令和元年版 情報通信白書のポイント ■構成 第1部 特集: 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0 第1章:ICTとデジタル経済はどのように進化してきたのか 主に平成時代を中心に、ICTのサービス・技術、産業、グローバル経済がどのように進化・変化したのかについて、課題を示しつつ振り返る。 ICT分野の主要製品・サービスの市場規模やICT投資の状況のほか、ICTの新たな潮流(デジタル・プラットフォーマー、AI、サイバーセキュリティ)等を示す。 インターネットの普及によるメディア環境の変化や、「世論の二極化」「ネット炎上」等に関する議論の状況を整理する。 第2章:Society 5.0が真価を発揮するために何が必要か デジタル経済の特質を示した上で、デジタル経済の進化の先にあるSociety 5.0を展望する。 デジタル経済とGDPや格差を巡る議論の状況を整理する。 Society 5.0が真価を発揮するために我が国において必要となる改革について提示する。 デジタル経済の進化の中での地方のチャンスについて展望する。 ICTを活用した新たな働き方等、人間とICTの新たな関係について分析する。 第2部 基本データと政策動向 第3章:ICT分野の基本データ 総務省実施調査である情報通信業基本調査や通信利用動向調査等の結果を中心に、我が国ICT産業の市場規模、雇用者数等の動向、ICTサービスの利用動向を示すデータを幅広く紹介。 第4章:ICT政策の動向 我が国のICT政策の最新動向を、電気通信事業、電波、放送、利活用、研究開発、国際戦略等の分野別に、総務省の取組を中心に紹介。 第1章 ICTとデジタル経済はどのように進化してきたのか (1)ICT サービスの進化と企業のICT 利用の変化 平成時代は、携帯電話とインターネットが広く普及。端末売切制の導入(1994年)等の制度改革が普及を促進。 我が国企業のICT利用については、昭和時代には世界に先駆けたオンラインシステムの構築といった先進的な利用があったものの、平成時代はICT投資が停滞(@)。米国や欧州主要国と比較しても低い伸びにとどまっている(A)。 この背景の一つとして、1980年代末から1990年代にかけて、企業において情報システムの構築等はコア業務でないとして外部委託が進んだことが挙げられる。これにより、我が国ではSIer(エスアイヤー)と呼ばれるICT企業による受託開発中心の情報システム構築(B)という独特の構造が形成され、特に非製造業において業務改革等を伴わないICTの導入が十分な効果を発揮できず、そのことが企業のICT投資を積極的なものにしなかった可能性がある。 @我が国におけるICT投資額の推移 (出典)内閣府国民経済計算を基に作成 A各国のICT投資額の推移の比較 (出典)OECD Statを基に作成 Bソフトウェア導入の内訳 (出典)総務省・経済産業省(2019)「平成30年情報通信業基本調査」 (出典)米国商務省 (2)ICT産業の変化 電気通信事業は、1985年の通信自由化以降、様々な事業者による活発な競争を通じて大きく発展。通信機器の設計・製造を行うメーカーがコンピューター分野にも進出するといった形でICT製造産業も発展。 ICT関連機器の生産額・輸出額は増加を続け、「電子立国」と称されるまでになったものの、1985年以降輸出の増加が減速。2000年代に入ってからは生産・輸出共に減少傾向に転じ、2013年に輸出額と輸入額が逆転(@)。うち通信機器をみると、1997年をピークに生産が減少し、2000年代後半からはスマートフォンの普及に伴い輸入が急増(A)。 このような変化の背景としては、(1)円高を背景とする生産拠点の海外移転、(2)インターネットの普及による国産交換機の海外産ルータ等への代替に加え、(3)国内の安定顧客(通信事業者)の存在が通信機器の海外展開を消極化させる方向に働いたこと、(4)自前主義によりグローバルな分業のメリットを活かせなかったこと、が指摘されている。 同時に、我が国では米国のデジタル・プラットフォーマーのようにグローバルな存在感を持つICT企業も出てきていない。 @ICT関連機器※の生産・輸出入等の推移 ※民生用電子機器、産業用電子機器、電子部品・デバイスを指す(出典)経済産業省機械統計、財務省貿易統計 A通信機器の生産・輸出入の推移 (出典)経済産業省機械統計、財務省貿易統計 (3)インターネットとマスメディアの関係 2000年以降、テレビの視聴時間は全体で緩やかに減少。