(2) 個別事例分析による活用実態とその効果 前回の調査では、情報収集を行った国内外のビッグデータ活用事例約130件の中から、効果発現メカニズムや計測結果のわかりやすさ、情報通信政策において重視される業種・分野といった理由により、流通業、製造業、農業及びインフラ(道路・交通)の4業種・分野に絞り込んだ上で、個別事例の詳細調査からビッグデータの活用パターンと効果発現メカニズムを明らかにし、潜在的な経済効果の推計につなげた。 今回の調査では、@昨年の調査において収集された事例がない、または少ない分野であること、Aビッグデータの利活用による今後の効果が大きいと期待される分野、B政策的に重要性が高いと考えられる分野、においてビッグデータの活用事例を文献等により収集し、その中でデータの活用方法や発現する効果について昨年の調査と重複しないような事例や、異なる業務や他の業態・業種に展開できる汎用性といった観点から、詳細調査の対象とする事例の絞り込みを行った。 以上の考え方に基づき、今回の調査では、@製造業、A農業、Bサービス業、C金融業及びD運輸業について、ビッグデータの活用パターン及び効果発現メカニズムの整理を行った。 ア 製造業 製造業におけるビッグデータ活用の事例として、平成25年版白書では、納入した機械の稼働状況を分析することにより、故障の状況などを把握し、製品設計や生産管理の見直しにつなげることでメンテナンスの効率化を図ったり、顧客の節電につなげる付加価値向上の事例について取り上げた。 今回の調査では、製造過程そのものにおけるビッグデータの活用事例について収集することができた。例えば、工場の生産ラインにおける機械の動作を常時監視し、動作のずれを検知した場合には、そのずれを補正するように制御を修正している。その結果、製品ロスや生産ラインの停止を回避し、コストの削減につなげている事例があった(図表3-1-3-2 効果@)。 また、部品の製造記録と品質の関係を分析し、最適な品質にするために加工の制御を変えることで、部品の精度を向上させている事例や、完成時の品質検査を省略することでコスト削減につなげている事例も見受けられた(図表3-1-3-2 効果A)。 また、サプライチェーンマネジメントの高度化も行われている。商品の販売記録に基づいて需要予測を行うことに加え、販売計画や在庫状況、顧客の声などから生産計画の変更をフレキシブルに行っている。このことによって、商品投入の迅速化による機会ロスの削減と過剰生産の防止による在庫・廃棄ロスの削減を実現している(図表3-1-3-2 効果B)。 図表3-1-3-2 製造業における活用パターンと効果発現メカニズム (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 製造業における上記の3つの効果に対応する事例を図表3-1-3-3に掲げる。 図表3-1-3-3 製造業における発現効果 (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 効果@については、電子部品の生産に用いているロボットの制御をビッグデータの活用によって微妙なずれを検知することで、電子部品の破損やロボットの停止を防いでいる事例である。 効果Aについては、個別部品の製造履歴と当該部品の品質について大量のデータを取得し、それをらを分析することで、部品加工の精度を向上させ、部品の性能を格段に引き上げている事例などである。 効果Bについては、商品をタイムリーに投入するために、販売実績や販売計画、在庫量といったデータから需要予測を行い、生産計画を立案する。複数の製造工場の生産ラインを共通化することで、市場の状況に応じて変化する生産計画に柔軟に対応することで、機敏な商品生産を可能としている例である。 イ 農業 農業に関しては、平成25年版白書において、生産過程におけるビッグデータの活用により生産効率の向上や品質の向上に役立てている事例を紹介したが、最近、農業におけるICT利活用が飛躍的に進んでいることもあり、今回の調査では、生産効率や品質の向上にとどまらない活用事例を見つけることができた。 まず、生産効率や品質の向上については、農作物の生産記録や家畜の個体管理情報を収集し、品質と作業履歴、出荷価格等との関係性を分析することで、作業の最適化や品質、収量の向上につなげている事例が多く見られた(図表3-1-3-4 効果@)。 また、作業履歴や個体管理情報をもとに生産量予測を立て、販売状況と突き合わせることで出荷の最適化を図り、ロスの削減につなげている事例もあった(図表3-1-3-4 効果A)。 さらに、生産計画の精度が向上することにより中期的な生産計画を立てやすくなり、当該計画の実行に必要となる投資の可視化を実現している事例も見受けられた(図表3-1-3-4 効果B)。 図表3-1-3-4 農業における活用パターンと効果発現メカニズム (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 農業における上記の3つの効果に対応する事例を図表3-1-3-5に掲げる。 図表3-1-3-5 農業における発現効果 (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 昨年の調査で取り上げた植物工場や工芸作物生産者以外にも、畜産農家、果樹農家、蔬菜露地栽培農家などにおいて、家畜や果樹の個体管理情報や作業履歴、気象条件、土壌条件といった情報と品質との関係について分析を行い、品質の向上や生産計画の精度の向上、収量の向上といった効果の実現や作業の最適化によるコストの削減を実現させている。 