(3)通信レイヤーのグローバル展開 グローバルにおける通信市場(移動体通信+固定通信)の市場規模は、今後2017年までに2.1%で成長すると予想されている。特に移動体通信・データ通信の比率が増加傾向にあり、スマートフォンなどのモバイルデータ通信を主軸としたサービスへの着実なシフトが、グローバル規模で見込まれている(図表1-2-2-16)。 図表1-2-2-16 グローバルにおける通信業界の市場規模予測 (出典)Gartner資料より総務省作成 その移動体通信市場の地域別内訳をみると、我が国市場は2012年の世界市場の7.9%であるが、北米およびアジア・太平洋地域が各々22〜23%を占め最も市場が大きい。また移動体通信事業における2017年までの市場成長率も、成熟市場に入ってきている日本は2.0%に留まる一方、北米が5.3%、人口が多く今後の発展が見込まれるアジア・太平洋圏においては6.7%と高い成長が見込まれている。 ア 世界と日本の主要通信事業者におけるグローバル展開 世界の通信事業者の売上高(2012年連結)に基づく順位を見ると、1位が米AT&T、2位が日本のNTT、3位が米Verizonとなっており、KDDI、ソフトバンクは、それぞれ9位、13位となっている。 また売上高上位の事業者の収益構造を見ると、日本や米国などの国内市場を重視している事業者と、欧州系・新興国(中国・インド・南米)事業者では収益構造が大きく異なっている。前者の事業者は契約者1人あたりの年間売上高が500〜900ドルと収益性が高く、後者の事業者は300ドル以下となっており顧客規模の大きさが売上高の源泉になっている状況にある(図表1-2-2-17)。 図表1-2-2-17 世界通信事業者における売上比較および契約者数比較 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 一方で、通信事業者の時価総額で比較してみると、日本企業はNTTドコモが6位、NTTが8位、ソフトバンクが16位、KDDIが20位となっており、売上高の順位と比較すると、相対的に低くなっている(図表1-2-2-18)。 図表1-2-2-18 世界通信事業者における時価総額比較 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) このように、将来性の評価が含まれる時価総額でみると、日本企業の位置づけは決して高くない状況にある。また2006年の時価総額と比べると、特に売上成長率の高い上位事業者ほど時価総額が増加している傾向にあり、これらの企業と競争していくためには、成長性の追求が重要であると言えるだろう(図表1-2-2-19)。 図表1-2-2-19 世界通信事業者における売上高と時価総額の成長率 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 規模の拡大においては、1990年半ばから2000年にかけて、欧州を中心とした事業者が自国以外の国・地域での成長機会を狙い海外展開を進めてきた。特に、Vodafone・Telefonica・フランステレコム・ドイツテレコムは海外展開に積極的である。また、近年ではAmérica Móvilをはじめとする南米・アジア等の事業者も同様の展開を図っている。 これらの事業者は、積極的に展開国を増やすことで、海外売上比率を高め全体の規模拡大を図ってきており、図表1-2-2-20からも展開国数と海外売上比率の上昇に応じて売上高も増大しており、グローバル展開が全体の規模拡大に寄与してきていることがわかる。一方の日本企業については、海外企業と比較すると国内に閉じた傾向にあり、冒頭で述べたように国内市場の成長性が他地域に比べ低いことも勘案するとグローバル展開が今後更に重要になってくると言えよう。 図表1-2-2-20 世界通信事業者における海外展開と売上高の関係 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 加えて、近年の業績(営業利益率および海外売上比率)に基づき国内外の通信事業者を整理すると、海外売上比率50%を境にして大きく国内市場注力型と海外市場注力型の2つに分類される。前者においては自国の国内市場が大きい日米企業が含まれる。後者においては、経営戦略や事業環境の違いに一定程度依存するものの、成長性の高い南米やアジア・アフリカなどの国・地域への展開が多いVodafone・América Móvil、Telefonica、シンガポールテレコム(以下SingTel)等の事業者は15%以上の高い利益率を維持しており、欧州内に閉じている傾向にあるフランステレコムやドイツテレコム等の事業者は10%以下の利益率にとどまっている(図表1-2-2-21)。 