(3)Society 5.0の真価が発揮された社会の姿 デジタル経済の進化の先にあるSociety 5.0 デジタル経済の進化は、どのような社会を実現するのだろうか。その一つのコンセプトが、我が国が提唱するSociety 5.0である。 Society 5.0とは、サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会である。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)の次に来る社会という意味が込められている。当初は、第5期科学技術基本計画において打ち出されたキャッチフレーズであったが、今や研究開発の目標を超えて、政府としての社会目標となっている35。 Society 5.0の真価は、ICTが現実空間の様々なものを個別に高度化する部分最適ではなく、ICTと現実空間が溶け合い、ICTによるつながりを活かすことで、社会の全体最適を実現する点にあるといえる。そして、このことを通じ、単なる経済発展にとどまらない社会的課題の解決を実現しようとするものである。前述の「技術悲観論」では、ICTは閉ざされた領域に限定されたイノベーションであるという主張が行われているが、Society 5.0は、現実空間との融合による全体最適のイノベーションを目指すものであり、「技術悲観論」への挑戦でもあるといえよう。そして、Society 5.0が真価を発揮する時代においては、デジタル経済は「経済」そのものとなるだろう36。 デジタル化によるSociety 5.0の実現はSDGsにも貢献する Society 5.0の実現による社会的課題の解決は、国際連合が掲げるSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)の達成にも貢献することが期待される37。SDGsとは、国際連合が2015年に採択した2016年から2030年までの国際目標38であり、持続可能な世界を実現するための17のゴールと169のターゲットを掲げている。 総務省は、2018年12月より、「デジタル変革時代のICTグローバル戦略懇談会」を開催し、その中でデジタル化によるSDGsへの貢献イメージを整理している。 図表2-2-2-5 デジタル化によるSDGsへの貢献イメージ (出典)総務省「デジタル変革時代のICTグローバル戦略懇談会」資料 Society 5.0が真価を発揮するために必要な改革は何か 前述の過去の汎用技術の教訓を踏まえると、ICTについても、補完的なイノベーションとなる改革を伴わなければ十分な効果を生み出せず、Society 5.0の真価の発揮が困難となることになる。逆に、必要な改革を怠った結果、他国において順調にICTの効果が発現し、そのことが生産性や産業の競争力に影響する場合、我が国は国際的な競争の中で厳しい立場となり、様々な社会的課題が新たに発生していくおそれがある。 それでは、我が国において必要となるそのような改革とは、どのようなものになるのだろうか。この点については、第3節で詳しく述べる。 35 同じ目標を指向するコンセプトとして、産業に着目した「第4次産業革命」がある。 36 Bukht and Heeks(2017)では、デジタル化が可能とする経済活動を「デジタル経済」とするのであれば、サービスや製造、さらには一次生産までもが一層ICTに基づくものとなるにつれ、「デジタル経済」は単なる「経済」になっていくとしている。 37 経団連においても、「Society 5.0 for SDGs」というコンセプトを掲げている。(http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/095_honbun.pdf) 38 2001年に採択したミレニアム開発目標(MDGs)の後継という位置付けである。