また、家畜の成育状況や生産物の生産量予測に基づいて、家畜や生産物の出荷計画の精度を向上させ、計画と実績の乖離を極小化することで廃棄ロスの削減につなげているほか、生産計画の精度向上に伴う中期的な投資計画の見える化も実現させている。 ウ サービス業 今回、新たに取り上げるサービス業は、その商材の特性上、在庫を持ちにくい業種である。期限に達すると消滅してしまう商材について、いかに効率的に販売していくかが重要であり、その観点からデータの活用が行われている。 例えば、飲食業、とりわけ生鮮食品を扱う場合、需要予測を誤ると大量の廃棄ロスが発生する可能性がある。そこで商品の単品管理を行い、その記録を大量に蓄積・分析することにより、需要予測の精度を向上させ、商品の廃棄ロスを大幅に削減させている事例があった(図表3-1-3-6 効果@)。 また、娯楽施設や駐車場運営会社では、毎日の施設の稼働状況や気象状況などのデータを活用することによって、今後の稼働及び収入の予測を立てている。稼働率を最適化させるための施策を講じることにより収益の増加につなげている(図表3-1-3-6 効果A)。 さらに、ICカードの利用履歴から顧客の動線や店舗の利用状況の詳細を把握することにより、営業時間や人員配置の最適化を図り、利益の向上につなげている事例もある(図表3-1-3-6 効果B)。 図表3-1-3-6 サービス業における活用パターンと効果発現メカニズム (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) サービス業における上記の3つの効果に対応する事例を図表3-1-3-7に掲げる。 図表3-1-3-7 サービス業における発現効果 (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 製造業や流通業で行われているサプライチェーンマネジメントを飲食業において実現させたり、航空会社や宿泊業界で従来より実施されていたレベニューマネジメント(稼働率を高めることで収入の最大化を図る取組)が、ICTの普及やソリューションの高度化によって、娯楽施設や駐車場運営会社など他の業態においても取り入れられるようになっている。 このような他の業種・業態で行われていた取組を導入できるようになった背景として、ICTの普及とソリューションの高度化、低価格化が寄与しているものと考えられる。 エ 金融業 金融業では、顧客の取引記録に基づくレコメンデーションが行われている。流通業では、以前から購買履歴に基づくレコメンデーションは行われており、最近ではO2Oの動きが活発化し、スマートフォン等へのターゲティング広告などレコメンデーションも進化しているが、金融業でも、自行のみならず提携している他行などの取引記録も集約・分析することで、顧客へのより効果的な金融商品の販売につなげている(図表3-1-3-8 効果@)。 図表3-1-3-8 金融業における活用パターンと効果発現メカニズム (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 金融業における上記の効果に対応する事例を図表3-1-3-9に掲げる。 図表3-1-3-9 金融業における発現効果 (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) なお、平成25年版白書でも取り上げた、走行中の自動車から収集したデータを最適な自動車保険の設計・提案につなげる事例については、我が国においてもようやく萌芽的な事例が現れたところであり、米国において既に実施されているデータに基づく詳細なリスク分析までは至っていない状況である。 オ 運輸業 運輸業では、GPSの精度の向上により車両の動態が把握しやすくなったことが、データの利活用につながってきている状況である。 例えば、路線バスではGPSとセンサーによってバスの運行状況と乗車人員を把握するとともに、乗客等へのアンケート調査を併せて実施し、ダイヤ改良の仮説を立て、検証を実施した(図表3-1-3-10 効果@)。 また、トラック事業者では、GPSによって把握した各トラックの運行状況を元に最適な運転状況を再現し、実際の運転状況との差分を分析し、ドライバーへのフィードバックを行っている(図表3-1-3-10 効果A)。 図表3-1-3-10 運輸業における活用パターンと効果発現メカニズム (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 運輸業における上記の2つの効果に対応する事例を図表3-1-3-11に掲げる。 図表3-1-3-11 運輸業における発現効果 (出典)総務省「データの高度な利活用による業務・サービス革新が我が国経済および社会に与える波及効果に係る調査研究」(平成26年) 路線バスの事例では、ダイヤの最適化を行ったことで、利便性の拡大により乗客が増えたほか、車両の最適化を図ったことでコストの削減も実現させている。 トラック事業者の事例では、ドライバーへのフィードバックにより安全運転の意識が向上したほか、運転の最適化(燃費の向上、タイヤ消耗の抑制等)によるコストの削減、事故の減少による保険料の削減といった効果のほか、環境への配慮も実現している。