(1) 医療・ヘルスケアにおけるICT活用事例 超高齢化社会に突入した我が国は、生産年齢人口の減少や医療費の増大等、様々な課題に直面している。そこで、全ての国民が可能な限り長く健康を維持し、自立して暮らすことができ、病気になっても質の高い医療・介護サービスを享受し、住み慣れた地域で安心して暮らすことができることに加え、経済成長をも成し遂げることができる社会の実現が重要となっている。総務省ではこれをスマートプラチナ社会と称している。それには、費用対効果の高い低廉なシステムを利用した、医療情報連携ネットワークの全国への普及・展開が必要となり、超高齢社会に対応した新産業創出とグローバル展開が重要になる。 本項ではこうした背景を踏まえて、我が国における医療・ヘルスケアでのICT活用の動向について、この分野で重要な役割を担う地方公共団体のアンケートの結果を示しつつ、様々な地域における医療・ヘルスケアでの先進的な事例を紹介する。 ア 医療・ヘルスケアについての地方公共団体アンケートの結果 医療・ヘルスケアにおけるICT利用について、「医療・介護」と「福祉」に分けて地方公共団体にアンケートを行った。まず医療・介護のアンケート結果についての地方公共団体アンケートの結果では、現状では運営又は参加・協力している取組として、「放射線画像診断・遠隔診断」(14.2%)、「電子カルテ連携」(11.3%)が挙げられている。また、現状との比較で今後実施する予定又は検討している取組としては、「電子カルテ連携」(13.3%)、「遠隔救急医療 10 」(8.1%)、「コメディカル地域情報連携 11 」(7.6%)、「在宅遠隔診断」(7.0%)が目立つ。 次に福祉についてのアンケート結果については、現状では運営又は参加・協力している取組として、「子育て支援情報提供」(29.7%)、「要支援者情報共有」(20.0%)、「見守り・安否確認」(16.6%)が挙げられている。また、現状との比較で今後実施する予定又は検討している取組を見ると、「生活支援システム 12 」(6.4%)、「電子母子手帳」(2.9%)が目立つ。(図表4-2-3-1)。 図表4-2-3-1 医療・ヘルスケアについてのアンケート結果 (出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成26年) イ ICT利活用の先進事例 全体的な動向として、スマートフォンやタブレット端末が我が国でも普及してきたが、普段から操作に慣れたこれらの一般向け端末を活用することで、専用端末のみで構成した場合と比べ安価に医療・ヘルスケアのシステム(ソリューション)を構築することが可能になってきている。また一般に普及したスマートフォン等を用いることで、こうしたシステムは患者個人になじみやすくなっていると考えられる。以下、実際に医療・ヘルスケアでの事例を取り上げる。なお地方公共団体アンケートの福祉の部分については、医療により強く結び付く電子母子手帳(電子母子健康手帳)を取り上げる。 (ア)医療におけるICT利活用の先進事例 地域包括ケアの実現に向け、医療・介護・生活支援に関わる様々な主体の連携が求められる中、その連携を支えるためにICTが有益と考えられるようになり、特に医療に関する情報の連携基盤の構築が重要になってきている。具体的にはEHR(医療情報連携基盤:Electronic Health Record)やPHR(個人健康情報管理:Personal Health Record)が進められている。また、救急医療など時間的制約に晒される状況において、スマートフォン等を用いて時間・空間の壁を越えた情報共有を行い、質の向上につなげようとする取組も行われている。加えて、質が高く患者に負荷のかからない医療を提供するために、3D映像など最新の映像技術の導入が効果的とも考えられるようになってきた。 A 施設側負担を軽減したEHR(さどひまわりネット) 佐渡市は高齢化と離島という地理的条件から、@充実した医療・介護体制の必要性、A島内における医療・介護人材の不足、B原則、医療・介護を島内で完結する必要性、という課題を抱えていた。佐渡地域医療連携推進協議会では、既存の業務を変えず、施設側の負担を最小限にし、利便性の高いEHRを目指して、平成24年から佐渡地域医療連携ネットワーク「さどひまわりネット」を構築した。 平成25年4月に稼働を開始した「さどひまわりネット」は、参加する病院・医科診療所・歯科診療所・薬局・介護施設等が、レセプトデータを中心に、患者の病名・薬の内容・検査の結果などの情報を共有し、様々な施設が一体となって医療・介護を提供するための医療方法共有基盤である。これによって、診療所、病院、介護施設が一体となって医療・サービスを提供でき、治療上の注意事項の把握、併用注意・禁忌薬のチェック、重複投薬・検査の回避などが期待されている。