図表1-2-2-21 世界通信事業者における海外売上比率と営業利益率 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) これら海外展開の手段として諸外国の通信事業者に対しM&A等の直接投資を行う場合が多いが、各々の事例を、資本参加率及び経営の介入度(投資目的)で分類すると次の3つのカテゴリに整理される(図表1-2-2-22)。 図表1-2-2-22 世界の通信事業者におけるM&A内容 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 1つ目が「投資重視型」であり、SingTelのアジア周辺国・インドへの展開、VodafoneのVerizonへの投資など、資本提携のみに留めキャピタルゲイン 30 やエクティメソッド 31 を意識した経営には介入しない傾向にある展開手法である。2つ目が「規模拡大重視型」であり、資本参加率が50%以上の場合が多く、積極的に経営に参加しているVodafoneの欧州・インド展開や、Telefonicaの南米やヨーロッパ展開等、国際的プレゼンスの向上を意識した進出方法である。最後の3つ目が「新規事業・シナジー重視型」であり、日本のソフトバンクによるインド進出や、NTTドコモのアジア進出に代表される新規事業拡大等によるシナジー効果を重視した海外展開である。 グローバル展開に積極的な海外事業者においては、これらの手法を用いて展開国ごとにその目的に応じたポートフォリオを組んでいる状況である。 加えて、通信事業者のM&Aにおいては、リーマンショックの影響で一時期落ち込んだものの徐々に底打ち感が出ており、直近におけるクロスマーケット型 32 の事例においては欧州系事業者に加え、南米・インド・中東の事業者のM&A展開も目立っている(図表1-2-2-23)。 図表1-2-2-23 世界の通信事業者におけるクロスマーケット型M&A (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) イ 通信レイヤーにおけるグローバル展開モデル 通信事業のビジネスモデルは、主に既存市場を対象とした「高付加価値化」(垂直展開)と「規模の拡大」(水平展開)の2つの方向性に大別される(図表1-2-2-24)。前者は日本の通信事業者など、自国の通信市場がある程度成熟期を迎えた場合の国内事業展開の一般的な傾向で、既存の通信事業を軸にデータセンター等のソリューションやコンテンツ等の上位レイヤーへ展開しているケースが多い。 図表1-2-2-24 通信事業者の国内・国外におけるビジネスモデル (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 一方のグローバル展開においては、主として後者(顧客基盤の拡大)を通じて規模の経済性による便益を狙うことに意義がある。これにより、通信機器のインフラ運用等を下位レイヤー企業へ外部化するといった構造変化や、将来的な高付加価値化展開に波及することが想定される。本項では、この規模の拡大を狙いとしたグローバル展開モデルについて海外の成功事例を参照しながら概観する。 ここまで述べたグローバルの通信市場の現況などを踏まえ、主な通信事業者のグローバル展開モデルを整理すると図表1-2-2-25となり、「歴史的経緯に基づく展開モデル」と「周辺経済圏地域への展開モデル」の2つに大別されることがわかる。前者は主に旧植民地時代の宗主国関係を生かした海外展開であり、後者は自国周辺地域への経済圏の繋がりを生かした展開モデルである。これら両モデルの事業者はともに自国市場の伸び悩みを背景に、南米・アジア・太平洋・アフリカ諸国といった新興国へ展開しており、海外売上比率は40〜90%弱に達する。 図表1-2-2-25 通信事業者におけるグローバル展開モデル (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) また、グローバル市場における各地域の通信市場規模の成長性と、事業者のグローバル展開をまとめたものが図表1-2-2-26である。これを見ると通信市場の成長率が-1.5%と頭打ちになりつつある欧州地域から成長性を見込める南米・中東・アフリカ地域に展開しており、メキシコのAmérica Móvilは南米へ、4.8%と高い成長性が期待されているアジア・太平洋地域においてはシンガポールのSingTelが展開範囲を広げている構図が見て取れる。 図表1-2-2-26 通信事業者のグローバル展開状況と市場成長性 (出典)Gartner資料より総務省作成 (ア)歴史的経緯に基づく展開モデル 歴史的経緯に基づく展開モデルは主に欧州の通信事業者が行っているモデルで、旧植民地時代に宗主国関係から続く繋がりを生かした海外展開である。スペインのTelefonicaや英国のVodafone、フランスのフランステレコムが代表例としてあがるが、いずれも自国市場の伸び悩みや競争の激化を背景に、成長性が見込める南米やアフリカに進出していった経緯がある。 