(4)海外におけるオープンデータに対する戦略的取組 諸外国においてもオープンデータ戦略等の策定が進んでおり、米国、英国をはじめ、EUの「欧州オープンデータ戦略」、フランス「単一ポータルによるPSI(公共部門情報)提供指針」などがあげられる。現在、世界30か国がオープンデータポータルサイトを開設済みであり、OECD、国連、EU等も開設予定である。以下、大統領・首相がオープンデータを主導している米国と英国の取組について紹介する。 ア 米国 オバマ大統領は、2009年1月の就任直後に「透明性とオープンガバメント(Transarency & Open Government)」と題する覚書を各省庁の長に対して発出しており、この覚書では、「透明性」、「国民参加」、「協業」の3原則に基づき、開かれた政府を築くことを表明している。また、同年5月には「オープンガバメント・イニシアティブ(Open Government Initiative)」を公表しており、同年12月には「オープンガバメントに関する連邦指令(Open Government Directive)」を発出している。米国政府では、これらを踏まえ、「透明性」を高める取組として、2009年にData.govやITダッシュボードを開設した。また、2012年5月に発表した「デジタル・ガバメント戦略(Digital Government: Building a 21st Century Platform to Better Serve the American People)」に基づき、数値データだけでなく文書情報等の非構造化データも対象に公開を推進している。米国政府では、連邦CIO(最高情報責任者)が中心となりオープンガバメントを推進している。これらは、オープンデータの先駆的取組として、現在も各国から注目を集めている。 (ア)Data.gov Data.govは、政府機関が保有する様々な統計データに係る各種データセットを提供するサイトである(図表2-1-2-11)。同サイトは、各政府機関の保有する経済、環境等に係る情報を迅速にオンラインで公開することにより政府の情報公開および透明性を高め、国民の信頼を得ることを目的としている。現在同サイトでは、約37万の生データや地理空間データ、350のアプリや137のモバイルアプリなどが提供されている。今後、さらに多様なデータフォーマットのダウンロードを可能にすることで、ユーザーによる分析やリサーチをより容易にするほか、公開されたデータを利用した実用的なアプリケーションの開発と新たなビジネスの創造も期待されている。 図表2-1-2-11 Data.Govホームページ(生データ) (出典)Data.govポータルサイト (イ)ITダッシュボード 21 ITダッシュボードは、連邦政府のIT投資に関する詳細情報を提供し、投資の経年変化を追跡可能なものとするために作られた。各省庁が行政管理予算局(OMB)に提出したレポートから収集したデータ(調達にかかるコスト、スケジュール、パフォーマンス指標、CIO(最高情報責任者)による評価など)を掲載しており、グラフ化して示すなど分かりやすい形で開示している(図表2-1-2-12)。このように調達に関するデータを示し、各省庁のデータを一括して閲覧可能とすることにより、国民による調達パフォーマンスの比較が容易に行うことができ、自らパフォーマンスの評価を行うことも可能となっている。また、CIO等の関係者が、ITダッシュボードなどのデータを活用して、採算性の低い投資案件を集中的に検証するTechStatというIT投資案件に対するレビューをも行われており、同取組により、IT投資の削減効果を上げている 22 。 図表2-1-2-12 IT ダッシュボード ホームページ (出典)ITダッシュボードポータルサイト (ウ)21世紀の電子政府戦略 23 2012年5月に米国政府は電子政府戦略「デジタル・ガバメント戦略(Digital Government)」を公表したが、同戦略の公表にあたって、オバマ大統領は各省庁宛に、「21世紀の電子政府の構築に当たって(Building a 21st Century Digital Government) 24 」と題する覚書を発出した。そこでは、「コンピューティング能力の飛躍的向上、高速ネットワークの普及やモバイル領域での革新により、インターネットへいつでもアクセスできるようになり、その結果として新しい産業が生まれ、既存の産業の形も変わりつつある」とする一方、「国のサービスは未だにスマートフォンやタブレットに最適化されていないケースがほとんどである」などと懸念を示している。その上で、@各省庁が新しいやり方で情報提供を促進し、モバイル及びウェブ技術のパワーと可能性を最大化させること、A各省庁にオンラインリソースを立ち上げさせて外部の開発者に開放すると同時に、政府情報に関するオープンでマシンリーダブルな新標準を受け入れさせること、B各省庁のオンラインリソースのページをwww.data.govに統合すること、Cウェブパフォーマンス分析及び顧客満足度測定ツールをすべての政府関係HPに導入することなどを通じて、効率的かつ組織的なサービスの提供を求めており、最新のモバイル・ウェブ技術の活用に加えて、オープンデータについてもさらに浸透させることをことを求める内容となっている。 