他方、インターネットの利用時間は大幅に増加し、特に20代ではテレビ視聴時間と逆転(@)。 他方、20代も含め、マスメディアへの信頼度はインターネットへの信頼度と比べて相対的に高い状況(A)。 インターネット上での「炎上」の認知経路としてマスメディア経由が多い(B)等、インターネットとマスメディアは相互に作用しながら併存している状況。 インターネットでは、「自分に近い意見に偏って接する(「エコーチェンバー」「フィルターバブル」)ため、世論の二極化が進んでいる」という議論があるが、ネットメディアはむしろ人々を穏健化させるとの研究結果もある。 @テレビとネットの利用時間の推移(平日一日当たり) (出典)橋元良明(2016)『日本人の情報行動2015』他 Aメディア別の信頼度 (出典)総務省(2018)「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 Bネット上での「炎上」の確認経路 (出典)吉野ヒロ子(2016)「国内における「炎上」現象の展開と現状」 (4)ICTの新たな潮流 米国GAFA、中国BATに代表されるデジタル・プラットフォーマーは、個人・企業に時間・場所・規模の制約を超えた活動を可能にしており、グローバルな規模でデジタル経済そのものを機能させる舞台を提供。このことに加え、ネットワーク効果、インターネット上のデータの収集・利用が雪だるま式に作用することにより成長(@)。 人工知能(AI)については、このようなデジタル・プラットフォーマー等が、基盤となる様々なツールをオープンソースやクラウド等により提供しているため、開発・利用が容易になってきていると同時に、これらデジタル・プラットフォーマーに大きく依存するエコシステムを形成しつつある(A)。 デジタル・プラットフォーマーはリアルの世界にも進出しており、今後リアルの世界での動向が重要となる可能性がある。 また、IoTの普及により、サイバーセキュリティの影響がリアルの世界に及ぶことが想定され、この点の対応が重要となる。 @米国・中国のデジタル・プラットフォーマーの売上高・営業利益の推移 (出典)各社決算資料 Aデジタル・プラットフォーマー等によるAI開発・利用の基盤となるツール提供 第2章 Society 5.0が真価を発揮するために何が必要か (1)デジタル経済の特質とデジタル・トランスフォーメーション デジタル経済においては、データが価値創出の源泉となるとともに、ICTが経済活動の根本となるコスト構造を変革。 時間・場所の制約を超えた活動を可能とする「市場の拡大化」が進むとともに、規模の制約を超えてニッチ市場を成立させるという「市場の細粒化」も進んでいる。 ICTのもたらす新たなコスト構造は、企業の形の変革も求めていく。 このような中で、新たなコスト構造に適したビジネスモデルを構築したICT企業があらゆる産業に進出し、従来のビジネスモデルを成り立たなくさせる「デジタル・ディスラプション」(デジタルによる破壊)も引き起こしている(@)。 あらゆる産業の伝統的なプレイヤーは、このような変化に対応するため、ICTを事業のコアと位置付け、ICTと一体化することでビジネスモデル自体を変革する「デジタル・トランスフォーメーション」が必要となっている(A)。 @企業におけるデジタル化の影響 (出典)日本情報システム・ユーザー協会、野村総合研究所(2019)「デジタル化の取り組みに関する調査」 A変化に対応するためのデジタル・トランスフォーメーション (2)デジタル経済の進化がもたらす社会 リーマンショックの後、先進国に共通してGDP成長が停滞しており、ICTの経済成長への効果に懐疑的な「技術悲観論」も出てきている。 また、無料サービスやシェアリング・エコノミー等が広まる中で、GDPという指標の有効性や、技術的な捕捉という課題を巡る議論が行われている。 更に、ICTは特に先進国の中間層の雇用や分配に影響し(@)、国内での格差につながっているという見方もある。 しかしながら、過去の重要な技術(電力等)においても、効果の出現には補完的な改革が必要であったため、タイムラグが生じていた。 ICTについても、補完的な改革を行うことで、デジタル経済の進化の先にSociety 5.0を実現し、SDGsへの貢献等、単なる経済発展にとどまらない社会的課題の解決を実現することが可能(A)。 @世界の労働分配率の変化(1991〜2014) (出典)Dao, M.C.