(3)センサー JEITAによれば、2014年におけるセンサーの世界出荷台数は251億個、出荷金額は1兆3,173億円であり、金額では3年連続で二桁以上のプラス成長となっている。種類別では、2014年の金額構成比で最大構成は、光度センサー58%、位置センサー17%となっている(図表2-2-5-8)。2014年の数量構成比では、温度センサー47%、位置センサー21%、光度センサー20%となっている。 図表2-2-5-8 世界のセンサーの出荷金額及び台数の推移 (出典)JEITA JEITAによれば、2011年時点での日系企業のセンサー出荷金額は8,839億円で、世界需要の1兆8,290億円の約5割を占めている。日本にはロームや村田製作所等、センサー技術では高い競争力を持つ企業が多く存在することから、製造、利用の両面においてセンサー市場をけん引する立場であるといえる。 一方、米国では、毎年1兆個のセンサーが活用される“Trillion Sensors Universe”が2023年までに実現するという、起業家Dr.Janusz Bryzek氏が提唱したビジョンが支持を集めている。同ビジョンが実現された場合、1兆個のセンサーのうち1%程度が既存用途に活用されるものであり、残りの99%のセンサーは新たな用途に用いられると指摘されている。 従って、センサー市場において日本企業が優位な立場を維持していくためには、固定概念にとらわれず、新たなセンサー利用を生み出していくことが重要となり、具体的な課題として@より安価なセンサーの大量生産(既存の強み)、A異なる分野のセンサーデータの収集・共同利用を可能にするプラットフォームの構築、B膨大なセンサー情報を活用したサービス・アプリケーションの開発等を実現していく必要があると考えられる(図表2-2-5-9)。 図表2-2-5-9 トリリオンセンサーのコンセプト (出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年) 地球規模で広がるICT利活用 経済成長や社会的課題解決のためにICTを利活用する動きは、先進国にとどまらず、アジア・アフリカなどの新興国や途上国においても広がっている。とりわけ、モバイルの普及は著しく、教育、医療など様々な分野で生活や産業に変革をもたらしている。こうした地球規模でのICTの広がりを、データと事例から概観する。 ○モバイルを中心とした世界的なICTの浸透 モバイルを中心として、ICTの全世界への普及が進んでいる。 図表1は、2000年時点と2014年時点の世界における携帯電話及びインターネットの普及状況を示したものである。携帯電話普及率は2000年の12.1%から2014年には84.2ポイント増の96.3%、インターネット普及率は2000年の6.5%から2014年には34.2ポイント増の40.7%となっている。国・地域別で見ると、携帯電話はインドで爆発的な普及を見せており、2000年から2014年で契約数が263.9倍に拡大した。その他の地域においても途上国を中心に大幅に契約数を伸ばしている。 図表1 世界における携帯電話及びインターネット普及率の変化 (出典)ITU World Telecommunication/ICT Indicators 2015より作成 携帯電話の加入数としては、2015年(予測)で70億を超えており、近年その伸びに多少の鈍化は見られるものの増加を続けている 22 。インターネット加入数についても、2001年から2015年にかけて年平均成長率14.2%で成長を続けており、加入数が2001年からの14年で、4億9,500万から31億7,400万に増加した(図表2)。 図表2 世界の携帯電話及びインターネットの加入数の推移 (出典)左図:ITU「Global mobile-cellular subscriptions, total and per 100 inhabitants, 2001-2015」
右図:ITU「Global numbers of individuals using the Internet, total and per 100 inhabitants, 2001-2015」 携帯電話加入者数の増加は途上国によるところが大きい。2000年時点で途上国の世界シェアは34.8%であったが、2015年(予測)では世界シェアの78.6%を途上国が占めている。実際の加入者数でみた場合、2000年から2015年で途上国の携帯電話加入者数は約22.3倍に拡大した(図表3)。 図表3 携帯電話加入者の世界シェア推移 (出典)ITU「 Mobile-cellular subscriptions, by level of development」 携帯電話普及率について、一人あたりGDPとの相関関係を見ると、携帯電話については一人あたりGDPがそれほど高くない国でも携帯電話の普及率が高くなっている国も少なくなく、経済状況にはそれほど関わりなく、携帯電話が広く普及している状況がうかがえる。一方、携帯電話とは異なり、個人におけるインターネット普及率と一人あたりGDPとの間には比較的相関関係がみられ、一人あたりGDPが高い国ほどインターネットの普及率も高い傾向がみられた(図表4)。 図表4 一人あたりGDPと携帯電話及びインターネット普及率(2014年) (出典)一人あたりGDP:IMF“ World Economic Outlook” October 2015