国内のデータセンターに設置されたプライベートクラウドを使用しているほか、電子カルテ導入病院が一つしかない点を考慮して、診療報酬請求に使われるレセコンなど医事会計システムからのレセプトデータを情報の核としている。各施設で使用されている機器から個別にデータを収集するため、データを変換して統合、格納する機能を備えた。平成26年2月からは健診情報の連携も開始し、平成26年6月1日時点では登録患者数は12,225人、参加施設数69施設となっている(図表4-2-3-2)。 図表4-2-3-2 さどひまわりネット概要 (出所)NPO法人佐渡地域医療連携推進協議会資料から作成 (出典)総務省「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」(平成26年) B 在宅の医療・看護・介護に貢献してきた既設EHRの改良とPHRの新設(山形県鶴岡地区医師会) 山形県鶴岡地区医師会では、患者情報を医療関係者間で共有するEHRネットワーク「Net4U」を平成14年から運用し、がん患者の在宅終末期医療における、在宅主治医、訪問看護師、薬剤師、病院主治医、緩和ケア専門チーム、リハビリスタッフなどのタイムリーな情報共有ツールとして多くの利用実績を積み上げてきた。10年を経過して刷新の必要性も生じたため、平成24年5月から医療と介護を繋ぐネットワーク「新Net4U」として全面改定された。改定に伴っては、参加者の背景がわかるようなSNS的な要素が追加され、地域の病院・診療所・訪問看護、調剤薬局や居宅介護支援事業所の多職種がお互いを理解し合いながら地域の患者・要介護者の情報を連携して利用できる地域情報連携の体制としても充実した。 さらに、上記と別に、患者や家族・介護者が医療職・介護職と情報共有とコミュニケーションを行うシステム「Note4U(ノートフォーユー)」も新たに拡張された。「Note4U」は、患者や家族側の記録であるPHRに、医療者・介護者が書き込みを行うというもので、スマートフォンやタブレットに対応した結果、PC対応のみの時よりも高齢の患者や家族に利用される機会が増えている。結果、患者からの情報を医師・看護師等が共有する環境の整備につながった。 このように、医療連携を軸としたASP型地域患者情報共有システムを中核としつつ、患者・家族が参加して健康情報・介護情報を記録し、医師等とコミュニケーションができるPHR機能が追加されたことで、特に在宅ケアの質が上がることが期待されている(図表4-2-3-3)。 図表4-2-3-3 医療・介護連携型ネットワーク「Net4U」 (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) C 神奈川マイカルテ 神奈川県は、慶應義塾大学SFC研究所や民間企業等と組んでライフクラウド研究コンソーシアムを構成し、神奈川マイカルテプロジェクトを推進している。将来的には電子カルテ等とも連携して医療情報などを取り扱うPHRプラットフォームとなることを検討しており、まず電子化されたお薬手帳の機能を持たせることを目標として、平成25年5月から平成26年9月の期間で実証実験を行っている。本プロジェクトは、神奈川県藤沢地域の薬局を対象として、個人が自らのスマートフォンやタブレット端末にダウンロードしたお薬手帳のアプリを用い、処方された薬の情報管理等を行うものである。具体的には、処方薬の情報をQRコード形式で薬局が印刷し、それを患者がアプリで読み取ることで、薬の情報はクラウドサーバーに保存され、そこから患者は服薬している薬の情報をいつでも確認できるようになるほか、服薬のタイミングなども端末側から知らせることが可能となっている(図表4-2-3-4)。 図表4-2-3-4 神奈川マイカルテの利用画面イメージ (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) スマートフォンやタブレット端末という個人に紐づいたスマートデバイスが普及する中で、個人の健康・医療情報を取り込める環境が作れるようになり、取り込んだ情報を用いて、個人に合ったパーソナルサービスが作られていく可能性が出てきたと考えられる。 D 電子母子健康手帳の標準化 母子健康手帳は健康福祉の分野で日本独自の優れた制度として世界で評価されているが、平成26年1月に公益社団法人日本産婦人科医会が電子母子健康手帳標準化委員会を設立し、医療関係者のみならず日本マイクロソフト株式会社やインテル株式会社も参加して、その電子化に向けた取組を進めている。周産期・小児の情報基盤となるこのシステムでは、妊娠時期から小学生までの期間にわたり、医療・ヘルスケア関連の情報が蓄積される。