A スペインTelefonicaのグローバル展開戦略 スペインのTelefonicaは1924年に設立された固定通信・携帯電話・映像配信サービス等を提供する欧州最大規模の通信事業者である。1997年に民営化されるまで同国唯一の通信事業者であり、現在も同国のブロードバンド市場で約5割、携帯電話市場で約4割のシェアを持つ。当初から海外展開を積極的に指向しており、1990年頃より旧植民地であった南米を中心に積極的な海外展開を行っている。この競争優位性のある地域への資本と人材の集中投資、および歴史的にスペインに関係の深い中南米への集中投資は、同社ソラナ会長の海外戦略が根幹にあるといわれている(図表1-2-2-27)。 図表1-2-2-27 Telefonicaのグローバル展開状況 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) その後2005年頃からは収益の安定性確保の観点から欧州市場を獲得し、現在では海外売上げ比率が76%まで上昇しており、スペイン国内市場の減少を海外市場の売上で賄う形になっている。同社の地域別・事業別ポートフォリオを見ると、自国をはじめとする西欧市場の縮小傾向が見られる中、ブラジルを筆頭に南米市場・移動体事業の成長を全体の事業に取り込んでいることがみてとれる(図表1-2-2-28)。 図表1-2-2-28 Telefonicaの海外売上比率の推移・構成 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 同社は加入者数・規模の拡大を特に意識しており、現在の3億ユーザーのうち半分以上は南米の移動体加入者数が占めており、China Unicom、Telecom Italiaとの戦略的な出資提携を行うことで、3社で8.7億ユーザーを抱えるとも同社は言及している 33 (図表1-2-2-29)。 図表1-2-2-29 Telefonicaの加入者数 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 加えて、同社ではグローバル展開状況及びテレコムを取り巻く環境変化等を踏まえ、世界で先導的なグローバル通信事業者となることを目的とした3か年の戦略的計画「Bravo!」を2010年に策定している。同計画により組織改編が行われ、上位レイヤー関連事業を含むグローバル事業部門を新設。同社のグローバル基盤を拡大するための取組が行われている(図表1-2-2-30)。 図表1-2-2-30 Telefonicaのグローバル体制 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) B 英国Vodafoneのグローバル展開戦略 英国Vodafoneは1985年に創業し、現在40か国に展開する世界最大級の多国籍携帯電話事業者である。同社はTelefonica同様に宗主国としての関係性を活かして海外展開を始めたが、その後M&Aとパートナーシップ(Vodafoneブランドの販売によるロイヤルティ収入等)を組み合わせた戦略により、世界全体への展開へと戦略を拡大しており、米国最大手のVerizonにも出資している(図表1-2-2-31)。 図表1-2-2-31 Vodafoneのグローバル展開状況 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 2012年の海外売上比率をみると9割近くが海外からの売上となっており、その展開地域としてはヨーロッパ、アフリカ・中欧、アジア太平洋・中東の3地域、米国Verizonへの出資の大きく4つに分類できる。特に2010年以降では、ヨーロッパ以外のアフリカ・中欧の売上増が目立っており、南アフリカでの市場シェアは同社が60%を占めている(図表1-2-2-32)。 図表1-2-2-32 Vodafoneの海外売上比率の推移と市場シェア (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 同社の特徴としてはグループ拡大に際して、世界各地で主に2〜3番目に市場参入した企業を中心に買収し、ブランドをVodafoneで統一してビジネスを行っている点である。強力なキャッシュフローを運用しながら、買収と売却を継続的に行いキャピタルゲインを意識した規模および利益の拡大を図っている。 (イ)周辺経済圏地域への展開モデル 周辺経済圏地域への展開モデルは前述(ア)とは異なり、自国周辺地域との経済的なつながりを生かした海外展開である。シンガポールのSingTelやメキシコのAmérica Móvilが代表例としてあがるが、自国市場が小さいこと等を背景に近隣諸国へ展開していった経緯がある。 A シンガポールテレコム(SingTel)のグローバル展開戦略 シンガポールのSingTelは、政府系持株会社であるTemasek Holdingsが株式54%を保有する1992年に民営化された旧国営事業者であり、前CEOは同国の元首相である。