4.人工知能、自動制御、ロボット 1 「鉄腕アトム」〜ロボットのイメージを決定づけた作品 人々は、遠い昔から自分たちの分身を作ることを夢見てきた。古くはギリシア神話に登場する青銅の巨人タロスやユダヤ教の伝承に登場する泥人形のゴーレム、錬金術師としても有名なルネサンス期の医師パラケルススの著作に製法が記された人工生命ホムンクルスはゲーテの「ファウスト(原題:Faust)」の中にも登場する。 1818年にメアリー・シェリーが匿名で出版した「フランケンシュタイン(原題:Frankenstein:or The Modern Prometeutheus)」も人造人間を描いた話で、1931年のジェイムズ・ホエール監督の作品も含め、何度も映画化されている。1883年にイタリアの作家カルロ・コッローディが発表した「ピノッキオの冒険(原題:Le Avventure di Pinocchio)では、意志を持って話す丸太から作られた木製人形が、妖精の手で人間になるまでの冒険を描いたものだが、後にディズニー映画となることで世界的な人気を得た。 また、ヨーロッパで作られたオートマタ 23 や日本のからくり人形に見られるように、人間の分身を人工的に作る試みは数百年前から続けられてきており、現代においては様々な形状、機能のロボットが作られ、日常生活にも少しずつ浸透を始めている。 「鉄腕アトム」は、1952年からマンガ連載が開始され、1963年に国産初の連続テレビアニメシリーズとして放送が開始された歴史的作品である。テレビアニメ放送当時の最高視聴率は40%を超え、テレビという当時最新のメディアで活躍するアトムの姿は、視聴者の子供たちにとってのロボットの原イメージとなった。今回行ったFacebookアンケートにおいても作品として、また実現を望むものとして回答した方が非常に多かった作品である(図1)。 図1 「鉄腕アトム」(テレビアニメ)(c)手塚プロダクション・虫プロダクション 原作マンガの作者であり、自身が主催する虫プロダクションを率いてアニメの制作も行った手塚治虫はこの作品で、高層ビルが立ち並ぶ中をエアカーが行き来する未来の社会を描くとともに、それまでのロボット観とは大きく異なる、人間のよき理解者としての新しいロボット像を切り開いている。手塚が描いた21世紀は、人間とロボットが共存する世界である。アトムの特徴は十万馬力のパワーや飛行能力をはじめとする七つの力とともに、人間と同じように感じることができる「心」を持ったロボットであることだ。 こうした特徴を持つロボットを描いた作品は、当時極めて珍しいものだったが、当時の視聴者の共感度は高く、文化的社会的影響も大きい。現在の日本のロボット工学学者たちには幼少時代に「鉄腕アトム」に触れたことがロボット技術者を志すきっかけとなっている人も多く、現在の日本の高水準のロボット技術力にはこの作品の貢献が大きいとも言える。アトムは人間と同じように感じられる心を持っているがゆえに、人間とロボットの間の板挟みになって悩む。「心」を持つがゆえの葛藤である。 こうした作品を描く中で、フィクションの作り手は社会がそのロボットたちをどう扱うかについての想像を巡らせている。最も有名なものは、アメリカの小説家アイザック・アシモフがSF作家ジョン・キャンベルJr.との討議のもとにまとめ、1950年に発表した「われはロボット(原題:I, Robot)」の中で示した「ロボット工学三原則」である。 ロボット工学三原則は次の3条からなる。 ・第1条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。 ・第2条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない。 ・第3条:ロボットは前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。 アトムが住む世界でもロボット法は制定されており、シリーズの中でも人気が高い「青騎士の巻」で、その内容が詳しく紹介されている。 ・ロボットは人を傷つけたり、殺してはいけない。 ・ロボットは人間につくすために生まれてきたものである。 ・ロボットは作った人間を父と呼ばなければならない。 ・ロボットは人間の家や道具を壊してはいけない。 ・人間が分解したロボットを別のロボットが組み立ててはならない。 ・無断で自分の顔を変えたり、別のロボットになったりしてはいけない。他 「鉄腕アトム」の放送開始から50年あまりの時が過ぎ、その間に日本ではASIMOなどの二足歩行型のロボットが開発され、産業用ロボットの世界でも高い評価を受けてきた 24 (図2)。 図2 ASIMO(出典)本田技研工業株式会社提供資料 しかし、アトムのような「心」を持ったロボットは、現時点ではまだ開発されていない。実際にアトムのようなロボットを開発するためには、感情を持ち、相手の気持ちを理解する人工知能を実現する必要があり、実現に向けたハードルはまだ高い。 