従来の電子母子健康手帳では医療機関との連動性がない点が課題であり、医療現場での情報活用を想定して産婦人科医会を中心に標準化の検討が進められている。システムではクラウドサービスの利用を考えているが、標準化委員会に参加する日本マイクロソフト株式会社が平成26年2月から日本国内のデータセンターで大規模なパブリッククラウドサービスを開始する等、日本のクラウドサービス環境が充実してきたことはこうした取組を後押しすることになった。 システム導入後は、母子健康手帳の情報を自治体が参照・活用できるようになり、ワクチン接種をしていない人の確認や、記録頻度が低い世帯等の把握が可能になり、自治体の子育て・子育ち施策に活用できる。医療機関でも、母子健康手帳の情報に基づいた診断・治療が可能となる。家庭で計測したバイタルデータも記録可能になれば、診察時の参考情報として活用できる。また妊娠高血圧症候群の徴候である高血圧や蛋白尿の有無を家庭で検査し、データが担当の医師に共有されれば、妊娠時期の母体の健康管理にも活用可能となり、一番大切な時期のPHRとして機能させることができる。個人にとっても、クラウドを通じてどこでも情報参照・活用できるようになり、里帰り出産の場合でも、異なる地域の産科医間で情報共有が可能になるというメリットがある(図表4-2-3-5)。 図表4-2-3-5 電子母子健康手帳の構成イメージと画面イメージ (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) また海外展開も視野に入れており、母子健康手帳自体が日本独自の優れた制度として世界でも評価されており、電子化を図る観点からは、例えば政府が保健医療に積極的なモンゴルでは受入れられる素地があると考えられている 13 。 E 救急救命用のモバイルクラウド心電図(東京大学) 医療技術の進歩等により急性心筋梗塞等の院内死亡率は改善した一方、院外発症による循環器の急性疾患について、院外での発症・救急要請から救急搬送後の処置開始までの時間を短縮するための、院外・プレホスピタルケアが現在重要になっている。東京大学大学院では、循環器疾患に必須の12誘導心電計 14 を用いた診断を、院外で事前実施することを目的に、モバイルクラウド心電図を開発した。開発にあたり、普及・維持を容易にするため低コストなものになることを意識した。 このため、携帯型の12誘導心電図ユニットの波形情報は、PCやタブレット端末、スマートフォンといった市販の端末にBluetoothを用いてリアルタイム伝送される。続いて各端末から、携帯電話網を用いてクラウドに波形情報を逐次伝送する。患者の救急搬送を待つ病院側では救急車の病院到着後に通常は診断を行うが、モバイルクラウド心電図から送られてくる波形情報を事前診断して手術準備が可能である。 東京大学大学院では、このモバイルクラウド心電図を、神奈川県の北里大学病院のドクターカーおよび北海道の北斗病院を中心とした地域医療連携、大分県竹田市における救急車に活用し、実証実験を実施した。北里大学病院(平成23年3月開始)では、開始1年でモバイルクラウド心電図を施行した急性心筋梗塞の事例は30事例あったが、この心電図非搭載の救急車群と比較して、救急要請もしくは病院到着から処置までの時間が約20分短縮された。北斗病院では、周辺の自治体病院5施設にこの心電図を配備した結果、病院への患者搬送に先行する診断が可能になり、救急搬送の必要性の有無の判断が容易になった。また大分県竹田市では、救急隊員への教育効果を通じ、搬送先の適切な判断が可能になった。結果として、救急医療資源が少ない僻地などにおいて、医学的な効果を持ちつつ、安価で継続性も高いシステムのモデル形成ができ、遠隔救急医療に貢献している(図表4-2-3-6)。 図表4-2-3-6 モバイルクラウド心電図の構造 (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) F 医療用3Dヘッドマウントイメージプロセッサユニット(ソニー) 高品質な医療・介護サービスに関して、開腹手術に比べて患者の体の負荷が少ない低侵襲な内視鏡手術が普及してきた。その際、精度の高い奥行き情報などを正確に把握できる3D映像は、手術の質を高めることに貢献すると考えられる。このため高精細かつ奥行き情報まで認識できる3D映像に対応した内視鏡が登場し、この映像を表示するモニターへの需要も高まったところ、こうした内視鏡と組み合わせて使う3D対応の頭部装着型ディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)を平成25年8月からソニー株式会社は発売した。このHMDは、同社が3D映像視聴用に一般向けに発売した製品をベースにしている。 