1 ICTによる付加価値増加 (1)産業の構造変化とイノベーションの重要性 前節で取り上げたとおり、1994年以降2015年まで米国では概ね持続的にGDPが増加傾向にあった一方、我が国では横ばいないし微増にとどまった。両国の付加価値を増加させる力に差があったことがうかがわれる。これについては、1990年代、米国ではICTによって需要の伸びが大きい新たな財が生まれた一方、日本ではICTが消費ではなく主に投資を目的としたものであったこと2、供給側でICTを導入したものの、業務及び組織の見直しや人材の再訓練など様々な仕組みの見直しが進まなかったこと3などが指摘されている。 さらに、1990年代以降ICTが企業内、産業組織(各産業内)、産業構造(各産業間)それぞれのレベルにおいて従来の垣根を越え活用されるようになり、コミュニケーションコストや探索コストが下がったことで、従来の固定的な取引関係に関わらず分業・協業が進んだ結果、多様な組合せが可能となってきている。 「多様な組合せ」は「新たな結合」とも解釈可能であり、古くは経済学者のシュンペーターが既存の技術・資源・労働力などを従来とは異なる方法で新結合することをイノベーションと定義したこととも関連する。最近では、イノベーションは、OECDとEurostat(欧州委員会統計総局)が合同で策定した国際標準(オスロ・マニュアル)において、4分類されている。それらは、@プロダクト・イノベーション(新しいまたは大幅に改善した製品・サービス)、Aプロセス・イノベーション、B組織イノベーション、Cマーケティング・イノベーションである(図表1-4-1-1)4。分業・協業が進む昨今、改めてイノベーション、特に新結合の意義は高まっていると言える。 図表1-4-1-1 OECD「オスロ・マニュアル」のイノベーションの4類型 (出典)文部科学省 科学技術・学術政策研究所「第3回全国イノベーション調査報告」(2014) http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/2489 2 篠ア彰彦『情報技術革新の経済効果』日本評論社(2003)P.209 3 前節脚注14参照。 4 文部科学省 科学技術・学術政策研究所「第4回全国イノベーション調査統計報告」P49-56