同国最大の上場企業であり、2012年現在の携帯電話契約者数は4億人以上(グループ傘下合計)を抱える。 同社はシンガポールの市場が小さいことに加え、国内における市場の自由化と競争事業者の参入が相次いだことを背景に、政府の支援も受けながら通信事業の海外展開を積極的に進めている。2000年に買収し完全子会社化したオーストラリアのOptusを皮切りに、欧米の大手通信事業者が参入していない近隣新興国に対し、資本と技術を投入し規模の拡大を図っている。これまでに20か国以上で投資を行っており、代表的なところで、インド通信大手Bhartiに32%出資し創業者に次ぐ大株主になっており、タイ最大手AISに21%、フィリピン2位Globe telecomにも44%の株式を保有するなど、アジア地域全域へ積極的な投資活動等を進めている(図表1-2-2-33、図表1-2-2-34)。 図表1-2-2-33 SingTelのグローバル展開状況 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 図表1-2-2-34 SingTelの海外売上比率の推移 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) SingTelの海外進出戦略は、図表1-2-2-35の@〜Bの段階に分かれ、まず@豪州の本格参入を通じて規模と安定性を確保し、その後A〜Bの東南アジア・アフリカにおける積極的な投資活動を通じて当該地域の成長性を取り込み、収益を高めている。 図表1-2-2-35 SingTelの展開国・EBITDA 総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) SingTel IR資料より作成 同社の利払金償却前利益(EBITDA)を見ると、約53%を自国及び@、約45%をA〜Bへの投資による収入が占めており、高収益体質の源泉の要因となっている。 B メキシコAmérica Móvilのグローバル展開戦略 メキシコAmérica Móvilは、1990年に独占事業であった公企業Telmexが、大富豪であるカルロス・スリム氏傘下の企業グループ(グルーポ・カルソ)、米国サウスウェスタンベル、フランステレコムの3者による落札を通じて民営化され、同社の携帯電話事業と海外事業が分離分社化して設立された通信事業者である。América Móvilは現在南米を中心に展開しており海外売上比率は2012年で65%に達し、その大半が南米で残りは中米〜北米である(図表1-2-2-36、図表1-2-2-37)。 図表1-2-2-36 América Móvilのグローバル展開状況 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 図表1-2-2-37 América Móvilの海外売上比率の推移と移動体通信契約数内訳 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 同社の海外展開の経緯としては、メキシコ市場においてAmérica Móvil及びTelmexの2社で多くのシェアを握った後 34 、北米、ラテンアメリカ諸国への進出を図っている。2社が海外進出に踏み切った理由として、メキシコ市場の成長が頭うちになってきたことが挙げられ、現在同社の企業戦略として、加入者数のさらなる獲得を目指して積極的にM&Aを行い、ラテンアメリカのテレコム事業におけるリーダーとなることを目標に掲げている 35 。 ウ 主要国内通信事業者における海外展開状況 (ア)NTTドコモ NTTドコモにおいては、これまでに新興国の通信事業、欧州を中心としたプラットフォーム事業等への直接投資・買収を進めてきている。今後は、こうした事業者を含めた提携・協力関係を充実させながら、今後のグローバル展開の基盤となるプラットフォーム事業を積極展開していくとしている。具体的には、コンテンツ・アグリゲーションやM2M等のグローバルなプラットフォームサービス、金融・決済等の地域特性に応じたサービスにより、産業・サービスの融合をグローバル規模で進め、スマートフォンの普及等を契機に、こうした新規領域での海外売上高について2016年3月期までに最大2,000億円を目指すとしている。 (イ)KDDI KDDIの海外コンシューマ事業としては、歴史的には1996年から住友商事と共同出資で運営しているモンゴルの携帯電話事業者「MobiCom社」があるが、近年はインターネット関連の事業ノウハウを活かし、成長著しい海外のコンシューマ・ビジネスを新興国を中心に新規展開していく方針である。バングラデッシュでは、ISP事業者「bracNet」への出資(2009年)を通じて、WiMAXを活用した固定ブロードバンドサービスを提供し、米国でも移民向けMVNO事業などを2010年より展開している 。 