(3)電波利用環境の整備 ア 生体電磁環境対策の推進 総務省では、電波の人体への影響に関する調査を実施し、人体の防護のため、電波法令により国際ガイドラインと同等な電波の強さの安全基準を定めている 24 。これまでの調査・研究では、この安全基準を下回るレベルの電波と健康への影響との因果関係は確認されていないが、今後も科学的に安全性の検証を積み重ねていくことが重要であることから、総務省では、継続的に電波の安全性評価を行っていくこととしている。 この安全基準のうち、携帯電話端末のように、頭のすぐそばで使用する無線機器に対しては、人体側頭部における比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate 25 )により電波の許容値を規定している。一方、ワイヤレス技術の進展に伴い無線機器の多様化が進み、今日では、スマートフォンやタブレット端末など、側頭部以外の人体の近くで使用する無線機器が一般的なものとなっていることから、情報通信審議会において、人体側頭部を除く人体に近接して使用する無線機器等に対する比吸収率の測定方法について審議が行われ、平成23年10月に一部答申 26 を受けた。これにより、人体に近づけて使用する各種の無線機器の安全性が評価できるようになり、総務省では現在、当該無線機器に対する安全基準の制度化を進めている。 また、総務省では携帯電話等の各種電波利用機器から発射される電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響について調査を実施しており、これまでに実施した調査の結果を基に、「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針 27 」を取りまとめている。当該指針においては、第2世代方式の携帯電話端末が植込み型医療機器へ及ぼす影響を踏まえ「携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部位から22cm程度以上離すこと」としていたが、第2世代方式の携帯電話が平成24年7月にサービスを終了したことから、当該指針の見直しに関して「生体電磁環境に関する検討会 28 」において検討が行われ、同年10月15日に検討会の意見が取りまとめられた。総務省では、同検討会の意見及び同年11月30日から平成25年1月4日までの間に行われた意見募集の結果を踏まえ、同年1月25日に携帯電話と植込み型医療機器との離隔距離を22cmから15cmにする等の指針の改正を行った。 イ 電磁障害対策 各種電気・電子機器等の普及に伴い、無線利用が各種機器・設備から発せられる不要電波に対する電磁的な妨害対策が重要となっている。 総務省では、情報通信審議会情報通信技術分科会に設置された「電波利用環境委員会 29 」において調査・検討が行われ、CISPR(国際無線障害特別委員会:Comité International Spécial des Perturbations Radioélectriques)における国際規格の審議に寄与するとともに、平成23年9月には情報通信審議会から、CISPRで定められた国際標準に基づき、家庭用電気機器、伝導工具及び類似機器からの妨害波の許容値と測定法等に関する一部答申 30 を受けるなど、国内における規格化を推進している。 また、電力線を利用して通信を行う電力線搬送通信設備について、電力線は電波を漏えいしやすいため、2MHz〜30MHzの周波数帯を使う「広帯域電力線搬送通信設備」については、従来屋内のみの利用が認められてきたが、近年の省エネルギーへの関心の高まり等を受け、屋内のみの制限を一部緩和する省令改正案について電波監理審議会から平成25年4月に答申を受けた。 ウ 電波の混信・妨害の予防 電波利用が拡大する中で、混信・妨害を排除し良好な電波利用環境を維持していくことはますます重要な課題となってきている。このため総務省では、電波の監視、混信・妨害の排除に加え、それらの原因となり得る機器への対応も強化している 31 。 近年、携帯電話の急速な普及や電波監視の強化などにより、過去に社会問題となった不法三悪と呼ばれる無線局(不法市民ラジオ、不法パーソナル無線及び不法アマチュア無線)による重要無線通信等への混信・妨害が減少する一方で、電波法の技術基準に適合していない無線機器(以下「不適合機器」という。)等による無線通信への混信・妨害が問題となっている(図表5-3-3-3)。 図表5-3-3-3 無線通信に障害を与えた不適合機器の例 市場には、無線局免許が不要な微弱無線局であると称して販売されている無線機器(FMトランスミッタ、ワイヤレスカメラ等)が大量に流通しているが、その中には、微弱無線局の基準を上回る出力の電波が発射されている不適合機器が多数含まれており、これまでも、その使用によって、重要無線通信への混信・妨害が発生している。また、海外からの輸入やネット販売等を通じて入手可能な、国内では使用出来ないトランシーバ(FRS:Family Radio Service、GMRS:General Mobile Radio Service)やベビーモニタ-等による同様の混信も発生していることから、このような不適合機器の流通をいかに抑制するかが課題である。 このために、これまでにもポスター及びリーフレット等による周知・啓発活動を行うとともに、販売店等に出向き不適合機器の販売について自粛要請等を行ってきたところである。一方で、販売店等においては消費者への不適合機器に関する情報提供が少なく、消費者が不適合機器か否かを判別することが困難な状況となっていることから、依然として不適合機器が善意の消費者の手に渡り、他の無線局の混信源となる可能性が残されている。したがって、市場に出回る微弱で免許不要と称する無線機器について、今後、流通の実態調査を強化するとともに、製品の試買テストを新たに実施し、製造業者や販売業者等に対して、その測定結果を公表し、業者を指導し、消費者に注意喚起することにより、不適合機器の流通の抑制を図り、混信・妨害の予防に努めることとしている。 この他にも、携帯電話事業者以外の者によって不法に設置されている携帯電話中継装置が、携帯電話基地局からの電波を妨害する事例が引き続き発生しているが、これらの中継装置は「無線局の免許がいらない」と称して販売されていることから、一般の方がそれと知らずに設置し妨害の原因となっている。このような装置を原因とする障害の拡大を防止するため、販売者が販売する前に「設置には免許が必要」である旨告知すること(免許情報告知制度)を義務付けるよう制度を改正したところである(念のため、このような装置は実験等、特殊なケース以外には免許されない)。 さらに、無線局が他の無線局の運用を著しく阻害するような混信その他の妨害を与えた場合には、製造業者・販売取扱業者等に対して報告を徴収し、その事態を除去するために必要な措置をとることについて勧告・公表を行うことができる制度の活用についても検討を進めることとしている。 この他、電子機器や放送受信ブースタ等から発射又は漏洩する電波による無線局への障害も引き続き発生していることから有害な漏洩電波を効率的に除去するための調査に取り組んでいる。 24 電波防護指針:http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/body/protect/index.htm 25 生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量 26 情報通信審議会からの一部答申:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban16_02000025.html 27 各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針: http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/chis/index.htm 28 生体電磁環境に関する検討会: http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/seitai_denji_kankyou/index.html 29 電波利用環境委員会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denpa_kankyou/index.html 30 情報通信審議会からの一部答申:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban16_01000020.html 31 総務省電波利用ホームページ 電波監視の概要:http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/index.html