第3節 国民の暮らしを守る安心・安全 1 電気通信サービスに関する消費者行政 (1) スマートフォン時代における消費者行政に関する取組 近年のスマートフォン等の新たなサービスの急速な普及に伴い、サービス提供に関するトラブルや、利用者情報の取扱などの新たな課題も発生している。こうした中、総務省では、利用者が安心・安全にスマートフォン等のサービスを利用できる環境を整備するため、@スマートフォンサービス等の適正な提供の在り方、Aスマートフォンのアプリ利用における新たな課題への対応、Bスマートフォンにおける利用者情報に関する課題への対応について検討を行い、平成25年9月に「スマートフォン安心安全強化戦略 1 」を公表した。 ア 電気通信サービスの適正なサービス提供への取組 スマートフォンをはじめとし、タブレット端末やモバイルデータ通信サービスが急速に普及するなど、電気通信サービスはますます複雑化・多様化しており、利用者からの苦情・相談は増加・高止まり傾向にある。上記「スマートフォン安心安全強化戦略」の「CS適正化イニシアティブ 2 」においては、 @通信速度の広告表示等について、実測値を表示・併記する等、利用者への分かりやすい情報提供について検討を進めること A期間拘束・自動更新付契約について、更新時期の契約者等へのメール等による通知の導入及び普及を検討すること B業界団体の自主的な取組による効果が十分に上げられていない場合、電気通信事業法における消費者保護ルールを見直す等の制度的な対応の検討に着手すべき 等が指摘されている。 これらの指摘を踏まえ、@の通信速度については、利用者が適切な情報に基づき契約を行うことが可能な環境を整備するため、総務省は平成25年11月から「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会 3 」を開催し、平成26年4月に第一次報告書を取りまとめた。本報告書では、通信事業者共通の統一的な計測項目・条件、事業者中立性が確保される実施プロセス、実証実験で検証すべき事項に加え、計測結果の公表及び広告等の利用者への情報提供手法の方向性について提言を行っている。Aの更新時期の契約者等への通知については、電気通信事業者においてプッシュ型通知を行う取組が促進されている。Bの電気通信事業法における消費者保護ルールの見直しについては、業界団体による自主基準の遵守不徹底や業界団体未加入事業者の存在等により、自主的な取組による効果が十分に挙げられていないと認められる事項について、法的な枠組等による必要な制度・規律の在り方などを検討するため、新たに「ICTサービス安心・安全研究会 4 」を平成26年2月から開催し、専門的な検討を開始している。 イ 青少年の利用環境整備 青少年へのスマートフォンの著しい普及に鑑み、従来の携帯電話とは異なるセキュリティ実態等を踏まえ、青少年自身のリテラシー向上に加え、保護者や教職員などのリテラシーの向上の重要性が高まっている。 特に保護者からは、スマートフォンを青少年が安心・安全に利用するために青少年や保護者等が把握しておくべき情報(スマートフォンの特徴、スマートフォン上のサービスの特徴、事業者が提供する安心・安全サービスの概要等)が不足しており、どのように対応すればよいか分からないという声がPTAや消費者団体等を中心に寄せられている。また、地方における情報不足は顕著であり、必要な情報を地方にも展開をして欲しいという要望が関係者から寄せられており、今後とも青少年に対するスマートフォン利用が見込まれることから早急な対応が求められている。 こうした状況に対処するため、各総合通信局及び沖縄総合通信事務所が中心となり、地域における青少年及び保護者・教員等に対して、各地域で活動する関係者(自治体、PTA、消費者団体、学校関係者、有識者、事業者、NPO等)が幅広く連携し、リテラシー向上のための普及啓発活動を実施することができる体制整備を進めるため、地域の関係者が一体となった推進体制の構築や勉強会の開催など総合的な周知啓発活動を展開している。 具体的には、スマートフォンの特性やサービス構造、プライバシーに関する情報、セキュリティ対策、フィルタリングなどの情報を盛り込んだ周知啓発資料やDVD教材、ソーシャルメディアに関するガイドラインづくりを支援するための素材等を関係団体と連携して作成し、ウェブサイトを通じて配布を行うなど周知啓発活動に幅広く活用している。また、特にスマートフォンの普及が著しい高校生や保護者に対して啓発イベントを開催するほか、地域での研修会など草の根レベルでの啓発活動についても幅広く取り組んでいる(図表6-3-1-1)。 図表6-3-1-1 地域における青少年の安心・安全な利用環境整備の概要 また、青少年が初めてスマートフォン、タブレット等を手にする春の進学時・新学期を捉え、「春のあんしんネット・新学期一斉行動」と称して、青少年及びその保護者に対して、スマホのリスクや必要な対応についての情報が伝わるよう、関係府省、関係団体及び関係事業者が連携して、スマートフォンやソーシャルメディア等の安心利用について、集中的な啓発活動を展開している(第4章第3節1(3)エ(イ)参照)。 ウ スマートフォン時代の利用者情報の取扱い スマートフォンの利用を経由して蓄積される様々な利用者情報については、アプリケーション等が様々な形で収集・利用しており、収集した情報が第三者へ提供されている場合もある一方、利用者にとっては、どのような情報が収集され、また利用されているのかが分かりにくいといった不安や懸念が生じている。このような中、総務省において、平成24年1月以降、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 5 」(以下「諸問題研」という。)に設置された「スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG」において、スマートフォンにおける利用者情報が安心・安全な形で活用されるべく、利用者情報の取扱いに関する必要な対応等の検討が行われた。その結果、アプリ提供者等の関係事業者等が自主的に取り組むべき指針である「スマートフォン利用者情報取扱指針」等を含む提言「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」(SPI)が取りまとめられ、同年8月に公表された。SPIでは、利用者が安心・安全にサービスを活用できるよう、スマートフォン・プライバシーに関する包括的な対策が提案されており、6つの項目 6 からなる基本原則が示されるとともに、アプリ提供者、情報収集モジュール提供者、広告事業者や関係事業者に望まれる取組が示された。