ほか(2017)「Why Is Labor Receiving a Smaller Share of Global Income?」 Aデジタル化によるSDGsへの貢献(イメージ) (出典)総務省(2019)「デジタル変革時代のICTグローバル戦略懇談会」資料 (3)我が国において必要となる改革 企業においては、デジタル・トランスフォーメーションを進めていくため、これまでコア業務でないとして外部委託の対象としてきたICTをコア業務に位置付けるとともに、情報システム部門に加え、事業部門がより重要な役割を果たすことが求められる(@)。その中で、ICT企業側のみならずユーザー企業側におけるICT人材の充実も必要。 また、ビジネスモデルの変革に当たり、自前主義を脱してスタートアップ企業等との協調によるオープン・イノベーションを行うことが求められる。 我が国においては、スタートアップ企業の「出口」が株式公開(IPO)に偏重しており(A)、大企業等によるM&Aの活性化は、個別のスタートアップ企業の支援につながるのみならず、起業を巡るエコシステム自体を変える可能性がある。 テレワーク等、時間・場所の制約を超えるデジタル経済に即した働き方改革を推進していく必要がある(B)。 @ICTの位置付けの転換 Aスタートアップ企業の「出口」の日米比較 (出典)ベンチャーエンタープライズセンター(2017)「ベンチャー白書」 Bテレワークに関する状況 (出典)総務省(2019)平成30年通信利用動向調査 (4)地方のチャンス/人間とICTの新たな関係 デジタル経済の中で、ICTの活用による取引先の多様化・商圏の拡大、遠隔地での仕事の受注、機械による人手不足の補完等が可能となっていることは、地方にとってのチャンスとなる。 このチャンスをつかむためには、ICTインフラの整備やデータの活用の取組が重要。特に、5GはIoTのインフラとなり、暮らしや産業、医療、災害対応等のあらゆる分野において活用することで、地方の課題解決が期待される(@)。 また、地方独自のニッチな「売り」「強み」「ブランド」が海外からも発見されるようになり、マーケットが成立すること等を踏まえ、このような魅力を一層磨きつつ、新たな連携相手を開拓することにより、更に潜在能力を発揮することが可能。 AI等の新たなICTを、人間が「できること」を代替して雇用を奪うものと捉えるのではなく、人間の様々な能力を「拡張」(手足の機能、視覚・聴覚、理解・習得能力等を向上)する(A)ことで、「できること」を強化するものと捉える視点が重要。 @地方における5Gの活用による課題解決 AICTによる人間の「拡張」 第3章 ICT分野の基本データ ・情報通信産業の国内生産額 (2017年、名目) 97.5兆円全産業の9.7% ・情報通信産業の雇用者数 (2017年) 399万人 全産業の5.8% ・実質GDP成長率に対する情報通信産業の寄与率 (2012〜17年の年平均) 29% ・我が国の情報化投資 (2017年、実質(2011年価格)) 12.6兆円 民間企業設備投資の 15.1% ・ICT財・サービスの貿易額 (2017年、名目) 輸入12.7兆円 輸出9.0兆円 ・情報通信産業の研究費 (2017年度) 3.7兆円 企業研究費の26.9% ・情報通信産業の研究者数 (2017年度) 17.1万人 企業研究者の34.3% ・情報通信業の労働生産性 (2017年度) 1,357.4万円 ・我が国のコンテンツ市場の規模 (2017年) 11.8兆円 ・我が国の放送コンテンツ海外輸出額 (2017年度) 444.5億円 ・固定電話の保有率(世帯) (2018年) 64.5% ・スマートフォン保有率(個人) (2018年) 64.7% ・インターネット利用率(個人) (2018年) 79.8% ・SNS利用状況(個人) (2018年) 60.0% ・クラウドサービスの利用状況 (一部でも利用している企業の割合、2018年) 58.7% ・IoT・AIの導入状況 (導入している割合、2018年) 12.1% ・固定系ブロードバンドの契約数 (2018年度末) 4,025万 契約 ・移動系通信の契約数 (2018年度末) 1億8,045万 契約 ・我が国におけるインターネットトラフィック (2018年11月) 約11.0Tbps ・放送サービスの加入者数 (2017年度末) 7,933.1万件 ・テレビ(リアルタイム)視聴時間 (2018年度、平日1日あたり) 157分 ・インターネット利用時間 (2018年度、平日1日あたり) 112分