それを受けて公表された米国の「デジタル・ガバメント戦略(Digital Government) 25 」では、その目的として、 「米国国民及びモバイルな人材が、高質な電子政府の情報及びサービスに、いつでも、どこでも、どのデバイスを使ってもアクセスできるようにする」こと、「新しい電子世界に適応できるよう、政府はデバイス、アプリケーション及びデータをセキュアかつ低価格の方法で、スマートに調達し管理する」ことに加えて、「政府のデータが持つ力を開放しイノベーションを起こすことで、国民へのサービスの質を向上する」ことをあげ、「データをオープンかつ機械可読式とすることを原則とすることで、国民、企業及び政府自身が、政府データをアプリケーションやサービスにおいて有効活用できるようにする。」としている。 また、戦略指針として、以下の4つの方針を打ち出している。 ○情報中心アプローチ(Information-Centric):政府は、これまでの「ドキュメント」管理から、オープンデータ及びコンテンツの管理に移行する。これらオープンデータ及びコンテンツは、タグ付、共有化及びマッシュアップが可能であり、情報を必要としている人にとって最も効果的な方法で、安全に提供される。 ○共有プラットフォームアプローチ(Shared Platform):省庁内/外の協業を促進することで、コストを削減し、開発を効率化し、一貫性のある標準化を促進すると同時に、情報の作成と提供に一貫性を持たせる。 ○顧客中心アプローチ(Customer-Centric):政府が情報の作成、管理及び提供(ウェブサイト、モバイルアプリケーション、ローデータ及び他の提供方法を通じて)の際に当該アプローチを活用することで、顧客がいつでも望む方法で情報を成形、共有及び消費することを可能とする。 ○セキュリティとプライバシーのプラットフォーム(Security and Privacy):イノベーションが安心かつ安全な方法で実現されると同時に、電子サービスが情報とプライバシーの保護に活用されることを保証するものである。 なお、2013年5月9日、米国オバマ大統領は政府情報のオープンデータ化を義務付ける大統領令(Executive Order - Making Open and Machine Readable the New Default for Government Information)を発令し、併せて、オープンデータに関する新たな方針を発表した 26 。この大統領令により政府機関には、個人のプライバシーや機密情報、国家の安全保障に関わる情報の保護に配慮しつつ、新たに作成するデータはできるだけ発見・アクセスしやすく、再利用しやすい形で公開すること等が義務付けられることになる。 イ 英国 英国においては、キャメロン政権発足直後に、首相から各省への書簡によりデータ公開が指示されるなど、首相のリーダーシップによるオープンデータ戦略が進められている 27 。英国では、キャメロン政権発足直後に、首相から各省への書簡によりデータ公開が指示され、この書簡が現在でも取組において重要な位置づけとなっていると言われている(図表2-1-2-13)。 図表2-1-2-13 英国・首相レターによる公開データの指定(抜粋) (出典)NTTデータ資料 また、キャメロン首相は、2010年に「透明性アジェンダ」を発表し、そのなかで、「政府全体の透明性の向上は、我々が共有しているコミットメントの中心である。それによって国民が、政治家や公的機関に説明責任を果たさせ、赤字を減らし、公的支出における費用対効果の高いサービスを提供させることができる。また、ビジネスやNPOが公共データを活用して、革新的なアプリケーションやウェブサイトを作ることで、大きな経済的利益を実現することができる。」と述べ、透明性と経済効果を主な目的としてオープンデータを推進する意向を示している。 英国は、この透明性アジェンダを実現するため、有識者会議として「Transparency Board」を設立し、公的データに関する原則として、@公共データは再利用可能で、マシンリーダブルな形式で公開されること、A公共データは同一のオープンライセンスのもとで公開され、営利目的も含めて自由に利活用できること、B公共データは単一の使いやすいオンラインのアクセスポイント(data.gov.uk)で入手可能で簡単に見つけられることなどを定めた「透明性原則」を発表した。 さらに2010年には、公共情報の民間利用を促進するための新しいライセンスとしてOpen Government License(OGL)を制定した。OGLは、公的機関のデータに対して、商業利用を含む幅広い利用を可能とするため、従来は著作権やデータベース権の対象となっていた非個人情報やこれまで非公開であった公共機関のデータについてもカバーしており、コピーや改作の自由、商用目的利用の自由をも認めている。 英国では、2012年に、情報公開法について、オープンデータに対応するように修正されている。そこでは、一定の場合には政府機関は合理的に実践可能な限り情報を再利用可能な電子的形態により提供しなければならないこととされている。今後、英国政府では、省庁別のオープンデータ戦略を策定することとされており、主要17省庁が策定済みである。 また、政府のポータルサイトとしてData.gov.ukを2010年より運用しており、9,000を超えるデータセットが提供されている(図表2-1-2-14)。 図表2-1-2-14 Data.gov.ukホームページ (出典)Data.gov.ukポータルサイト 新産業創出の観点からの取組としては、英国政府はオープンデータを活用したビジネスを本格的に立ち上げるための組織として、2012年にオープン・データ協会を設立した。5年間に渡って1,000万ポンドの予算を割り当てている。