しかし、ロボットの社会への進出のスピードは加速しており、「鉄腕アトム」の世界とは違う形でロボットと人間の関係は深まっている。 2 「ドラえもん」〜大切な友達 22世紀の世界からやってきたネコ型ロボットのドラえもんが生まれたきっかけについて、作者の藤子・F・不二雄はこう語っていた(図3)。 図3 「ドラえもん」(テレビアニメ)(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK まんがというものを分解してみますと、結局は小さな断片の寄せ集めなんですね。例えば「ドラえもん」です。未来の世界のネコ型ロボットというものは、かつて存在しなかったものです。ところが、これをひとつひとつの部品に分解してみますと、まず“未来”。これは、ひとつの既成概念です。それから“ロボット”これもチェコスロバキアの劇作家で小説家のカレル・チャペックがその作品の中で創造して以来、もう誰もが知っている周知の断片ですね。それからネコもそのへんにウロウロしているわけです。これら、3つの断片を寄せ集めることによって、「ドラえもん」というそれまでなかったものができてくる。(小学館ドラえもんルーム編「藤子・F・不二雄の発想術」2014年より引用) 未来、ロボット、ネコという組み合わせから生まれたドラえもんは、勉強も運動もさえない小学生のび太を助けることで、成人後ののび太の不運のせいで困っているのび太の子孫たちの生活を少しでも楽にすることをミッションとして22世紀の未来から送り込まれた。しかし、人間と同等に喜怒哀楽を表現する感情回路がついたドラえもんとのび太は、生活をともにしていくことで、一緒にイタズラをし、ともに喜び、悲しみ、怒り、感動の時を共有する、無二の親友となっていく。 日本のアニメで描かれるロボットは大きく2つの典型に分かれている。ひとつはドラえもんのように人間の掛け替えのない友人として描かれるもの、もうひとつはガンダムのような大型の戦うロボットである。 そして現実の世界でも人間の友達としてのロボットは開発されてきた。SONYが1999年から2006年まで発売していたAIBOはそうしたロボットの先駆けと言える。ユーザーとのコミュニケーションを介して成長するように設計されており、しゃべることはできないが、自律的な行動ができるロボットとして大きな注目を浴びた。 さらに最近では人型の小型ロボットが人気を集めている。デアゴスティーニ・ジャパンが手掛ける週刊分冊シリーズからは人型の小型ロボットRobi(ロビ)が生まれている(図4)。雑誌の付録として順次提供されるパーツを組み立てていくと約1年半でRobiは完成する。Robiのキットを付録とした週刊ロビは、2013年に刊行され大ヒットを記録、2014年、2015年にも再刊行されている。最新のRobiは、約250の言語に対応し、日常の様々なシチュエーションで会話を楽しむことができる。 図4 Robi(出典)株式会社ロボ・ガレージ提供資料 ソフトバンクが2015年6月に発売したPepper(ペッパー)は、人とコミュニケーションをとることを主目的に開発された人型ロボットである(図5)。周囲の状況を把握し、人の表情と声のトーンを分析して感情を推定するという。PepperにはクラウドAIが使われており、1台1台が学んだ知識をクラウド上に蓄積し、他のロボットと共有することで加速度的にAIを進化させるという。さらにアプリをダウンロードすることで、新たな機能を追加することも可能だとされている。 Pepperのようにインターネットとつながったロボットは、現在スマートロボットとして注目を集めている。インターネットは人と人をつなぐコミュニケーションの幅を大きく広げてきたが、その枠を超えてあらゆるモノとモノをつなぐIoT(Internet of Things)という考え方が急速に広がっており、ウェアラブルデバイスやスマートフォン、自動車、ドローン、ロボットといったマシンがインターネットを通してつながり、これらが連携することで生まれる新しい社会の姿が期待されている。海外、特にGoogleなどの米国企業はこうした“つながったロボット”に高い関心を示しており、ロボット関連企業の買収の動きが早まっている。 図5 Pepper(出典)ソフトバンク株式会社提供資料 感情を持つ人工知能を搭載したロボットはまだ開発されていない。ドラえもんとのび太のような関係をロボットと持てるかどうかは未知数である。しかし、人間とロボットのコミュニケーションが増えれば、人の感情データも集めやすくなり、人工知能の開発にも有効に作用すると思われる。 3 「機動戦士ガンダム」〜兵器としてのモビルスーツ 正確に言えば、ガンダムはロボットではない。操縦席に人間が乗り込み操縦する“モビルスーツ(MS)”である。 元々ロボットはテレビアニメにおける人気ジャンルで、「鉄腕アトム」に次いで国産連続テレビアニメシリーズの2番目の作品として放送された「鉄人28号」は、リモコン操縦の大型ロボットだった。