(3)直接効果と間接効果 スマートフォン、ネット広告やネットショッピングを効果的に活用することで、供給と需要とをうまくマッチングさせ、消費者の立場ではニーズの充足や満足度向上、生産者側の立場では販売促進や生産性向上の可能性が考えられる。 ネットショッピングやモバイルコマースの規模感や、品目別・消費者の属性別の現在の傾向を把握するため、スマートフォンを介した個人の消費を促進する効果について、定量的な試算を行った。 スマートフォンの消費に及ぼす影響は大きく2点に分けられる。1点目は、スマートフォンを、商品やサービスの購入手続きや予約を行うための端末として利用することが、消費に及ぼす影響である。いつでもどこでも持ち運ぶことができるスマートフォンであれば、購入を思い立ったときにその場で、ネットショッピングができるという利点がある。また、近年はFelica等の電子決済機能を持つスマートフォンも登場しており、実店舗における決済においてもスマートフォンが活躍している。このように、スマートフォンには注文・決済の利便性を向上させることで、消費を促進する効果があると考えられる。 2点目は、スマートフォンによる情報収集が消費に及ぼす影響である。スマートフォンは、購入前に消費者が商品・サービスについて情報収集を行う端末としても利用される。例えば、ウェブ検索サイト、サービスを提供する企業のウェブサイト、口コミサイト、SNS・ブログ・個人のサイト等を閲覧することにより、商品・サービスに対する需要を喚起する効果があると考えられる。 ここではスマートフォンを介して消費した金額を「直接効果」、スマートフォンによる情報収集がきっかけとなり、消費に結びついた金額を「間接効果」と考え、それぞれについてアンケート結果等を基に試算を行った。 ア スマートフォンを介した消費金額 アンケート結果から、スマホによる消費額の割合、ネットショッピングによる消費額の割合を算出した(図表1-2-3-6)。 図表1-2-3-6 スマホによる消費額の割合 (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 日本においては、ひと月あたりの個人消費額の8%がスマホで、28%がネットショッピングで消費されているという結果となった。 各国で比較すると、ネットショッピングにより消費される金額の割合は、米国(60%)、英国(51%)となり、日本と比べて高い割合を占めることが分かった。一方で、個人消費額におけるスマートフォンによる消費額の割合は、米国は19%となり、英国は9%と日本と近い割合を示した。 品目別 9 に、日本におけるひと月あたりのスマートフォンを介した消費額、ネットショッピングの消費額、それらの割合をみる(図表1-2-3-7)。 図表1-2-3-7 項目別の消費金額の算出結果(日本、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) ネットショッピングの額が大きいのは、旅行・宿泊、ファッションであるが、こうした項目でもスマートフォンによる消費額は小さく、現時点ではパソコン等からの購入が主流であることがわかる。 スマートフォンによる消費額の割合が高い品目には、ゲームソフト及びアミューズメント用チケットがある。ゲームソフトはスマートフォンにインストールして使うケース、アミューズメント用チケットは例えば会場でスマホの画面にQRコードを表示させ入場するケースなどが想定され、どちらもスマートフォンとの親和性が高いと考えられる。 現時点ではスマートフォンの消費額の割合が小さい品目も、スマートフォンの特性を活用し利便性を増すことで、今後利用が伸びる余地があると考えられる。 さらに、ひと月あたりのスマートフォンを介した平均消費金額を年代別に見ると、20代(9,459円)、30代(10,235円)、40代(8,373円)の消費金額が大きくなり、若年層においてスマートフォンを介した消費が多いことが分かった(図表1-2-3-8)。また、年代により、スマートフォンを介して消費する項目に違いがあることも見て取れる(図表1-2-3-9)。特に、20代においては、ファッション、化粧品、書籍・新聞の消費金額が他世代と比較して大きくなっている点が特徴的である。 図表1-2-3-8 年代別の消費金額の算出結果(日本、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 図表1-2-3-9 年代別、項目別のスマートフォンを介した消費金額の算出結果(日本、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 第1節で取り上げたとおり、スマートフォンの保有率は上昇しており、ネットショッピングにおける利用も拡大していると考えられる。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、物販におけるスマートフォン経由の市場規模、スマホ比率ともに増加又は上昇している(図表1-2-3-10)。 図表1-2-3-10 スマートフォン経由の物販市場規模の前年比率 (出典)経済産業省「電子商取引に関する市場調査」 イ スマートフォンによる情報収集の影響 アンケート結果から、スマートフォンからの情報収集がきっかけとなって消費した金額の割合を算出した(図表1-2-3-11)。 図表1-2-3-11 情報収集がきっかけとなり消費した金額の算出結果(各国、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 日本においては、個人消費額の19%がスマートフォンからの情報収集がきっかけとなっているのは個人消費額の19%、タブレットからの情報収集がきっかけとなっているのは個人消費額の3%となった。 各国で比較すると、スマートフォンからの情報収集がきっかけとなり消費した金額の割合は、米国(34%)、英国(23%)となり、タブレットからの情報収集がきっかけとなり消費した金額の割合は、米国(15%)、英国(13%)となった。米国においては、スマートフォンとタブレットの両デバイスからの情報収集が個人消費額の半分程度の消費に貢献している様子が伺える。 日本における、スマートフォンからの情報収集がきっかけとなり、ひと月あたりに消費した金額の平均消費金額を項目別 10 に見ると、項目によって、情報収集の傾向に違いがあることが分かった(図表1-2-3-12)。