3D表示によるリアルな術野の映像を見るにあたり、従来の設置型のモニターに比べHMDを使うことは、自由な姿勢での手術に貢献しており、医師の身体的負荷を下げると考えられている。開発に当たり、医療現場のニーズをくみ取るため東京医科歯科大学との共同研究を経て設計をしており、手元が見える構造にして器具の受け渡しを円滑に行えるようにするといった工夫が施されている。海外展開については、平成26年4月現在、日本国内だけでなく欧州でも発売されている(図表4-2-3-7)。 図表4-2-3-7 医療用3Dヘッドマウントイメージプロセッサユニット (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) ウ ヘルスケアにおけるICT利活用の先進事例 ヘルスケアでは、既存の仕組みをクラウド等の活用によって高度化し、将来的な海外展開も視野に入れた検討が始まっている。また、スマートフォンやタブレット端末をキーデバイスとしつつ、センサーやウェアラブルな機器を用いて、手間をかけずに個人の日常のデータを収集・解析することが考えられるようになった。なお、クラウド利用の特定保健指導については、データヘルスの事例とされているためここで取り上げる。 A 生活習慣病対策のためのクラウド利用の特定保健指導(はらすまダイエット) 平成20年から始まった「特定健康診査・特定保健指導」(以下特定保健指導)について、株式会社日立製作所はクラウド型健康支援サービス「はらすまダイエット」を開発した。メタボリックシンドロームの解消や生活習慣病の改善を目的としたサービスであり、利用者は体重や食事といった日々のデータを登録し、約300種類の100kcal単位の減量メニューを使って体重管理を行う。認知行動科学に基づき、無理のない減量を継続することを重視したプログラムの下、生活習慣の見える化で気づきを与えて生活改善や減量を促し、90日間で体重の5%減を目指す。サービスには定期的に保健師等がコメントを送付する機能を設け、利用者へ10日ごとにコメントを送付する等で、減量のモチベーション維持につなげている。 当初パソコンとフィーチャーフォン対応だったが、スマートフォン対応を行った際に、毎日の入力が必須な項目を増やしすぎず、参加者のログインから登録終了までの時間を短縮することを重視した設計とした。またグラフのスケールを細かく刻んで体重の微妙な変化を視覚化するなど、認知行動科学に基づく工夫をした(図表4-2-3-8)。 図表4-2-3-8 クラウド利用の特定保健指導 (出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年) 同サービスは、特定保健指導を実施している協会けんぽ、民間の健康保健組合を中心に導入が進み、協会けんぽでは平成22年度にパイロット導入を皮切りに、全国29支部中22支部で導入が進んでいる。協会けんぽで約14,700名、民間健保で2,700名が利用した。 海外展開では、プログラムをカスタマイズしたものが2013年度(平成25年度)に中国の大学の教職員を対象に導入されており、2014年度(平成26年度)には3,000名を目標としての教職員・学生等に対象を広げる予定で、中国全土、さらには東南アジアへの展開も考えている。また、日立は、はらすまのノウハウなども活用した海外での取組を進めており、英国でも2013年(平成25年)10月から実証プロジェクトを開始した。地域の医療機関の診療履歴等の一元管理を実現するセキュアなヘルスケアデータ統合プラットフォームを構築し、糖尿病をはじめとした生活習慣病対策プログラムなどの各種サービスを提供予定である。海外展開の際、日本に比べて健診制度などヘルスケア関係の法整備が進んでいないこと、生活習慣が異なることが課題となるが、生活習慣病は世界共通の課題であり、現地の事情に合った形での提供を進めていく予定である。 B 通信事業者によるヘルスケアビジネスの参入 近年、国内の通信事業者でもヘルスケアサービスを充実させてきた。NTTドコモではからだの記録、健康管理のためのプラットフォーム「わたしムーヴ」を開設し、歩数、消費カロリー、体重、体温などのデータを預けることで、スマートフォン等の端末からいつでも様々な健康増進活動が可能である。わたしムーヴ対応のスマートフォンアプリ「からだの時計」では、食事の時間や睡眠時間を登録すると24時間の過ごし方についてアドバイスを受けることができ、ウェアラブル端末「ムーヴバンド」と連携して歩数や睡眠の管理を行うことができる。 KDDIは女性のダイエットをサポートするスマートフォンアプリの提供を開始しているが、ダイエットツールに加えてコンシェルジュサービスを用意しており、専用カルテの作成や健康の豆知識情報の配信、記録情報を元にした利用者個人にカスタマイズされた健康情報の配信を行っている。 