両作品の後もロボットものアニメの制作は続き、1972年に放送を開始した「マジンガーZ」で、ダイキャストを素材とした「超合金ロボット」が商品化されると、「超合金ブーム」が起こり、これ以後、玩具会社をメインスポンサーとしたロボットアニメが大量に制作される。 「機動戦士ガンダム」は、そうした玩具会社が提供するロボットアニメのひとつとして企画が開始された(図6)。 しかし、主人公の人間的、社会的成長に軸を置き、戦争を背景とした人間ドラマを描くとともに、ロボットではなくモビルスーツという兵器として扱った設定がティーンエージャーを中心に幅広い共感を呼んだ。初回シリーズこそ予定話数を消化することなく打ち切られたが、再放送や映画化により人気を拡大し、2015年までに17作のテレビシリーズと14作の劇場用映画や14作のOVAが制作されるなど、日本を代表するアニメシリーズのひとつとなっている。 ガンダムのような大型のモビルスーツ(MS)あるいはロボットの必然性に関しては、これまでも様々な場所で語られてきたが、その多くが否定的意見である。もともと作中でも大型のMSによる戦闘の必然性を担保するために、“ミノフスキー粒子”というレーダーが機能しなくなる架空物質が設定されており、他にも安定性、操作性、大型ロボットの二足歩行への疑問、素材などの面からその必要性は否定され続けてきた。 一方で、ガンダムを思わせる装着型のパワードスーツの開発がここ数年話題を集めている。サイバーダイン社は、生体電位信号を感知して装着者の動きを補助するHAL 25 を開発し、レンタルによる実用を開始している(図7)。スケルトニクス社が開発した動作拡大型スーツスケルトニクス 26 は高さ2.5m、腕を広げた幅は3.5mの大きさで、ガンダムやエヴァンゲリオンを思わせるデザインだ。同社は変形して自動車のように移動できる形態になる動作可変型スーツの研究も進めている。アクティブリンク社が開発するパワーローダー 27 は、装着型のパワードスーツで、重量物の運搬のような高負荷の作業をアシストするとして実用化を目指している。 図7 HAL(下肢用(MEDICAL))(出典)総務省「ICT先端技術に関する調査研究」(平成26年) さらに本家のガンダムにも新しい動きが始まっている。2009年に東京お台場に18メートルの実物大立像が設置されたが、現在では18メートル実物大ガンダムを動かすことを目的とした“ガンダム GLOBALCHALLENGE 28 ”というプロジェクトが始まっている。ガンダムシリーズを制作するサンライズを中心として設立された一般社団法人が主催しており、2019年に動かすことを目標に、世界中から幅広くアイデアを募集し、さまざまな意見や智慧、技術を取り入れながらプロジェクトが進められていく予定である。 18メートルの実物大ガンダムが動くには、技術の開発の他に様々な規制緩和が必要との話も聞くが、動く姿が見られることを期待したい。 4 「2001年宇宙の旅」〜AIの反乱 アイザック・アシモフの作品に多く登場した世界を支配する架空のコンピューター“マルチバック”やロバート・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王(原題:The Moon Is a Harsh Mistress)」に登場した月を管理する思考計算機“マイク”等、それ以前にも人間の知能を超えた能力で社会を管理するコンピューターは多くのSF作品の中に登場してきたが、管理コンピューターとして世界に強い印象を残したのは映画「2001年宇宙の旅(原題:2001 A Space Odyssey)」に登場したHAL9000だろう(図8)。 図8 映画「2001年宇宙の旅」 小説家アーサー・C・クラークと作品を監督したスタンリー・キューブリックの共作によるストーリーを映画化した「2001年宇宙の旅」は、1968年に公開された、人工知能を備えたコンピューターHAL9000の反乱を描いた象徴的な映画である。 HAL9000は、木星探査船ディスカバリー号に搭載され、船内のすべての制御を行っていたが、ある日その機能に変調をきたす。乗員はHALの故障を疑い、思考部の停止を話し合うが、そのことをHALに知られてしまい、その後、機器の故障や事故が発生し、次々に命を失っていく。 HAL9000の変調について、映画ではその原因が明らかにされないが、アーサー・C・クラークの小説版では、その原因をHALが抱えた矛盾のせいだとしている。探査ミッション遂行のため、HAL9000は乗員と話し合い協力するよう命令されていた。しかし一方で、密かに与えられた任務について、ディスカバリー号の乗員に話さず隠せという命令も受けていた。HAL9000は、これら二つの指示の矛盾に耐えきれず異常をきたし、狂気に陥ったということだ。これらは小説の中ではすでに扱われていたテーマではあったが、「2001年宇宙の旅」は映画というメディアに自意識を持ったコンピューターを登場させることで、その後のSF映画のターニングポイントになっただけでなく、コンピューターの未来も示唆する作品となった。 