特に、旅行・宿泊(1,404円)や外食(1,067円)の項目では、スマートフォンによる情報収集消費が頻繁に行われていることが見て取れる。スマートフォンを介した消費金額が最も大きかった「ファッション」は、情報収集の効果は3番目となり、スマートフォンを介して消費した金額が大きい項目と、スマートフォンによる情報収集がきっかけとなり、消費に結びついた金額の大きい項目とは異なると言える。 日本における、スマートフォンからの情報収集がきっかけとなり、ひと月あたりに消費した金額の平均消費金額を項目別(図表1-2-3-12)。特に、旅行・宿泊(1,404円)や外食(1,067円)の項目では、スマートフォンによる情報収集消費が頻繁に行われていることが見て取れる。スマートフォンを介した消費金額が最も大きかった「ファッション」は、情報収集の効果は3番目となり、スマートフォンを介して消費した金額が大きい項目と、スマートフォンによる情報収集がきっかけとなり、消費に結びついた金額の大きい項目とは異なると言える。 図表1-2-3-12 項目別のスマートフォンからの情報収集による消費金額の算出結果(日本、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) さらに、スマートフォンによる情報収集がきっかけとなり、消費に結びついた金額を年代別に見ると、20代(20,468円)、30代(24,027円)、40代(20,848円)の金額が大きくなり、若年層においてスマートフォンによる情報収集が頻繁に行われていることが分かった(図表1-2-3-13)。 図表1-2-3-13 年代別のスマートフォンからの情報収集による消費金額の算出結果(日本、月間) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) ウ インターネット広告による消費促進の例 スマートフォンやタブレットでは、若年層を中心にSNS等の利用時間がPCと比べて長い。消費者視点からのSNS等は、無料で利用できるコミュニケーションツールである一方、運営会社の視点からすると、SNS等をビジネスモデルとして成り立たせているのは、ユーザーの行動履歴を中心としたデータでありそれを用いた広告である。 実際に、SNS上で広告を見て消費行動に移る消費者は多いのではないだろうか。SNS等において、運営会社側では日頃のユーザーの利用動向を通じ個々の趣向を把握している。他方、特定のユーザーにアプローチしたいサービス提供者がいた場合、運営会社を通じて当該サービスに興味を抱くユーザーにターゲットを絞って広告を行うことができる。 テレビのようなマスメディアではなく、SNS等ではOne to One広告が可能となる。さらに、カスタマイズを重ねることで精度を向上させ、運営会社はよりリアルタイムに近い形で供給と需要とのマッチングを行えるようになる(図表1-2-3-14)。 図表1-2-3-14 SNS等のビジネスモデル(両面市場) (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 消費者がSNS等の基本的なサービスを無料で利用できるのには、サービス・商品を知らしめたい企業が間接的に広告費という形で費用を負担しているからだが、両者ともに目的を達成している。このようなWin-Winのビジネスが可能となるのは、データを価値あるものとして有効活用しているからで、運営会社はデータ利活用ビジネスを営んでいるとみなすこともできる 11 。 【インターネット広告による消費促進の事例】 前出(図表1-1-1-11)のとおり、我が国では「LINE」の利用率が圧倒的に高いことから、ここではインターネット広告の代表的な事例としてLINE株式会社(以下「LINE社」)の広告事業を取り上げる。 LINE社の基幹事業は、コミュニケーションサービスでその国内ユーザーの数は6,600万人(2016年度)に上る。このようなコミュニケーション機能を企業からの情報発信として活用できるサービスとして、「LINE公式アカウント」と「LINE@」と呼ばれる広告サービスを提供している。 大企業が広く一般のユーザーとコミュニケーションを取ろうとした場合のツールがLINE公式アカウントで、小規模な企業が既に顧客であるユーザーに同様にアプローチしようとした場合のツールがLINE@である。いずれのサービスにおいても、友達になったLINEユーザーに対して個別に情報発信することが可能である。 両広告サービスの特徴として、プッシュ配信とリアルタイムコミュニケーションが挙げられる。プッシュ配信を行うことで、企業側から友達になってくれたユーザーに対して情報を発信し、企業の商品・サービスを知ってもらうきっかけを与えることができる。また、LINEユーザーは日常的にLINEでコミュニケーションをとっているため、企業が広告を配信した直後にユーザーからの反応が返ってくるというリアルタイムなコミュニケーションを行うことができる。これにより、店舗の空席状況に応じてクーポンを発信し、顧客を集めるような使い方が可能となり、企業からのサービス供給とユーザーの需要をリアルタイムにマッチングさせる効果があるとしている。 同社によれば、両広告サービスを決済サービスであるLINE Payと連携させ、より消費者や企業にとって便利なサービスとすることを目指しているとのことである。 図表1-2-3-15 LINEの広告サービスの概念図 (出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年) 9 アンケートでは、項目別の消費金額とは別に月間消費金額について尋ねているため、項目別の消費金額を足し合わせても、月間消費額とならない点に注意。 10 アンケートでは、項目別の消費金額とは別に月間消費金額について尋ねているため、項目別の消費金額を足し合わせても、月間消費額とならない点に注意。 11 SNS広告市場は拡大を続けている。米国の調査会社であるeMarketerが2015年9月に発表したレポートによると、2015年のSNS広告市場規模は各国合計で251.4億ドルと推計しており、2017年までに410億ドルまで拡大すると予測している。 また、主要国の1人あたりモバイルインターネット広告費を各国比較すると、米国、英国と比較して我が国はモバイル広告費が少なく、今後伸びる余地があると考えられる。