携帯電話普及率、インターネット普及率:ITU“ ICT Facts and Figures 2015” 途上国における携帯電話の急速かつ急激な普及は、固定電話と比較してインフラ整備にかかるコストが低かったこと、端末のコモディティ化や中古端末の流通により低価格で端末の購入が可能となったことなどが要因としてあげられる。 携帯電話、インターネットの普及を背景に、アジアや南米の新興国・途上国では、ここ数年で急速にスマートフォンの普及が進んでいる国がある。2013年と2015年でのスマートフォン普及率を比べると、マレーシアでは34ポイント、チリ、ブラジルでは26ポイント、中国では21ポイント増となっている(図表5)。 図表5 スマートフォン普及率の増加の高い国における普及率の推移(アジア・南米・アフリカ) (出典)Pew Research Center,“ Smartphone Ownership and Internet Usage Continues to Climb in Emerging Economies”より作成 スマートフォンの普及につれ、それに関連するアプリの利用が広がっているが、その中でも特にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用が広がっている。 Facebookへの月間アクティブ利用者数をみると、2015年Q4において総ユーザー数15億9,100万のうち、アジア太平洋地域が5億4,000万人、その他の地域(欧米、アジア太平洋以外)が5億900万人と全体の65.9%を占めている。2012年の同時期と比較するとアジア太平洋地域の利用者が占める比率は28%から34%に、その他の地域の利用者が占める比率も29%から32%に増加している(図表6)。 図表6 Facebookの地域別月間アクティブユーザー数 (出典)Facebook“ Annual Report” 2016.1.28より作成 Pew Research Centerの調査によれば、先進国よりも途上国の方がSNSを利用している比率が高くなっている。インターネット利用者のうちSNSを利用している比率が高いのは、インドネシア(89%)、フィリピン(88%)、ベネズエラ(88%)、チリ(85%)、マレーシア(85%)、ナイジェリア(85%)などとなっている。 途上国で比較すると、地域による差はそれほど大きくなく、アジア、南米、アフリカともに7割以上の利用率となっている。途上国においては、インターネットの利用におけるSNSのウェイトが高いものと考えられる(図表7)。 図表7 インターネット利用者におけるSNSの利用率(2015年) (出典)Pew Research Center,“ Smartphone Ownership and Internet Usage Continues to Climb in Emerging Economies”より作成 ○途上国で広がるICT利活用の先進事例 (1)ICTを活用した質の高い教育の提供(Bridge International Academies) ケニアで2008年に設立されたBridge International AcademiesはICTを活用することによって質の高い教育を安価に提供することを実現している。 ケニアでは、無償で公立学校へ通い初等教育を受けることができるのだが、教科書や制服等の費用が別途かかり、ひと月あたり2ドルから12ドルの費用が必要になっている。加えて、公立学校では「教育の質」が問題視されている。世界銀行の調査によれば、公立学校の教師のうち、カリキュラムの内容に精通しているのは35%にとどまり、教える時間も1日あたり2時間19分と短い。学校を休む教師も少なくないなど、保護者が望む教育と、実際に提供されている教育との間には大きなギャップがある。しかし、1日2ドル以下で生活する家庭では、費用の面から私立学校へ通わせることは容易ではない。しかも、ケニアでは私立学校が開校から数年で閉校するといったことも少なくなく、学校選びに苦労している状況にある。 同社は、そのような人たちを対象に月額6ドルで質の高い教育を提供している。現在はケニアに加えてナイジェリア、ウガンダでもサービスを開始しており、3か国合計で414校を運営し、約12万人の生徒を得ている(図表8)。 図表8 Bridge International Academiesの生徒数及び学校数の推移 (出典)Bridge International Academies資料より作成 同社では「教育の質」を高めることを重視し、教育専門家を活用したカリキュラムの開発や、タブレット等をはじめとするICTシステムに大きな投資をしている。授業カリキュラムは世界一流の教育専門家の協力を得ながら同社で一括して開発し、台本化している。台本化されたカリキュラムは、タブレットを通じて教師に提供される。教師が使用するタブレットは同社のシステムとデータ通信でリアルタイムに結ばれており、教師に対して授業のどのタイミングで何をしたら良いのか、何を説明したら良いのか等を順次ガイドする。タブレットに従って授業を行うことによって、どこでも標準化された教育が提供できるようになっている。