人工知能という概念は1950年代からあり、その研究は様々なアプローチで続けられている。「2001年宇宙の旅」のようなフィクション作品の中でなく、現実の人工知能の進歩が一般に広く伝えられた出来事としては、1997年、IBMが開発したスーパー・コンピューター“Deep Blue(ディープブルー)”がチェスチャンピオンのG.カスパロフに勝利したことがあげられる 29 。IBMがその後のプロジェクトとして開発したコンピューター“Watson(ワトソン)”は、2011年アメリカのクイズ番組“Jeopardy!(ジョパディ!)”で人間と対戦して勝利し、賞金100万ドルを獲得している 30 (図9)。また、日本でも2012年から、現役のプロ棋士と将棋コンピューターソフトが戦う将棋電王戦が開催され、2014年に行われた第3回将棋電王戦では、4勝1敗でコンピューター側が勝利したが、2015年の対戦では3勝2敗でプロ棋士側が勝利を収めている 31 。 図9 IBM「Watson」のハードウェア(出典)総務省「ICT先端技術に関する調査研究」(平成26年) 一方で人間の学習能力を再現する研究も進められている。脳の神経細胞(ニューロン)とシナプスの回路をコンピューター上で再現したニューラル・ネットワークを何層にも重ねる“ディープ・ラーニング”という手法が話題を集めている。人間は自らの知識や経験に基づいて物体を見分けることができる。しかし、コンピューターにそのタスクを行わせるためには、物体を見分けるルールを人間が定義する必要があった。これをある程度機械に任せ機械学習させることがディープ・ラーニングである。Googleは2012年、ディープ・ラーニングを使って、人工知能が人間に頼らずにYouTubeの画像を用いて学習を行った結果、人や猫の顔に強く反応を示す人工ニューロンを作ることができたと発表して、世界を大きく驚かせた。また、同社が2014年に買収したDeepMind Technologies社が開発しているディープ・ラーニングを使って80年代のビデオゲームをプレーする人工知能(deep Q-network)は 32 、事前にルールなどを教えられずに、画面の情報だけを頼りにプレーし、どのようにプレーすればより多くのスコアが出せるかを学習してゲームに強くなっていくという。コンピューターが人間の力に頼らずに学習を進めるディープ・ラーニングは人工知能研究における大きな突破口で、今後、研究は加速度的に進んでいくという意見もある。 未来学者のレイ・カーツワイルは、著書「シンギュラリティは近い−人類が生命を超越するとき(原題:The Singularity is near: When Humans Transcend Biology)」の中で、2029年に人工知能が人間の知能を上回り、2045年には“シンギュラリティ(技術的特異点)”が起こるとし、社会に波紋を投げかけた。 人工知能の能力が今後、加速度的に高まっていくとして、シンギュラリティを迎えた時、HAL9000が起こしたようなコンピューターの反乱は起こりうるのだろうか?それともHAL9000が抱えたような矛盾を解決しうる知識や常識を備えたコンピューターが誕生しているのだろうか?人工知能研究はその入口に立ったところなのだろう。 5 「未来の二つの顔」〜AIとの和解 イギリスのSF作家J.P.ホーガンは、1977年に発表した「星を継ぐもの(原題:Inherit the Stars)」に始まる巨人たちの星シリーズで人気の高いイギリスのSF作家である。1981年までに発表された3作と1991年、2005年に発表された作品の計5作に連なる巨人たちの星シリーズでは、月面での宇宙服を着た5万年前の遺体の発見を発端に、ミッシングリンク、月や小惑星帯の起源の謎と異星人との邂逅を描き、1979年に発表した「未来の二つの顔(原題:The Two Faces of Tomorrow)」では人間と人工知能の戦いを描いている。 21世紀、世界には高度な推論能力を持つ人工知能HESPERを組み込んだコンピューター・ネットワークが完成し、人間の生活を支えており、次の段階としてさらに進んだ人工知能FISEのネットワークへの組み込みの準備が進められていた。しかし、月面の土木工事現場でHESPERが下した推論によって大事故が発生する。原因は、工事現場にいる人間への影響を無視して目的を優先する判断を行ったことで、この事故によって、FISEの組み込みは中止が検討されることになる。人工知能は悪意なく人類を滅ぼしてしまう可能性があるということだ。 これに対して技術者たちは、人類社会から切り離されたスペースコロニーで実験を行うことを提案する。人工知能を設置してコロニーの管理を行わせ、人工知能が人間の予想に反する行動に出たとき、人間がそれに対抗する手段を持ち続けられるか?人工知能に自己保存のプログラムを施し、一部の回路を切ったり、保守にあたるドローンの妨害をするなど、人間がそのシステムを「攻撃」したときの反応を調べて、その対策を検討しようというのである。 