(2)スマートフォン時代の安全・安心な利用環境整備 ア 青少年におけるスマートフォンの安心・安全な利用環境の整備 青少年が安心・安全にインターネットを利用できる環境を整備するため、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号)においては「ICTリテラシーの向上」と「フィルタリング等の推進」を青少年インターネット環境整備の2つの柱とし、官民を挙げて具体的取組を推進することとされている。 特にスマートフォンにおいては、携帯電話事業者だけでなくOS事業者、アプリケーション提供事業者等様々なレイヤーの事業者が関わっていることから、青少年をはじめとした利用者が自らプライバシーやセキュリティといったスマートフォンにまつわるリスクを学ぶ必要性が高まっており、リテラシー向上に向けた取組が官民を挙げて進められている。 (ア)フィルタリングに関する関係事業者等の具体的取組 スマートフォンの普及を受け、様々なアプリケーションが登場し、利用者の楽しみ方が広がる一方で、犯罪被害をはじめとした様々なトラブルにもつながる可能性が考えられる。そのため、関係事業者においては、青少年をはじめとした利用者が安心・安全にサービスを享受することができるように様々な対策を講じている。 @ 携帯電話事業者等 スマートフォンにおいては、従来の携帯電話回線(3G)だけでなく、無線LANの利用も普及しており、携帯電話回線においてフィルタリング機能を具備していたネットワーク型のフィルタリングだけでは不十分な状況にあった。また、従来の携帯電話事業者の管理下にあったアプリケーションとは異なり、スマートフォンでは世界規模で多様なアプリケーションが流通しており、青少年に有害なアプリケーションの利用を制限する必要があるという課題が生じている。 この点については、上述の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において開催された「青少年インターネットWG」の提言(平成23年10月公表)、安心ネットづくり促進協議会スマートフォンにおける無線LAN及びアプリケーション経由のインターネット利用に関する作業部会(平成24年6月公表)においても無線LAN及びアプリケーション経由のインターネット利用におけるフィルタリングの課題が指摘されてきたところである。 このような中、携帯電話事業者においては、従来のネットワーク型から端末にフィルタリングソフトを具備することにより、無線LANの利用時やアプリケーションの利用時においてもフィルタリングが機能する仕組を整えつつある状況にある。 A 第三者機関 また、こうした携帯電話事業者の動きに対応する形で第三者機関においても対応が進められている。たとえば、一般社団法人モバイル・コンテンツ審査運用監視機構(EMA)では、従来のウェブサイトを前提とした認定スキームに加え、新たにアプリケーション単体での審査に対応すべく、平成24年12月末に従来のコミュニティサイト運用管理体制認定基準の改定を行い、平成25年1月末から当該改定基準に基づく審査の受付を開始している。 (イ)リテラシー向上の取組 青少年へのスマートフォンの著しい普及に鑑み、従来の携帯電話とは異なるセキュリティ実態等を踏まえ、青少年自身のリテラシー向上に加え、保護者や教職員などのリテラシーの向上の重要性が高まっている。 特に保護者からは、スマートフォンを青少年が安心・安全に利用するために青少年や保護者等が把握しておくべき情報(スマートフォンの特徴、スマートフォン上のサービスの特徴、事業者が提供する安心・安全サービスの概要等)が不足しており、どのように対応すればよいか分からないという声がPTAや消費者団体等を中心に寄せられている。また、地方における情報不足は顕著であり、必要な情報を地方にも展開をして欲しいという要望が関係者から寄せられており、今後とも青少年に対するスマートフォン利用が見込まれることから早急な対応が求められている。 こうした状況に対処するため、各総合通信局及び沖縄総合通信事務所が中心となり、地域における青少年及び保護者・教員等に対して、各地域で活動する関係者(自治体、PTA、消費者団体、学校関係者、有識者、事業者、NPO等)が幅広く連携し、リテラシー向上のための普及啓発活動を実施することができる体制整備を進めるため、地域の関係者が一体となった推進体制の構築や勉強会の開催など総合的な周知啓発活動を展開している。 具体的には、スマートフォンの特性やサービス構造、プライバシーに関する情報、セキュリティ対策、フィルタリングなどの情報を盛り込んだ周知啓発資料やDVD教材を関係団体と連携して作成し、ウェブサイトを通じて配布を行うなど周知啓発活動に幅広く活用している。また、特にスマートフォンの普及が著しい高校生や保護者に対して啓発イベントを開催するほか、地域での研修会など草の根レベルでの啓発活動についても幅広く取り組んでいる(図表5-4-1-2)。 図表5-4-1-2 地域における青少年の安心・安全な利用環境整備の概要 イ スマートフォンに蓄積される利用者情報の取扱いに係る取組 また、スマートフォンの利用を経由して蓄積される様々な利用者情報については、アプリケーション等が様々な形で収集・利用しており、収集した情報が第三者へ提供されている場合もある一方、利用者にとっては、どのような情報が収集され、また利用されているのかが分かりにくいといった不安や懸念が生じている。このような中、総務省において、平成24年1月から上述の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において開催された「スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG」において、スマートフォンにおける利用者情報が安心・安全な形で活用され、利便性の高いサービス提供につながるよう、諸外国の動向を含む現状と課題を把握し、利用者情報の取扱いに関する必要な対応等の検討が行われた。これら検討を踏まえ、アプリ提供者等の関係事業者等が自主的に取り組むべき指針である「スマートフォン利用者情報取扱指針」等を含む提言「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」が取りまとめられ、同年8月に公表された 2 。 