(5)ビッグデータ活用による新たな価値の創造(まとめ) ア ビッグデータ活用はなぜ効果を生み出すのか 今まで見てきたように、ビッグデータを活用することで企業の業績が向上したり、社会システムの効率化が図られたりすることが明らかとなった。ビッグデータの活用が効果を生み出すまでの流れを図表1-3-3-30に整理した。 図表1-3-3-30 ビッグデータの活用から効果発現までの流れ (出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年) ビッグデータは「悉皆に近い大規模性」、「非構造化データを含む」、「リアルタイムのデータを含む」といった特徴があると言われている。それらを分析するために、大規模で多様なデータを高速で処理できるよう、クラウドによる分散処理を含め、高度なコンピュータネットワークが整備された。 その結果、今までのデータの範囲では十分に把握することができなかった顧客等の傾向や動向を把握できるようになったほか、分析時間の短縮によってより早く分析結果を入手できるようになった。さらに悉皆に近い大規模なデータや定性的な情報を合わせて分析できるようになった結果、現実の現象を表現する数理モデルの精度が向上した。そのことにより、モデルから外れた異常値の発見が容易になったり、将来予測の精度が向上したりする成果が得られている。さらに、リアルタイムでのデータ入手と高速処理の結果、リアルタイムで状況が把握できるようになったことも大きな成果といって良い。 これらの分析成果を実際の業務に活用することで、企業等の意思決定の高度化や迅速化、日々の業務における判断の高度化や迅速化に貢献しているほか、ビッグデータによって今まで見えなかった傾向や動向を可視化し、そこから埋もれていたニーズを発掘し、新たな商品やサービスの開発・投入につながっていくなど、企業や社会において、効率化だけでなく新規市場の開拓など様々なプラスの効果を生み出している。 イ 事例に見る様々な萌芽 今まで取り上げてきた様々な事例において、ビッグデータの活用が企業業績の向上や社会における便益の向上に役立っていることが明らかになっている。それは、上記アで述べたようにビッグデータとその分析環境の発達によって今まで不可能だったことが可能となり、新たな価値を生み出しているためであるということができる。それを支えているクラウド等のコンピュータネットワークの発達が果たす役割も大きい。これまでに取り上げてきた事例から、ビッグデータの活用によって生み出された価値について説明する。 (ア)新たな付加価値を創出した事例 羽咋市の人工衛星画像を用いた米作品質管理システムでは、きめ細かな情報を非常に安価に提供できることによって、農業の情報化による付加価値向上の可能性を広げたといえる。また、様々な地域振興策と相まって、地域産品のブランド化を実現し、限界集落の活性化に大きく貢献している。そればかりでなく、市の事業として他の地域に販売していくことにより、自治体ビジネスとしての可能性を開くことができた。 Vestas Wind Systems社の風力発電適地提案や国内メーカーによる最適運転サービスでは、ビッグデータを用い、かつ業務知識を形式知化することで、顧客に最適な提案を行えるようになった例である。このことによって、Vestas社は風力発電の最上流工程である立地選定の業務を行い、国内メーカーでは節電のための新たな有料サービスを立ち上げている。このように、製造業のノウハウがビッグデータと合わせて活用されることで、製造業の新たな付加価値サービスを生み出しているといえる。 Progressive社の自動車保険の事例では、今までは十分につかむことのできなかった契約者の詳細な運転状況を収集し事故リスクと合わせて分析することで、今まで獲得することが困難であったリスクの高い運転者という市場に参入することができるようになり、そのことで同社は全米第3位の自動車保険グループに躍進している。すなわち、ビッグデータを活用することで、今までは見えなかった顧客の動向が明らかになったため、適切なリスクの範囲での商品設計が行えるようになったことが同社の成功の鍵であるといえる。 (イ)業務効率化を図った事例 アンデルセン社の事例では、販売データ処理をクラウドによって行うことで、大量で多様なデータから販売予測を比較的安価、容易にかつ短時間で行えるようになったため、より正確な製造計画が立てられるようになった。従来は、自動車産業に代表される大規模な製造業で行われていた生産計画の仕組を、一店舗ごとの小さな単位で実施できるようになった事例であり、小規模な事業所であってもICTの発達によってビッグデータ活用のメリットを享受できる例であると言える。 NTTデータの事例は、道路インフラの維持管理の最適化や合理化をビッグデータを活用して実現しようというものである。高度成長期に整備された各種インフラの老朽化と維持管理費用の増大が懸念される中、ICTを用いてより合理的に社会インフラを管理し、適切な維持・補修によって耐用年数の延長など、インフラの有効活用を図っていくことが期待されている。 以上のように、ビッグデータを用いることで、企業活動や社会経済に様々な好影響を与え、日本経済の再生に寄与していくことが期待される。