ソフトバンクモバイルは、リストバンドや体組成計などの専用デバイスで、日々の活動量や体組成データを記録・蓄積するサービス「ソフトバンクヘルスケア」を開始している。3G通信機能を搭載した体組成計に利用者が乗るだけで体重、体脂肪率、BMI、基礎代謝、内臓脂肪レベル、身体年齢、骨レベル、骨格筋レベル、水分量がクラウド上に自動送信され、スマートフォンのアプリやウェブサイトで閲覧・管理できる。またリストバンドで日々の活動量を記録し、スマートフォンでカラダの状態を確認できるようにしている(図表4-2-3-9)。 図表4-2-3-9 通信事業者のヘルスケアサービスレコーディングツールの画面イメージ (出典)総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年) C ウェアラブル心拍センサー(ユニオンツール) 切削工具製造販売を主力とするユニオンツール株式会社は、胸に貼りつけて使用するウェアラブル心拍センサー「myBeat」を平成24年から販売している。USB接続の受信機を通じてPCから測定結果をモニタリングする仕組みとなっており(図表4-2-3-10)、センサー部分は4cm角大で、電極パッド使用で胸部に直接貼付けることで、心拍、体表温度、3軸加速度を同時に測定・記録可能である。心拍周期(RRI、RR Interval)測定による様々な新しい市場の拡大を目指すため安価な普及価格に設定した。このRRIのゆらぎ解析で自律神経バランス解析が可能であり、無呼吸症候群のスクリーニングや、循環器系疾患の予防医学などでも活用が期待されている。またウェアラブル性を活かしてウォーキング大会で使用した際には、計測された心拍の変動と自律神経の変化を解析して、各個人に沿ったウォーキングコースの設定なども研究されている。さらに計測結果に基づいた個人単位のヘルスケアサービスの構築に活用できるため、無意識生体計測&検査によるヘルスケアシステムの開発にも活用されている。 図表4-2-3-10 ウェアラブル心拍センサー (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年) PCモデル発売後に数千台が販売されたが、今後は、眠気検出システムや心疾患スクリーニング等、メンタルチェックへの応用が検討されている。また訪問看護における在宅患者のモニタリングや、3軸加速度センサーによる転倒検知機能を活かした介護施設での見守りでの利用も想定されている。なお平成26年4月にはセンサーと外部との通信に極低電力のBluetooth Smartを採用したモデルが発売され、スマートフォンとセンサーを直接接続してアプリからデータを閲覧することが可能になった。こうしたセンサーの進化は、ヘルスケアにおけるICT利活用の可能性を広げると考えられる。 エ 今後について 以上のような先行事例に関して、世界最先端IT国家創造宣言では、医療情報連携ネットワークの全国展開や健康増進や生活習慣病の発症予防・重症化予防の取組を推進することとされている。総務省では「スマートプラチナ社会推進会議」でこの点を踏まえて議論を行い、クラウドを活用した高品質で低廉なミニマムなモデルでの医療・介護情報連携基盤の全国展開、健康を長く維持して自立的に暮らすためのICT健康モデル(予防)の確立等を図ることとしている。また、今後の海外展開の方策については、超高齢社会の課題解決先進国として、我が国のICT利活用モデルをグローバルに展開することが必要であり、その際、モデルの検討に当たっては、諸外国の大学研究機関やICT事業者との連携協力を含む、国際的な協働体制を図ることとする。 10 救急医療施設、診療所、あるいは救急車等から、救急患者の画像等のデータを送信し、医師からの指示や指導を受けることができる。 11 ICTを活用して、地域の医療、介護、福祉等の関係機関が、地域の患者・要援護者の健康状況や処置記録等の情報を連携して利用できる体制を整える。 12 高齢者・障がい者等支援が必要な市民を対象に自宅や民生委員宅等から、高齢者が簡単に利用できる各種端末(テレビ、TV電話、パソコン、タブレット端末など)を設置し、高齢者が利用しやすいサイトやコールセンターを整備し、これらを介して、高齢者等に見守りや買い物・移動などの生活支援等のサービスを提供。 13 「生まれる前からライフログ管理――タブレット活用の電子母子健康手帳が医療を変える」(TechTargetジャパン 2月19日(水)8時24分配信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140219-00000001-zdn_tt-sci 14 四肢および前胸部の12個の電極から得られる心電図