(2)クラウドサービスの効果と課題 企業がクラウドサービスを利用する効果として、@システム構築の迅速さ・拡張の容易さ、A初期費用・運用費用の削減、B可用性の向上、C利便性の向上という4点が例として挙げられる(図表3-3-2-2)。企業がクラウドサービスを利用する場合、主に@の効果を目的とする場合は、売上等アウトプットの増加に資する「攻め」のICT投資と言える。一方で主にA、B、Cの効果を目的とする場合は、コスト削減や既存システムの性能向上に資する「守り」のICT投資と言える6。 図表3-3-2-2 企業がクラウドサービスを利用する効果の例 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) 従来、一定規模以上の企業は情報システムに投資をしてサービス基盤を整備するのが一般的であり、一方で資金力が十分でない企業は情報システムを業務に利活用することが困難であった。全体の設備投資額に占めるソフトウェア投資比率を見ると、大企業が10%程度であるのに対し、中小企業では4%程度と、大企業の方がソフトウェア投資割合は高い(図表3-3-2-3)。 図表3-3-2-3 企業のICT投資の推移 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) (財務省「法人企業統計」より作成) クラウドサービスを利用することにより初期投資や運用投資を削減する効果がある。そのため、中小企業やスタートアップにとって、事業を行う際のヒトやカネの面での投資のハードルが大きく下がっている。このことから、これまで費用面で情報システムに投資が難しかった中小企業やスタートアップにおいても情報システムの導入が進むこととともに、大企業においても新事業への参入や新製品・サービスの開発が容易になることが期待されている。 企業におけるクラウドサービスの利用には前述のような効果がある一方で、課題も存在する。例として、@セキュリティの担保、A改修コスト・通信コストの増加、Bカスタマイズ性の不足の3点が挙げられる(図表3-3-2-4、図表3-3-2-2)。 図表3-3-2-4 企業がクラウドサービスを利用する課題の例 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) 以降では本項で述べてきたクラウドサービスの効果や課題に対する認識について、企業向け国際アンケート調査の結果を確認する。クラウドサービス導入の効果を確認したところ、回答者全体では「システムの拡張性が高い」、「迅速にシステムが変更できる」などの回答率が高い。一方で日本企業はコストの安さに関する回答率が最も高くなっており、プロダクトに資する項目の回答率が諸外国と比して低くなっている(図表3-3-2-5)。 図表3-3-2-5 クラウドサービス導入の効果 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) クラウドサービス未導入者に対してクラウドサービスの課題に対する認識を聞いたところ、日本企業においては「課題がわからない」という回答が諸外国と比較して大きな割合を占めている。我が国企業においてクラウドサービスの導入が進まない背景には明確な課題が認識されているわけではなく、どのような課題があるかも認識されていない状況にあることが示唆される(図表3-3-2-6)。 図表3-3-2-6 クラウドサービスに対する課題の認識状況(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) クラウドサービス未導入者が認識している課題の内容としては、全調査対象国においてセキュリティの担保に関する項目の回答率が高くなっている。特に日本企業においては他の項目と比較してセキュリティの不安に対する回答率が高く、API公開と同様にセキュリティ面への不安は依然強いことがわかる(図表3-3-2-7)。 図表3-3-2-7 クラウドサービスの導入に対する課題の内容 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) 6 ここでは便宜上このように分類しているが、例えば新規事業の立ち上げのため初期投資が少ないクラウドサービスを利用するという場合もあるため、必ずしもA、B、Cの効果を目的とするから「守りのICT投資」と判断することはできないことには留意が必要である。