特に、スマートフォンにおける利用者情報を取得しようとするアプリケーション提供者、情報収集モジュール提供者は、個別のアプリケーションや情報収集モジュール等について、8項目 7 の事項について明記するプライバシーポリシー等をあらかじめ作成し、利用者が容易に参照できる場所に掲示等を行うこととされた。 また、平成24年12月には、諸問題研の下に「スマートフォン時代の安心安全な利用環境の在り方に関するWG」が設置され、利用者情報の適正な取扱いに関し、アプリケーションの利用者の安心感向上とともに、適正なアプリケーションへの信頼向上・利用拡大にもつながる「アプリケーションの第三者検証の在り方」等について議論し、その結果を「スマートフォン プライバシー イニシアティブII」(SPI II)として取りまとめ、平成25年9月に上述の「スマートフォン安心安全強化戦略」において公表した。SPI IIでは、プライバシーポリシーの作成・公表を引き続き推進すること、また、個々のアプリケーション等について、利用者情報の適切な取扱いが行われているかどうか等を、運用面・技術面から第三者が検証する仕組みが民間主導により整えられることが望ましい旨が提言された。 SPI IIを踏まえ、同年12月には、アプリケーションのプライバシーポリシーの普及とアプリケーションの第三者検証を推進するにあたっての諸課題について検討し、プライバシーポリシーの普及並びに民間における検証サービスの提供と利用者による当該サービスの活用を促進することを目的として、「スマートフォン アプリケーション プライバシーポリシー普及・検証推進タスクフォース」が総務省に設置された。タスクフォースでは、アプリケーション プライバシーポリシーの作成・掲載状況等の調査及び第三者検証の実施に向けて必要な技術的課題等について検討が行われ、平成26年5月の第2回ICTサービス安心・安全研究会(後述)にて調査・検討結果が報告された。 総務省としては、プライバシーポリシーの普及に努めるとともに、その作成・掲載状況等を引き続き調査(図表6-3-1-2 8 )し、「スマートフォンの利用者情報等に関する連絡協議会」(SPSC 9 )をはじめとした事業者団体等と連携しながら、アプリケーションのプライバシーに関する第三者検証(図表6-3-1-3)の実運用に向け、検証基準・手法等の検討課題の解決に取り組んでいく方針である。また、スマートフォンの安心・安全な利用環境を確保するためには、利用者のリテラシー向上が不可欠のため、上記取組に関する利用者への情報発信も積極的に行っていく方針である。 図表6-3-1-2 スマートフォン アプリケーションにおけるプライバシーポリシーの作成・掲載状況 【出典】スマートフォン アプリケーション プライバシーポリシー普及・検証推進タスクフォース「スマートフォン上のアプリケーションにおける利用者情報の取扱いの現況等に関する報告書〜スマートフォンプライバシーアウトルック〜」(平成26年5月13日公表) 図表6-3-1-3 スマートフォン アプリケーションのプライバシーに関する第三者検証の仕組み 【出典】総務省作成 (2)ICTサービス安心・安全研究会 2020年代の世界最高水準のICT社会の実現のためには、世界最高レベルの通信インフラの整備が必要であり、そのためには料金低廉化・サービス多様化のための競争環境の整備のみならず、それと車の両輪をなす安心・安全な利用環境の観点からも、直面する課題への対応とともに、2020年代を見据えた検討が必要である。 このような観点から、消費者保護ルールの充実等直面する課題への対応を中心に、中長期的な制度的対応も要すると見込まれる課題への対応について検討することを目的として、総務省は、平成26年2月から「ICTサービス安心・安全研究会」を開催し、@消費者保護ルールの見直し・充実、AICTによる2020年代創造のための青少年保護・育成の在り方、BICTサービスの進展に応じた課題への対応(サービスの料金その他の提供条件の在り方等)等について検討を行っている。 1 「スマートフォン安心安全強化戦略」の公表:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000122.html 2 表題の由来は、Consumer Serviceの提供方法そのものの適正化や、利用者にとってより適正なサービスの提供によるConsumer Satisfactionの向上に、業界全体で取り組むことへの期待が込められていることによるもの 3 インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会: http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/speed_measurement/index.html 4 ICTサービス安心・安全研究会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ict_anshin/index.html 5 利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会:http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/11454.html 6 @透明性の確保、A利用者関与の機会の確保、B適正な手段による取得の確保、C適切な安全管理措置、D苦情・相談への対応体制の確保、Eプライバシー・バイ・デザイン 7 @情報を収集するアプリケーション提供者等の氏名又は名称、A取得される情報の項目、B取得方法、C利用目的の特定・明示、D通知・公表又は同意取得の公表、E外部送信・第三者提供・情報収集モジュールの有無、F問合せ窓口、Gプライバシーポリシーの変更を行う場合の手続き 8 平成25年2月に我が国のAndroidアプリに対して行った調査では、Google Play紹介ページにおける掲載率は25.0%、アプリ内における掲載率は35.0%、開発者ホームページにおける掲載率は80.0%であったが、平成26年2月の調査では、Google Play紹介ページ及びアプリ内での掲載率が改善された。 9 平成24年10月、スマートフォンにおける利用者情報等の適正な取扱を通じ、安心安全なスマートフォンの利用環境を整備するため、30以上の関係業界団体、関係機関、関係事業者が参加して設立された。