英国政府は公的機関がデータを公開するためのデータポータルの整備や、それらデータポータルを活用した市民レベルでの活動は非常に活発に行われるようになったが、オープンデータを活用した新しいビジネス創造という点では、まだ大きな成果を上げるには至っていないとの認識のもと、民間商用ビジネスの育成に焦点を絞った組織として同機関を設立し、支援を行っている。 図表2-1-2-15 その他の海外におけるオープンデータ戦略策定の動向 出典:『オープンデータに関する欧州最新動向』(2012年3月29日株式会社NTTデータ)、『電子行政TFにおけるオープンガバメントの検討とオープンデータの活用について』(2011年11月5日電子行政に関するタスクフォース 臨時構成員 村上文洋)等より作成 オープンデータへの海外の地方自治体の対応 オープンデータに対する取組は、米国、英国などの地方自治体においても進んでいる。米国では、Data.govにCities.data.govが新設され、シカゴ、シアトル、ニューヨーク、サンフランシスコの4大都市が参加しており、地方自治体のオープンデータポータルが連邦政府のオープンデータポータルに統合されている。また、英国では、434の自治体のうち、105がオープンデータ協議会を設置している。 具体例として、ニューヨーク市の例をあげると 28 、ニューヨーク市では、「オープンデータ」サイトで、市や関係機関が保有する数百種類のデータを公開している。データには、市内のWiFiアクセスポイントや地下鉄入口等の地図データ、市の総合電話相談サービスの相談記録データ、郵便番号コードの地区別電力消費量など様々なものが含まれている。ニューヨーク市では、これらのデータを一般に公開し、市行政の透明性とともに、住民・来訪者の利便性を高めるため、データを活用したアプリコンテストを実施しており、本年はグランプリ受賞者には3万5千ドルの賞金が与えられる。 なお、ニューヨーク市議会は、2012年2月に“Open Data Bill”と呼ばれる法案を可決している。市議会議長は、この法案により、例えば交通局がデータ収集を義務付けられている市内の事故情報データなどが自由に並べ替え・抽出・分析できるフォーマットで提供できるようになり、議会においても改善が必要な地域を特定するなど、市政の監視・機能向上に役立つであろうとコメントしている。 このようなオープンデータの取組は、ワシントンDC、フィラデルフィア、シアトルなど米国の様々な都市においても行われているとのことである。 図表  ニューヨーク市オープンデータサイト 21 「アメリカ政権交代における電子政府政策の変容」(松岡清志 行政&情報システム 2010年4月号)、「米国政府におけるIT投資管理について(IT Dashboardを活用した見える投資管理)」(IT戦略本部 第3回 政府情報システム刷新有識者会議(平成24年5月28日) 平本臨時構成員提出資料)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/yuushikisha/dai3/gijisidai.html 22 なお、米連邦政府CIOのバンローケル氏は前任者の改革路線を継承しつつも独自の考え方でIT投資管理を向上させるため、前任者のクンドラ氏が始めたTechStatとは別にPortofolioStatを開始した。TechStatが個別プロジェクトや投資案件のパフォーマンスをレビューするのに対し、PortofolioStatは各省のITポートフォリオ全体をレビューし、重複した投資、省庁戦略と合致しない投資を洗い出すと同時にシェアードサービス型のモデルへ移行することを目的としている。(「PortfolioStat2.0」 一般社団法人 行政情報システム研究所ホームページ http://www.iais.or.jp/ja/wp-content/uploads/2013/05/PortfolioStat2.01.pdf) 23 米国の電子政府戦略(1)〜(5)(一般社団法人 行政情報システム研究所ホームページ http://www.iais.or.jp/ja/information/government/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9B%BB%E5%AD%90%E6%94%BF%E5%BA%9C%E6%88%A6%E7%95%A5%EF%BC%881%EF%BC%89/ ほか)を参照。 24 http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/uploads/2012digital_mem_rel.pdf 25 http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/egov/digital-government/digital-government.html 26 「オバマ大統領、政府情報のオープンデータ化に関する大統領令を発令」(カレントアウェアネス・ポータル 2013.5.10)http://current.ndl.go.jp/node/23477参照。なお、大統領令についてはhttp://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/05/09/executive-order-making-open-and-machine-readable-new-default-government- 27 「欧州におけるオープンデータ政策(その2)」(高木聡一郎 行政&情報システム 2012年8月号) 28 「行政保有データを活用したアプリでニューヨーク生活を便利に」(CLAIRメールマガジン2012年5月)