(3)3つ目のキーワード:取引費用 あらゆる経済活動には、複数の主体間のやり取りに関連する様々なコスト(=取引費用)が発生する 自給自足の経済でなければ、あらゆる経済活動は、複数の主体のやり取りを通じて行われる。例えば、モノを生産し、そのモノを欲しい人が存在すれば、両者は売買というやり取りを行う。また、モノを生産するに当たり、他の誰かから様々な原材料を調達したり、他の人に作業を分担してもらったりということを行う。このような複数の主体間でのやり取りには様々なコストが生じ、これを総称して「取引費用」という。 例えば、Aさんが持っている洗濯機の調子が悪く、新しい洗濯機が欲しいというケースを想定する。Aさんには、@ どの洗濯機が良いかを調べるためのコスト、A 欲しい洗濯機がどこで売っているかを調べるコスト、B 価格の安さやアフターサービスの良さ等を踏まえてどこで買うのが良いかを調べるコスト、C 店に出向くコスト、D 店員と価格や条件を交渉するコスト、E 新しい洗濯機が届くかどうか確認するコストといったものが発生する7(図表2-1-1-3)。 図表2-1-1-3 取引費用の例 (出典)総務省(2019)「デジタル経済の将来像に関する調査研究」 これらが取引費用であり、大別して、「相手を探す費用」(@〜B)、「相手と交渉する費用」(C〜D)、「相手との取決めを執行する費用」(E)である。 ICTは、取引費用を引き下げる ICTは、これらのコストすなわち取引費用を引き下げることになる。先の洗濯機の例でいえば、インターネットで検索して探せば、@〜Bのようなコストは大幅に安くなる。また、インターネット上での注文を行えば、Cのコストは不要となり、ネットオークションであればDのコストが安くなることもあるかもしれない。更に、インターネット上で配送状況の確認を行えば、Eのコストも安くなることになる。 これらは、前述のあらゆる情報がデジタルデータとなり、限界費用がほぼゼロで複製・伝達されることにより可能となっている。@〜Eのような取引費用には、情報のやり取りに関するコストが含まれるためである8。すなわち、デジタルデータに関する限界費用がほぼゼロという仕組みの中で、情報のやり取りに関するコストが大幅に下がることで、取引費用を引き下げることとなる。 7 ここでの「コスト」には、時間的なコストも含むが、要した時間を使えば出来たはずの利益を生む活動ができなかったという、いわゆる機会費用の考え方が重要である。 8 取引を行う複数の当事者間において、取引の対象となるモノやサービスの質についての情報に差があるという「情報の非対称性」があるため、情報のやり取りが必要となる。