また、台本を教師に提供するのと同時に、タブレットを通じて授業の進捗度や教師による教育の実施内容が同社のシステムに送られる。生徒の成績もタブレットを通じて記録される。これらの情報は本社でモニタリングされており、必要に応じて本社の専門家が個々の教師をタブレットを通じて指導することもできる。このような取組の結果、同社の生徒は同じ地域の他の生徒よりも、読解力で35%、計算で19%、平均学力が上回るという効果が得られている。 このように教育の質を高める一方で、1日あたり2ドル以下で生活している家庭でも通えるよう、安価に提供しなければならない。そのため同社では、スケールメリットが得られるよう学校数、生徒数を急速に拡大させている。また、学校運営もICTを活用することで、効率化している。例えば、授業料の請求や経費管理、給与処理等の非教育分野の事務処理は自動化され、スマートフォンのアプリを通じて簡単に処理できるようになっている。そのため、職員は保護者や地域コミュニティとの関係作りなど現場でしかできない仕事を担当するだけとなっており、学校は1名の職員で運営できるようになっている。 同社の取組は高く評価されており、マイクロソフトのビル・ゲイツやFacebookのマーク・ザッカーバーグ、英国国際開発省(Department for International Development)、世界銀行グループの国際金融公社(International Finance Corporation)等が投資を行っている。こうした投資を受けながら、同社では2025年までに12か国、1,000万人の生徒に教育サービスを提供していくことを目標にしている。 (2)途上国農村部向けヘルスケアサービス(eHealth Center) インドでは、全人口の7割以上が都市部以外に居住している一方で、医療施設の75%は都市部に立地している 23 。そのため農村部のおよそ9割の人は、基本的な医療サービスを受けるための診療所等まで8km以上離れたところに住んでいる。また、医療施設に行ったとしても質のよい医療が受けられるとも限らない。 そこで、Hewlett Packard Enterprise社(以降HPE社)とインドの研究調査機関であるCouncil of Scientific & Industrial Research(CSIR)は、2012年に医療従事者などとのパートナーシップの下、eHealth Centerを立ち上げ、インド国内でまず3か所を設置した(図表9)。 図表9 eHealth Center施設の外観 (出典)HPE社ホームページ https://www.hpematter.com/issue-no-3-winter-2015/hps-telemedicine-technology-brings-healthcare-india別ウィンドウで開きます eHealth Centerは、低価格で質の高い医療サービスを農村部などの地域の人々に提供するサービスである。eHealth Centerの施設は、医師、医療設備、インターネットアクセス、電気などが不足している地域での利用が想定されており、自動車、鉄道、航空機などでの輸送が可能な可搬性の高い輸送用コンテナに、自給自足できるための発電機や2Mbpsのインターネットアクセスができる環境を構築したうえで、診断機器や電子カルテなどが利用できるワークステーションなどを装備している。患者のデータをアップロードすることで医療記録が作成され、クラウドに保存される。また、現場のスタッフはビデオ会議システムにより検査結果を医師に送って遠隔診断を受けたり、専門家にリアルタイムで意見をあおいだりすることができる。さらに、クラウド技術を活用することによって、それぞれの患者にあわせて診療に関する情報を加工・分析したり、コミュニティにおける健康モニタリングなどを行っている(図表10)。 図表10 eHealth Centerでの診察の様子 (出典)HPE社ホームページ https://www.hpematter.com/issue-no-3-winter-2015/hps-telemedicine-technology-brings-healthcare-india別ウィンドウで開きます eHealth Centerは従来の医療施設を整備するのに比べて3分の1のコストで済むとされているが、十分な選択肢がないような離れた地域にケアを提供することができるということが最も大きなメリットである。 eHealth Centerのさらなる展開をすすめるために、2014年にはインドの医療サービス事業者Narayana Health社 24 との提携がおこなわれた。現在ではインドで40か所のeHealth Centerが展開されており、これまでに78,000人の患者が訪れている。 eHealth Centerはブータンとフィリピンといったインド以外の国にも展開がはじまっており、2016年2月には台風30号「HAIYAN」による被災からの復興が進められているフィリピンのレイテ島タクロバン(Tacloban)に設置された。日本ヒューレット・パッカードでは若手社員の自発的提案により、日本国内での災害被災地、過疎地等へのeHealth Center展開を予定している。 (3)IoTを活用する点滴灌漑農法(Netafim) 国連の将来人口推計 25 によると2050年に世界人口は97.3億人となり、現在よりも20億人以上増加するものと見込まれている。人口の増加と新興国における所得の増加等の影響で食糧需要は高まり、2050年には2005〜2007年平均の1.6倍の食糧が必要になるものと予測されている 26 。一方、食糧生産に不可欠な水資源も2030年には全世界で約40%不足するとの予測もある 27 。現在、水資源の約7割が農業用水に使われているとされており 27 、農業生産における水の使用量を低減していくことが求められてきている(図表11)。 図表11 2030年の水需要と水資源の状況 (出典)The 2030 Water Resources Group“ Charting Our Water Future” 国土の半分以上が砂漠である 28 イスラエルは、比較的降雨が多い地域でも年間降水量が400mm程度と少なく 29 、需要にみあった水の供給量が確保できないこともあり、下水処理水の再利用等、水資源の有効活用に関する取組みが積極的に行われてきた 30 。 農業においても、節水技術に根ざした農業が必要とされ、発展してきている。具体的には、1960年代にイスラエルの研究者によって開発された点滴灌漑法を使った農業である 31 。プラスチック製パイプに空いた小さな穴を通じて、植物の根の近くに直接、水や液体肥料を点滴のようにゆっくり与えるものであり、必要なところにだけ灌水できるため、水や肥料を無駄に使わない。また、必要以上に灌水することによって土壌内の水分や酸素のバランスを損なうこともなくなり、植物の生育が良くなるという効果も得られる。通常の灌漑方法と比較し水の使用量を30〜50%削減でき、また50%の収穫増に繋がるといった効果 32 もあるとされていることから、イスラエルだけではなく、世界的に普及が進んでいる。例えば、メキシコにおけるトウモロコシ栽培での適用例では、通常の灌漑方法と比較して収穫量が27%増加する一方で、水の消費量を66%削減することができた。さらに品質が向上したことから11%高い価格で販売することができている 32 (図表12)。 図表12 メキシコでのトウモロコシ栽培における事例 (出典)Netafim,“ Netafim Sustainability Report 2013” また、必要な水や肥料を作物の状況にあわせてきめ細かく調整して与える点滴灌漑法は、IoTとの親和性も高い。点滴灌漑法の大手メーカーであるイスラエルのNetafim社が提供する最新の点滴灌漑法のシステム(uManage)では、センサーを利用し、天候、土壌、植物等のリアルタイムデータをもとに、水と肥料を最適に調整することができる。同社が提供するセンサーには土壌水分センサー、環境センサー(気温、地温、湿度、日照、風速、風向、降雨量、葉の濡れセンサー)、植物センサー(茎直径、葉の剛性)等がある。これら耕作地に設置したセンサーからのデータは無線を通じてクラウド上に集められ、栽培者はどこからでもリアルタイムに確認できる。集められたデータをもとに土壌水分量等を推計する機能や、栽培者に対し、灌漑をいつ開始したら良いか、いつ止めたらよいか等の助言を行う機能等もある。栽培者はこうした助言や表示されたデータをもとに作物や土壌等の状況を把握した上で、水や肥料の計画を調整し、リモートで実行することができる。同システムを、米国、イスラエル、イタリア、オランダ、ブラジル、フランスで試行したところ水の使用量が30%、肥料の使用量が15%削減された(図表13)。 図表13 uManageシステム (出典)Netafim社資料 将来的には長期の天気予報等の将来に関するパラメータに基づき、例えばどの作物を優先的に取り扱うべきか等の栽培者の判断を支援するといった機能を加えていくことが構想されている。 22 新興国を中心にプリペイドSIMカード利用が主流の国も多く、加入数と実際の携帯電話利用者数(ユニークユーザー数)は一致していない。 23 都市部の人口は全体の27% 24 インド国内19都市で病院を経営する医療サービスグループ 25 United Nations “World Population Prospects, the 2015 Revision” 26 FAO “World Agriculture Towards 2030/2050: The 2012 revision” 27 The 2030 Water Resources Group “Charting Our Water Future” 28 イスラエル大使館 http://itrade.gov.il/japan/agritech-%EF%BC%86-agrivest-2015/ 29 http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_gaikyo/isr.html 30 http://www.maff.go.jp/j/nousin/keityo/mizu_sigen/pdf/panf03_j.pdf 31 http://tokyoeoi.sakura.ne.jp/newtechnihongo.pdf 32 Netafim “Netafim Sustainability Report 2013”