野建設事務所では、被災状況の収集と災害復旧に向けた業務に追われることとなった。災害発生箇所の情報は、現地に赴いて、紙地図に状況を記録していくこととなるが、広域の災害においては、基礎自治体ごとに方法や地図が異なっているため、地域全体の被災状況を一覧することは難しかった。そこで、同事務所では、GISを用いて県と市町、あるいは災害復旧の段階ごとに関わる様々な主体の情報共有を図ることとした。三重県では簡易GISアプリケーションソフトウェア「M-GIS」を開発し無償配布しており、現地での調査結果をM-GISによって電子データ化し、市販の高機能GISソフトウェアにデータを受け渡すことによって、高度な利用を行っている。その一つが災害復旧工事に伴う予算確保のために行う「災害査定」業務において添付が求められている「箇所図」の作成であった。その結果、従来の方法では、199箇所の被災箇所を示した8種類の図面を作成するのに、5名が5日要していたが、GISを用いることで1名が2日で行えるようになった。さらに、作成したデータを活用して、関係機関への説明資料を作成したり、復旧工事の進捗情報を市町と共有するなど、多面的な利用が行われた。 図表1-1-2-15 平成23年台風第12号災害における三重県熊野建設事務所でのGIS活用の概要 (出典)野村総合研究所作成資料 ウ 共生型地域活力社会(G空間×ICTで「活力ある地域」を実現する) “G空間情報”を通じて多様な地域資源のつながりが深まることにより、地場産業の活性化や高齢者や子どもたちをシームレスに見守ることによる安全な地域コミュニティの実現など、地域の活力を引き出す元気な社会を創造するものである(図表1-1-2-16)。 図表1-1-2-16 共生型地域活力社会における利活用イメージ (出典)総務省「G空間×ICT推進会議報告書」 まず、高齢者や子どもの位置情報を共有することにより、家庭から屋外、幼稚園・小学校等のシームレスな見守りが実現されるほか、買い物弱者の所在に応じた移動販売や買物代行コミュニティバスの運営といった対応策の立案などが期待される。 また、測位機能を持つ様々なデバイス等が現状でも普及している。これらのデバイス等から得られる測位情報と地下街、施設内におけるバリアフリー情報などを含むシームレス地図を組み合わせることで、障害者や高齢者なども含めて移動能力に応じた最適経路の案内を行うなど、バリアフリーで快適な移動の実現が期待される。 さらに、感染症の発生情報や罹患者等の位置情報を共有することで、訪問介護や医療への活用、感染症発生状況の集約と分析、研究機関との連携によるパンデミック防止に役立てるといった活用が考えられる。 また、「力強い農林水産業の再生」に向けた利活用が期待される。従来はICTの利活用が必ずしも十分とは言えなかった農林水産業において、農地・森林・港湾情報や作業者、車両、船舶等の位置情報を積極的に活用することにより、データ・営農知を生かした自動・精密農業の展開、森林資源や水産資源の予測管理、効率的な港湾管理、海難事故の回避、作業者の負荷の軽減の実現が期待される。 このような取組の萌芽事例として、島根県中山間地域研究センターの活動が挙げられる(図表1-1-2-17)。同センターは中国地方知事会の共同研究機関として、中国地方各県の広域的課題を含む、中山間地域の課題とその解決策の研究を行っている。 図表1-1-2-17 島根県中山間地域研究センターの取組概要 (出典)総務省「G空間×ICT推進会議 第2回防災・地域活性化アドホックグループ」資料 その一環として、地域課題を発見するツールとしてGISを積極的に活用しており、中山間地域の各種データベースを整備するほか、民間へも積極的に開放し、中山間地域における交通、生活、産業など多方面にわたる研究と政策立案を行っている。 また、富山市では、地域の現状を可視化するため、GIS上に年齢別の人口分布を表示するなどして、高齢者が都心部や主要な交通動線沿線に居住していることを明らかにした。同市では、この結果に基づいて、ライトレールやバス路線の整備など、コンパクトシティ形成に向けた施策の立案を行っている(図表1-1-2-18)。 図表1-1-2-18 富山市のコンパクトシティにおけるG空間情報の利活用例 (出典)総務省「ICTを活用した街づくりとグローバル展開に関する懇談会」地域懇談会の概要について