(3)IoTの実装による具体的なインパクト IoTの実現は、具体的にどのようなインパクトをもたらすのかを、実際の応用例を挙げて産業向け、社会インフラ、個人向けの3つに分けて概観する。 ア 産業向け(製造業等) 製造業はIoTやM2Mの適応領域における代表的な業態である。米国の大手通信事業者Verizonが公表した、同社のネットワークを利用したM2M接続数の増加率(2013年→2014年)を分野別に示したデータをみると、製造業が圧倒的に増えており、次いで金融及び保険、メディア及びエンターテイメントの順に高い(図表5-4-1-8)。 図表5-4-1-8 米VerizonのM2M接続数の増加率(2014年/2013年)(出典)Verizonレポート 8 製造業現場では、例えば生産ラインにおける個別の製造条件や製造機器のログデータなど、これまで活用しきれなかったデータを、IoTを通じて収集し、分析することで、生産ラインの改善へつなげることが可能となる。産業向けIoTに関する国内外の事例から、製造業のIoT化には、製造設備の稼働率の把握と改善や、顧客に応じた商品の稼働状況を収集する業務効率化など、様々な目的と狙いがあることが分かる(図表5-4-1-9)。 事例:ドイツIndustrie4.0戦略 ドイツでは、官民連携体制で「Industrie4.0戦略」と称する製造業のIoT化プロジェクトを進めている。同戦略は、「モノとサービスのインターネット(Internet of Things and Services)」の製造プロセスへの応用を通じて、生産プロセスの上流から下流までが垂直方向にネットワーク化されることにより、注文から出荷までをリアルタイムで管理しバリューチェーンを結ぶ「第 4 次産業革命」が生まれるという考え方に基づき命名されたものである。産業機械や物流・生産設備のネットワーク化、機器同士の通信による生産調整や抑制の自動化などが実現し、また製造中の製品を個別に認識することで、製造プロセスを容易に把握できるようになる。技術的には、モノづくりの世界において、センサーネットワークなどによる現実世界(Physical System)と、コンピュータを中心としたサイバー空間(Cyber System)を密接に連携させたCPS(Cyber-Physical System)を実現するコンセプトである(図表5-4-1-10)。 自動車生産を例にとって、Industrie 4.0の特徴をみてみる。自動車生産において従来採用されてきた「ライン生産方式」は、あらかじめ決められた工程に従って進める「固定的・静的」な方式であり、製品の仕様を多様化したり、一度組んだ工程を再構築したりすることは容易ではない。このような方式では、リアルタイムで顧客ごとの個別の要望に応えることは難しい。 他方、Industrie4.0で実現を目指している生産方式は、「ダイナミック・有機的」に再構成できる生産方式である。同方式では、ネットワークにつながった工程作業用ロボットがあらゆる情報にリアルタイムにアクセスし、それに応じて自由に生産方式や生産するものなどを組み替えて、最適な生産を行う。これにより、顧客の要望等に応じて、デザインや構成、注文、計画、生産、配送を実現することが可能になる。たとえば、各生産モジュールの間を、組み立て中の自動車が自律的に渡り歩き、車種ごとに適したモジュールを選択する等で、必要な組み立て作業を受ける。さらに、生産面・部品供給面でボトルネックが発生した場合においても、あらかじめ定められた制約条件に縛られることなく、他の車種の生産リソースや部品を融通して生産を続けることも可能となる。このように、Industrie 4.0で想定しているCPSでは、設計・組立・試験までの生産システムの両端を一気通貫する工程を、製造実行システムが動的に管理することで、設備の稼働率を維持しながら生産品種の多様化が実現できる(図表5-4-1-11)。 イ 社会インフラ(エネルギー、交通等) IoTの有望な適用領域として、エネルギー、交通、物流などの社会インフラが挙げられる。これは、各種施設等に設置したセンサー等からデータを収集し分析することで、社会インフラの安全性を高め、また効率化を実現することを狙いとしたものである。我が国でみられるように、老朽化が深刻化しているインフラにおいては、設備に係る投資やメンテナンスなどの課題が顕在化しており、その解決策としてIoTが期待されている(図表5-4-1-12)。 ウ 個人向けサービス 主としてB2B(Business-to-Business)を対象としたIoTの展開が進む中、個人の生活におけるIoT化も大きな変革をもたらす。 第4章でみたように、ウェアラブルデバイス、コネクテッドカー・オートノマスカー、パートナーロボットの3種類のICT端末は、個人向けIoTサービスの中核を担っていくと予想されるが、この他にも、多種多様なIoT端末・サービスの提供が見込まれている。ここではその一部を紹介する。いずれも製品・サービスとしては黎明期にあるが、センサーを通じて取得した情報をクラウド経由で解析することで、ユーザーに対して新たな価値を提供しようとする点で共通する(図表5-4-1-13)。  8 State of the Market “THE INTERNET OF THINGS 2015 - Discover how IoT is transforming business results”