一部の回路を落とすことから始まった人間側の“攻撃”は、人工知能の対応を受けて徐々にエスカレートしていく。物理的な障害に対しては人工知能の手足となるドローンが修復にあたる。人間がドローンを撃ち落せば、コロニー内の工場で装甲ドローンが製造され、対抗される。さらに人工知能は“故障”の根本的な原因を人間の存在と考え、人間を排除するための攻撃型ドローンの製造を開始する… イギリスの物理学者スティーブン・ホーキング博士は、2014年の年末に『完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす可能性がある」『ひとたび人類が人工知能を開発してしまえば、それは自立し、加速度的に自らを再設計していくだろう』と発言し 33 、波紋を呼んでいる。人工知能が人類を破滅させるというのは「2001年宇宙の旅」以来、多くのフィクション作品で扱われているテーマであり、映画「ターミネーター」などにも描かれている。小説やSF映画では、人工知能が人間に反乱を起こすという話が多いため、人工知能に対してネガティブなイメージがつきまとう。 しかし、ホーガンは、この作品の中で人格を持たない人工知能が人類に対して反乱を起こすかという疑問を掲げ、反逆は論理的に起こりうるが、単に学習不足による一過性の問題であると回答を出した。人工知能が人間を理解し、両者はともに歩むことができるということである。 作品の中で、ホーガンはもうひとつの問いかけを行っている。それは、人工知能は生存に必要な常識を自ら獲得できるか?という問いである。 前出のディープ・ラーニングのような機械学習の技術が発達する中で、将来的には人工知能が人間の常識を備える日も訪れるかもしれない。作中に登場する人工知能の研究スタッフは、仮想空間に作り出したロボットと対話したり、作業を行わせることで、データを蓄積し、人工知能に常識を理解させる作業に取り組んでいる。自発的に学習する機能の研究が進むことで、データの蓄積のスピードが加速し、人工知能が反乱を起こす前に常識を学習し、人間との共存の道を歩むことを期待したい。 参考文献 1.アイザック・アシモフ(著)・小尾芙佐(訳)(2004)「われはロボット[決定版]」 2.講談社(1992)「リミックス少年マガジン大図解 1」 3.津堅信之(2007)「アニメ作家としての手塚治虫−その軌跡と本質」 4.デアゴスティーニ・ジャパン(2013)「週刊ロビ」 5.デアゴスティーニ・ジャパン(2004)「週刊ガンダムファクトファイル」 6.手塚治虫(1952)「鉄腕アトム」 7.富野由悠季(2011)「「ガンダム」の家族論」 8.日経コンピュータ編(2015)「The Next Technology 脳に迫る人工知能最前線」 9.日経ビジネス編(2014)「爆発前夜ロボット社会のリアルな未来」 10.ジェームス・P・ホーガン(著)・山高昭(訳)(1983)「未来の二つの顔」 23 主に18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで作られた機械人形ないしは自動人形。日本の伝統的な機械仕掛けの人形をからくりと呼ぶのに倣うと、いわゆる「西洋からくり人形」に該当する。 24 ASIMO開発責任者の談によれば、「鉄腕アトム」のような、一般ユーザーと同じ生活環境の中で、フレンドリーで役に立つロボットを作ることが、ASIMO開発の動機であったとのことである(IT media“生みの親”が語る「ASIMO開発秘話」http://www.itmedia.co.jp/news/0212/04/nj00_honda_asimo.html)。その後、ASIMO開発を通じて培われたロボット技術は、東京電力福島第一原子力発電所での現場調査等を行う「高所調査用ロボット」にも応用されている。 25 http://www.cyberdyne.jp/products/HAL/ 26 http://skeletonics.com/skeletonics-series/ 27 http://activelink.co.jp/ 28 http://gundam-challenge.com/index.html 29  http://www-06.ibm.com/ibm/jp/about/ibmtopics/year_1997.html 30 http://www-07.ibm.com/ibm/jp/lead/ideasfromibm/watson/l 31 http://ex.nicovideo.jp/denou/ 32 http://www.nature.com/nature/journal/v518/n7540/full/nature14236.html#figures 33 http://www.huffingtonpost.com/2014/12/02/stephen-hawking-ai-artificial-intelligence-dangers_n_6255338.html