(3)海外における先行研究事例 以上のとおり、ビッグデータの活用は成長に寄与するものと考えられることから、海外でもその活用には高い関心が払われており、実際にビッグデータを活用することにより、その恩恵を受けている企業・組織も現れている。 ビッグデータの活用と並行して、現在ビッグデータが生み出す効果についても世界中で研究が進められており、その成果もいくつか出てきている状況にある。国内外におけるこれまでの研究成果を類型化すると、内容的側面では、「ビッグデータ解析による経済効果・価値」と「ビッグデータ活用による経済効果・価値」を測定したものに大別され、研究の規模的側面では、マクロ(一国)レベル、セミマクロ(産業・業界)レベル、及びミクロ(企業・組織)レベルに大別される。この間、公表された主な研究成果をまとめたものが、図表1-3-1-11である。 図表1-3-1-11 国内外におけるビッグデータに係る主要研究事例の分類 (出典)総務省「海外におけるビッグデータの実態把握に関する情報収集・評価に係る調査研究」(平成25年) ア SASによる研究 6 英国のソフトウェア、サービスベンダーであるSASは、ビッグデータ解析を採用することで、英国の組織・企業にどの程度の経済価値が創出されるか、マクロ(英国一国)レベル及びセミマクロ(産業)レベルで試算を行った。 試算の結果、英国一国レベルでのビッグデータ解析による経済価値は、民間部門と公的部門の合計で、今後、企業等におけるビッグデータ解析の採用率が高まることにより、2012年から2017年までの累計価値は約2,160億ポンドになるとの試算結果が出た。ちなみに、この金額は同じ期間の英国のGDPの約2.3%に相当するものとみられている。 続いて、産業別にビッグデータ解析による経済価値を試算した結果、製造業では2012年から2017年の累計で約453億ポンドと最も高く、次いで小売業が2012年から2017年の累計で約325億ポンドとの試算結果が出た。 イ TDWIによる研究 7 米国の調査会社TDWI(The Data Warehousing Institute)は、企業・組織に対するアンケート調査を通じて、ビッグデータ解析により生じ得るビジネス展開上の便益、解析活用の障害・障壁要因、企業・組織におけるデータ収集状況等の把握を行った。 調査の結果、アンケートに回答した企業の約7割が、ビッグデータを自社の事業展開において肯定的に捉えていることがわかったほか、74%の企業がテキストマイニングや統計解析ソフトといった高度な解析ツールを使用し、さらに34%の企業は解析ツールをビッグデータ解析に用いていることが判明した。 また、企業等が収集しているデータの種別については、構造データが92%と最も高く、XML等の半構造的データや複雑系データ(階層、レガシー系)が54%、メッセージ等が45%で続いた。収集しているデータ量については、1日あたりでは10〜100テラバイトと回答した企業が37%と最も多く、過去3年間の累積では500テラバイト以上と答えた企業が20%もあった。 ウ MITによる研究 8 マサチューセッツ工科大学(MIT)では、経営判断、マーケティング活動等の企業・組織レベルでの活動・意思決定におけるビッグデータ解析の活用状況と企業特性・業績の関係性について、世界108か国、30産業、3000サンプルのアンケート調査データを基に分析した。 まず、企業の業績とビッグデータ解析の活用状況との関係性について分析したところ、「トップ業績企業」はあらゆる事業活動において「業績劣位企業」に比べてビッグデータ解析を利用する確率が顕著に高く、将来戦略の策定や日常業務オペレーションにおける活用率は、「トップ業績企業」は「業績劣位企業」の約2倍との結果が出た。 エ McKinseyによる研究 9 米国の調査会社McKinsey & Companyの研究機関であるMcKinsey Global Instituteは、ビッグデータの活用で特に成長が見込まれる5つの部門(米国のヘルスケア産業、欧州の公共事業、米国の小売業、グローバルな製造業及びグローバルな位置情報データ分野)を対象に、ビッグデータ活用により発現する経済効果・便益について推計を行った。 その結果、米国のヘルスケア産業における発現効果(付加価値ベース)は3,333億ドル、欧州の公共事業では付加価値ベースで1,500億ドルから3,000億ドルの間、米国の小売業では、生産性は0.5%増加、売上純利益は60%以上増加、製造業では開発コストが25%減少、製品の市場投入までの期間が20%〜50%短縮化、利益マージンが2%〜3%増加、オペレーションコストが10%〜25%削減、そして7%の収入増、位置情報サービス分野では、2020年までに累計7,000億ドルから8,200億ドルの経済効果が創出されるとの結果が出た。 6 http://www.sas.com/offices/europe/uk/downloads/data-equity-cebr.pdf 7 http://tdwi.org/research/2011/09/best-practices-report-q4-big-data-analytics.aspx 8 http://sloanreview.mit.edu/article/big-data-analytics-and-the-path-from-insights-to-value/ 9 http://www.mckinsey.com/insights/business_technology/big_data_the_next_frontier_for_innovation