4 構造変化の整理 前述の点も踏まえて、ICT産業のレイヤー(階層)区分を軸にIoTを位置付けると、図表2-1-4-1のとおり整理することができる。ここでは、レイヤーを「コンテンツ・アプリケーション」「プラットフォーム」「ネットワーク」「デバイス・部材」の4つに分類した。ICTを様々な業種や分野におけるインフラとすると、IoTは各レイヤーにおける必要な要素を垂直方向につないでそれぞれの業種や分野と向き合うICTの提供形態の一つであると捉えることができる。各レイヤーにおいては、そのレイヤーが提供する機能に特化した要素も含まれる 5 。 図表2-1-4-1 ICT産業のレイヤー区分とIoTの位置付け (出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年) 次に、ICT産業を「エコシステム」の観点から整理する。ICT産業をビジネスエコシステムとして分析したモデルとして、平成27年版情報通信白書でも紹介した、フランズマンの提唱による「新しいICTエコシステム」 6 が挙げられる。ビジネスエコシステムとは、分業と協業によって共生するビジネスのネットワークを生態系のアナロジーで分析した概念である。フランズマンが提唱したモデルは、ビジネスの取引主体で区分し、レイヤー1:「ネットワークエレメント事業者」、レイヤー2:「ネットワーク事業者」、レイヤー3:「プラットフォーム・コンテンツ・アプリケーション事業者」、そして「消費者」の4つの区分で構成されている。 ここでは、フランズマンのモデルを応用して、IoT時代におけるICT産業のエコシステムの整理を試みる。まず、フランズマンの提唱したモデルと図表2-1-4-1のレイヤー区分との対応関係について、レイヤー1はスマートフォン等のデバイスやIoTに活用されるセンサー等を製造しているメーカー等の事業者が含まれ、「デバイス・部材」レイヤーに相当する。続いて、レイヤー2は、移動体通信や固定通信等を中心とした通信サービス事業者を表し、「ネットワーク」レイヤーに相当する。最後に、レイヤー3は、コンテンツ・アプリケーション事業者及びプラットフォーム事業者(クラウド等)が含まれ、「コンテンツ・アプリケーション」レイヤー及び「プラットフォーム」レイヤーに相当する(図表2-1-4-2)。 図表2-1-4-2 IoTの進展を踏まえた新しいICTエコシステム (出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年) フランズマンが示すICTエコシステムによれば、エコシステムを成立させていた共生の関係がインターネットの普及前後で異なる。フランズマンは、インターネット普及前の時代をクローズド・イノベーションと捉え、図中の@・C・Eの関係性 7 が重要であったが、インターネット普及後はオープン・イノベーションの時代となり、図中のA・B・Dの関係 8 の重要性が増したと言及している。すなわち、エコシステムやそれを変化させるイノベーションの中核となる事業者が、レイヤー1やレイヤー2から、レイヤー3へシフトしている点を指摘した。 IoT時代では、上記のシフトに加え、エコシステムに新たな要素が加わる。具体的には、ICT利活用産業の事業者とICTの各レイヤーの事業者との関係(図中のF)の重要性が増す。具体的には、異業種連携等によるICTを活用した新たなサービスやビジネスモデルの創出である。これにより、従来のICT産業では、主としてICT産業の事業者と消費者との関係性で成り立っていたところ、ICT利活用産業の事業者と消費者との新たな関係性が生まれる(図中のG)。これらの関係を成立させる要因の一つとして、ICT利活用産業に属する様々な「モノ」(例えば、自動車産業における自動車、エレクトロニクス産業における家電、等)がネットワークを経由して、消費者とICT産業の事業者に介在することである。 このように、IoT時代においては、従来のICT産業にとどまらない新たなICTエコシステムが形成されると考えられ、新しい市場やビジネスモデルの創出が多面的に派生する可能性を示唆しているといえる。 5 ここでは例として「IoT関連アプリケーション」「M2M」「エッジコンピューティング」「ウェアラブル」等を挙げた。それぞれ本章第2節において具体的に触れるものとする。 6 Martin Fransman, “The New ICT Ecosystem -Implications for Policy and Regulation”、2010年4月。モデルの詳細については、平成27年版情報通信白書を参照されたい。 7 例えば、ガラパゴスとも称される我が国の高度に発展したフィーチャーフォン用サービス・端末は、@(「レイヤー2」と「レイヤー1」)とE(「レイヤー2」と「消費者」)の関係性を重視したエコシステムで成立していた。 8 例えば、ウェブサービスで使われる新たな技術・ビジネスモデルの総称として「Web2.0」と表される潮流は、Bの「レイヤー3」と「消費者」の関係性に基づくエコシステムがビジネスとして拡大したものといえる。