(2)消費者の利益 消費者の利益には、消費者の満足、安心・安全、価格といった短期的な要素もあるが、ここでは中長期的な視点についても触れることとしたい。イノベーションの成果を社会が享受するためには、消費者にも従来の価値観や発想にとらわれず、イノベーションを用いた新サービスのメリットとデメリットを見極め、メリットの大きいサービスを積極的に利用する力が求められる。また、第2節1.でも述べたとおり、新技術のメリットを全面的に享受し大幅な生産性向上や経済成長を実現するには、社会の様々な仕組みの見直しも必要である。 生産性や経済成長がすべてではないとの意見も想定されるが、アメリカの経済学者、ソローが「生産性が全てではないが長期的に全てである」と述べたように、一国の中長期的な豊かさを規定するのは生産性である点には留意が必要と考えられる。 歴史を振り返ると、鉄道、自動車、1990年代頃のICT革命におけるICTなど、汎用技術(General Purpose Technology)といわれている技術は、初期段階においては必ずしも万人に受け入れられるものではなかったが、これらを活用し生産性を向上させられるか否かでそれ以後の地域や国の経済成長は明暗が分かれてきた。示唆的な例として、英国で1865年に制定された「赤旗法」という自動車の交通規制法がある。これは、「自動車は危険である」などの理由で自動車が郊外で走行する際は時速4マイル(6.4km/h)以下,市街で走行する際は時速2マイル(3.2km/h)の速度制限とし、自動車が走る前方を赤旗を持った者が先導し,危険物の接近を知らせなければならないというものであった。この規制のため、同国では自動車のメリットを十分に享受することができず、また自動車産業の発展も他国と比較して遅れたといわれている。 スマートフォンやその関連サービスの普及、これに伴い流通するデータは、供給と需要とを個々にリアルタイムでマッチングさせ、生産性を向上させ経済を成長させるとともに社会を変革させるポテンシャルを有する。スマートフォン、その関連サービス及びデータ流通を企業と消費者とがともに活用し、経済成長や社会の変革を実現に移していくことが期待される。