同提言においては、利用者が安心・安全にサービスを活用できるよう、スマートフォン・プライバシーに関する包括的な対策が提案されており、6つの項目 3 からなる基本原則が示されるとともに、アプリ提供者、情報収集モジュール提供者、広告事業者や関係事業者に望まれる取組が示されている。特に、スマートフォンにおける利用者情報を取得しようとするアプリケーション提供者、情報収集モジュール提供者は、個別のアプリケーションや情報収集モジュール等について、8項目 4 の事項について明記するプライバシーポリシー等をあらかじめ作成し、利用者が容易に参照できる場所に掲示等を行うこととされている(図表5-4-1-3)。 図表5-4-1-3 スマートフォン利用者情報取扱指針の全体構造 「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」を受けて、関係する業界団体においてアプリケーション提供者向けのアプリケーション・プライバシーポリシーのモデル案や概要版を示すガイドライン 5 、アプリケーション提供サイト運営事業者向けのガイドライン 6 等の策定が進んでいる。スマートフォン市場において様々なビジネスが連携し、多様な業界団体が関係している環境下において、緊密な情報交換及び相互の知見を結集してスマートフォンのプライバシーに関する業界ガイドラインの策定を促進することを目的として、平成24年10月、関係する35以上の業界団体や企業・団体等が参加する「スマートフォンの利用者情報等に関する連絡協議会」 7 が設立された。これまでに、同連絡協議会は、スマートフォンの利用者情報等に関わる官民の取組が一元的に把握出来るよう情報集約場所(ポータルサイト)を作成し、情報収集及び情報発信を開始するとともに、既に行った取組と今後の取組について中間的な取りまとめを作成し公表している。 ウ スマートフォン時代の諸課題に関する検討 スマートフォンの普及が更に進展する中で、スマートフォンの利用者情報の取扱いについては、OS提供事業者等によるプラットフォーマーとしての取組や国際的な議論の進展も見られ、国内においても様々な対策が進められているものの、いまだに利用者に十分に説明が行われていない場合があり、「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」により先行的にルール策定が行われた分野として、取組の普及を推進することが求められている 8 。また、スマートフォンの普及に伴い、マルウェアの中に利用者情報を詐取することを目的としているものが増加しているなど、利用者においてより注意が必要とされる状況となっていることから、安心・安全なスマートフォンのアプリ等について利用者自身が自ら判断できる仕組を構築する 9 ことが求められている。 加えて、スマートフォンをめぐる課題としては、利用者情報の取扱いにとどまらず、販売店の店頭でも携帯電話に占めるスマートフォンの割合が高まる中、通信料金体系や速度表示、販売勧誘方法の在り方等についての利用者からの苦情・相談の増加を踏まえ、適正なサービス提供の在り方についても検討が必要な状況となっている。 さらに、スマートフォンの特徴として、アプリを利用することにより多様なサービスを享受することができる一方で、従来のネット利用における様々な課題がスマートフォンを利用する状況にあってどのように変化しているのかという観点からの検討が必要な状況となっている。中でも、コミュニケーションアプリを念頭に置いた青少年利用に関する課題と対応について検討の必要性が指摘されている。 このことから、平成24年12月に、上述の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」に「スマートフォン時代における安心・安全な利用環境の在り方に関するWG」を開催し、@スマートフォンにおける利用者情報に関する課題への対応、Aスマートフォンサービス等の適正な提供の在り方、Bスマートフォンのアプリ利用における新たな課題への対応について議論を行ってきており、平成25年4月には、中間取りまとめが公表されたところであり、平成25年7月には最終とりまとめが公表される予定である。 2 「スマートフォン プライバシー イニシアティブ −利用者情報の適正な取扱いとリテラシー向上による新時代イノベーション−」の公表(平成24年8月:総務省報道発表):http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000087.html 3 @透明性の確保、A利用者関与の機会の確保、B適正な手段による取得の確保、C適切な安全管理措置、D苦情・相談への対応体制の確保、Eプライバシー・バイ・デザイン 4 @情報を収集するアプリケーション提供者等の氏名又は名称、A取得される情報の項目、B取得方法、C利用目的の特定・明示、D通知・公表又は同意取得の方法、利用者関与の方法、E外部送信・第三者提供・情報収集モジュールの有無、F問合せ窓口、Gプライバシーポリシーの変更を行う場合の手続き 5 「スマートフォンのアプリケーション・プライバシーポリシーに関するガイドライン」(一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)、2012年11月発表):http://www.mcf.or.jp/temp/sppv/mcf_spappp_guidline.pdf 6 「スマートフォンアプリケーション提供サイト運営事業者向けガイドライン」(社団法人電気通信事業者協会(TCA) 2013年3月発表)http://www.tca.or.jp/topics/pdf/20130329guideline.pdf 7 「スマートフォンの利用者情報等に関する連絡協議会」(SPSC):http://jssec.org/spsc/ 8 世界最先端IT国家創造宣言:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/it_kokkasouzousengen.pdf 9 サイバーセキュリティ戦略:http://www.nisc.go.jp/active/kihon/pdf/cyber-security-senryaku-set.pdf