(2)ミッテルシュタント・デジタルの動向 ドイツにおける産業構造の特徴として、「ミッテルシュタント」と呼ばれる中小企業が大多数を占めることが挙げられる。ドイツ国内企業全体のうち中小企業の割合は99.6%に達する。 中小企業のデジタル化推進を目的とした公的支援の一つとして、ミッテルシュタント・デジタルがある。ミッテルシュタント・デジタルとはドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)が支援する助成イニシアチブ(プロジェクト)の名称であり、研究・コンサルティング機関であるWIK GmbH9(インフラストラクチャー及びコミュニケーション・サービス科学研究所)がBMWiの委託を受け、同イニシアチブの評価及び学術的指導を行っている。 中小企業が自らデジタル化を促進することは困難であり、中小企業には自社の設備やサービスをどうデジタル化と結びつけられるかについて、より積極的に施策を練ってもらうために、まずデジタル化の可能性について情報を提供することが大切である。情報提供を含む中小企業向けの無料のデジタル化支援業務を行う窓口となっているのは、国内23カ所に設置されたミッテルシュタント4.0研究教育拠点である。ミッテルシュタント・デジタルは、既に5万社ほどの中小企業と接触している。 ミッテルシュタント・デジタルについて、その運営機関であるWIK GmbHの関係者にインタビューを行った。 【インタビュー】 ミッテルシュタント・デジタル(運営:WIK GmbH) Head of Department Communications and Innovation (通信・イノベーション部門 責任者)マーティン・ルンドボリ氏(左) Economist Communications and Innovation (通信・イノベーション部門 エコノミスト)クリスティアン・メルケル氏(右) ミッテルシュタント・デジタルは、中小企業にデジタル化を推進し、競争力強化を目的としたイニシアチブで、ドイツ連邦経済エネルギー省の「業務プロセスのデジタル化のための中小企業デジタル戦略」の一環として支援を受け、3つの推進イニシアチブ(ミッテルシュタント4.0、中小企業のためのユーザビリティ、eスタンダード)で構成されている。私たちはWIK GmbH内の専門家5人のチームで、ミッテルシュタント・デジタルとして、同イニシアチブ4.0成功のための学術的指導、評価、広報を担当している。 ミッテルシュタント・デジタルが中小企業向けに特化したイニシアチブであることがポイントで、中小企業経営者に分かりやすい言葉で彼らと対面し、商工会議所や各地の経済団体など既存のネットワークを駆使しながら情報を発信している。中小企業をサポートするのに、言葉は特に重要であり、理解を進められるように可能な限り簡単な言葉を選ぶようにしている。新しい技術が良いものだと解ってもらえれば、彼らはビジネスチャンスのためにデジタル化に邁進する。支援対象となる中小企業は、業務のデジタル化を始めようとしているか、または始めたばかりという企業。問合せは年々増えている。 インダストリー4.0だけでなくデジタル化全般について、中小企業の中にも世界でもトップクラスのデジタル化への取組をしている企業があるが、それらの企業はまだ少数であると感じている。多くの企業はようやく取組み始めたところか、まだスタートできていない。また、大半の中小企業が全くデジタル化戦略を持っていないという現状もあり、私たちにはやるべきことがまだまだたくさんある。 デジタル化に向けた問題はいくつかあるが、中でも一番大きな問題は、専門的な人材の不足である。中小企業の多くが大都市ではなく地方にあることも、インターネット接続の欠如や人のリソース不足の観点からデジタル化を遅らせる要因になる。もう一つの問題として時間・資金・人のリソースの問題が挙げられる。日々の業務で手一杯という状況にあることが多いが、だからこそ、全てを一度にではなく本当に小さなことからスタートできるということを伝えていく必要がある。最後に経営者や従業員の意識改革も急務である。 9 Wissenschaftliches Institut für Infrastruktur und Kommunikationsdienste の略。WIK GmbH説明資料:http://www.wik.org/fileadmin/Sonstige_Dateien/Unternehmenspraesentation_englisch.pdf