同社は、コンシューマ事業を含む2010年度の全海外売上(約1,600億円)を、2015年度には倍増させる目標を持っている。 (ウ)ソフトバンク ソフトバンクグループは、海外のインターネット関連事業者を中心に積極的に投資活動を行っている。具体的には、中国の電子商取引Alibaba Group Holding(31.9%)、中国の実名性SNSサイトRenren(34.1%)、米国の動画配信サービスUstream(23.4%)、シンガポールのモバイル広告プラットフォームInMobi(21.2%)、インド最大の携帯電話事業者Bharti Airtelを傘下におくBhartiグループとの合弁会社Bharti Softbank Holdings(約50%)などがある。また、通信事業では、米国3位の携帯電話事業者Sprintの株式の約78%を約216億ドルで取得することを発表しており、2013年7月上旬に本買収が完了する見込みとしている。 同社はこのように、積極的な投資を通じてグローバル展開を進めていく方針としている。また、世界各国のキャリアをはじめ、グーグル、クラウドコンピューティング技術大手のVM Ware、中国のデータセンター大手のGDSサービスなど、複数の企業と連携し、世界中で利用可能なICT環境を多国籍企業(MNC)に提供していくとともに、国内外問わず一元的に管理できるM2Mのプラットフォーム構築などを推進していくとしている。 エ 通信事業者におけるグローバル展開の課題 通信事業者におけるグローバル展開の課題は初期投資コスト等もあるものの、最も大きなものは展開先地域における外資規制である。通信は国家インフラとも言える重要産業であるため、アジア地域を中心に安全保障や自国産業保護の観点から海外企業の参入を規制しているケースが多い 36 。特にASEAN諸国においては主要事業者に限らず、電気通信サービス分野の参入に対し、広く外資規制が存在している国がほとんどである。 一方、2013年3月に我が国が交渉参加を表明したTPP(TransPacific Partnership:環太平洋パートナーシップ)協定においては電気通信サービス分野も交渉分野の1つとなっており、外資規制の緩和も扱われている模様である(図表1-2-2-38)。TPPでは高い水準の自由化が目指されており、外資規制の緩和が実現した場合、日本を始めとした海外企業の参入機会の拡大につながることが期待される。 図表1-2-2-38 TPP交渉参加国の電気通信サービス分野における外資規制(WTO約束ベース) オ 通信事業者におけるグローバル展開の展望(まとめ) 以上のような事例や分析を踏まえると、国内外の通信事業者は次の大きく2つの海外展開モデルを取っていることがわかる。@1つは旧植民地時代の宗主国としての関係性や早期の国内通信事業への競争導入による国際進出の必要性といった歴史的経緯による海外展開である。A2つ目は自国の国土や市場の狭さなどの地理的要因を背景とした周辺諸国との関係性を生かした海外展開である。 我が国においては、欧州の通信事業者に代表されるようないわゆる旧宗主国という関係性は存在しないが、TPPが対象としている北米、南米、アジア・太平洋地域は、図表1-2-2-26「通信事業者のグローバル展開状況と市場成長性」に示すように、成長性において上位3地域に該当する高成長地域である。TPPにより参加加盟国における外資規制の撤廃・緩和や通信インフラへの公平なアクセスの確保を促すことができれば、我が国の通信事業者は、参入の容易化やより良い条件でのサービス提供が見込まれるところである。このため、環太平洋地域という高成長地域に位置する我が国の特性を生かし、Aの地理的要因を背景とした周辺諸国との関係性を生かした海外展開モデルによる積極的なグローバル展開を通じて、我が国の通信事業者には、飽和状態にある国内市場の制約を超えて同地域の高い成長力を取り込むポテンシャルがあるといえよう(図表1-2-2-39)。 図表1-2-2-39 通信サービスのグローバル展開の展望(イメージ図) (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 他方、前述のとおり通信事業は他のレイヤー産業に比べ、その国のインフラに関わる重要産業である。今後のグローバル展開においては、その点も踏まえ官民一体となった展開国への働きかけが更に重要性を増してくるといえるだろう。 30 買収などで保有した株式の価格上昇による利益 31 持分法に基づく連結利益 32 国境を跨いだM&A(海外企業の買収など) 33 Telefonica社IR資料より 34 2012年時点でメキシコ国内の携帯電話市場において2社で約7割のシェア 35 同社IR資料より 36 アフリカ等の途上国はインフラ整備を急いでいるため海外企業に対する規制は少ない傾向にある。