(2)GPTとして役割の高まる通信インフラ ア 基幹的な汎用技術「GPT」とは何か 持続的な経済成長の主要な原動力が、組織や制度の改革を含む広い意味での「技術進歩」であることは、経済学のコンセンサスとなっている。しかし、歴史を振り返った場合、全ての技術進歩が等しく重要な役割を果たしてきた訳ではない。第1次産業革命(18世紀後半〜19世紀中期)における蒸気機関、第2次産業革命(19世紀後半〜20世紀初頭)における内燃機関と電力のように、社会全体に広く適用可能な基幹的な技術革新がまず存在し、それが様々な分野での応用的な技術進歩を次々と引き起こすことで、持続的な経済全体の成長が実現してきた。このような、様々な用途に応用し得る基幹的な技術のことは汎用技術(GPT:General Purpose Technology)と呼ばれるが、ICTが蒸気機関や内燃機関、電力等に続く現代の汎用技術であるとの見解は、今日では広く支持されている。 図表1-3-3-7 汎用技術(General Purpose Technology)の一覧 (出典)総務省平成27年(2015年)版情報通信白書 イ 通信方式とビジネスモデルの変遷 携帯電話業界の通信方式は、5-10年のわずかな年月の間に世代交代を重ねて現在に至っており、先進国では第四世代移動通信システム(4G)の普及が着実に進む中、2020年代での導入が予定される第五世代移動通信システム(5G)が国内外で話題となる場面が増えている。5Gの特性は、随時レベルアップしてきた超高速だけでなく、多数の機器間の接続や低遅延といった点が挙げられ、4G携帯までの「ヒト」中心の利用よりはむしろ、「モノ」をインターネットで結ぶ技術となることが想定されている。 その一方で、5Gの利用シーンは多岐にわたっており、様々なビジネスモデルが検討されている。4G携帯までであれば、通信事業者が主導で「ヒト」を相手にB2Cを中心としたサービス展開を行ってきており、ビジネスモデルは明快であった。他方の5Gの世界では、通信事業者は業種を問わず多様な会社と提携し、パートナー企業とともにB2B2X(最終顧客は個人の場合もあれば企業の場合もある。)の形態が一般的となるので、無数のビジネスモデルが登場する可能性がある(図表1-3-3-8)。 図表1-3-3-8 転換期にある通信インフラの役割 (出典)総務省「IoT時代のデジタル変革と情報通信業界動向に関する実態調査」(平成29年) ウ 通信業界は他産業の成長を促す存在へ 2017年のMWC主催者は、イベントのメインテーマを「次の要素(THE NEXT ELEMENT)」と設定した。モバイル通信が他のあらゆる産業が成長、変革するための「次の要素」になる説明されていた。世界の通信業界の目線は、新たな成長に向け他の産業界に向けられている。 通信業界と通信インフラの役割変化の萌芽は、3年前に遡る。MWCのテーマは、2014年が「次の何かを創造(CREATING WHAT’S NEXT)」、2015年が「イノベーションの最先端(THE EDGE OF INNOVATION)」、2016年が「モバイルはあらゆるものに(MOBILE IS EVERYTHING)」と変遷してきたが、2014年から通信網の仮想化によるIoT導入が意識されていた。2015年には5Gで経済成長をとうたわれ、2016年にはIoTのための5GやLPWAといった新技術の活用をという考え方が世界的に共有されるようになった。 過去3年間の技術開発と議論を経て、IoTの中身は進化してきた。IoTを単に小さなセンサーからの情報収集手段とするのではなく、例えばカメラを設置し画像認識技術を活用するなど、大きなデータを扱うソリューションとして捉えるようになった。こうした利用シーンに対応するための新たな通信技術として、LPWAと5Gが位置付けられている。 図表1-3-3-9 LoRaアライアンスのLPWA技術の展示と米ベライゾン社の5Gロードマップ (出典)総務省「IoT時代のデジタル変革と情報通信業界動向に関する実態調査」(平成29年)